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17話

 俺達は洞窟の外を目指して、仕掛けを担ぎながら歩いている。洞窟の入り口が見える頃には周囲には月明りが満ち溢れた。僅かに俺は目を細めてしまう。それほどに洞窟は薄暗かったのだ。光の先には鎧を着用したおっさんが待ち構えていた。そう門番だ。


 俺達の事を確認した門番が少し不審がっていたが、俺達の持つ大きな荷物を見て何処か納得した表情で俺達に声を掛けてくる。


「お疲れさん、汚れ仕事大変だったな」

「あぁ、ありがとう。これで仕事は終わりさ」


 バイフォンは入る時と同様に対応してくれた。そして門番はまるで愚痴でも言う様に口を開く。


「殺されたガキには悪い事したと思ってるぜ。今までで最低の仕事だ。将軍の下らない命令の為に何で俺達がこんな気分にならなきゃなんねえんだ」


 その言葉を聞いたバイフォンはゆっくりと歩きながら、門番の肩の上に手を乗せて、


「仕方ねえさ。これが俺達の仕事さ」


 バイフォンは門番に背中を見せながら軽く片手で手を振りそのまま通り過ぎてしまった。俺達は慌ててその後をついていくのであった。


工作に使った証拠は残さない。洞窟から少し離れた場所でヴァイフォンはそう言いだし持ち帰った仕掛けを地面に集め始めた。周りに人気が無い事を確認した俺たちは、火を放ち証拠隠滅を図る。メラメラと燃える炎を眺めていると、疲れからか思考が停止しボーっとし始める。そして俺の脳裏に昔の記憶がよぎる。


それは中学に入って1か月が経った頃の話だ……


「蒼汰みーつけた!」

「か…香織なんでここが分かったんだ? 誰も知らない俺の秘密の場所なのに……」

「蒼汰の事は私、何でも知ってるんだよ」


そう俺が一人でのんびりと昼休みに昼食を取る為に、見つけ出した楽園、そこを香織は嗅ぎ付けて来やがったのだ。ここに来る時は俺は最新の注意を払って移動していた。彼女が誰かに捕まって会話しているスキを見つけた時のみここを使うようにしていただけに、この場所の発覚は晴天の霹靂(へきれき)であった。


そして、俺がどうやって発見されたのかは直ぐに分かる事になる。それは、二人で教室の戻った時だった。一人の女生徒が香織に近づき……


「香織、さっきは急にどうしたの? なんか蒼汰の匂いがするとか訳の分からない事を言って出て行ったけど……」


その言葉を聞いた俺の顔はさぞかし青かっただろう。そう奴は文字通り嗅ぎ付けていたのだ。あいつならやりかねない。実際俺の楽園に来た直後やたらに鼻をスンスンと動かしていたからだ。そう、奴は中学生にして俺を匂いで見つけるという恐ろしいヤンデレ技能を身に着けていたのであった。


そんな昔の話を炎を見つめて思い出していると、俺は重要な事を忘れていた事に気付く。そう、香水を使わなければならない事を……


 今は香織は錯乱しているから、それ所では無いが、万が一と言う事もある。俺は香水を自らに振り撒き、これで本当の意味で香織からの解放だ。さぁこれから俺の異世界ライフは始まるんだ。非現実で理想の彼女を手に入れる旅がこれから始めると考えるとどこかワクワクしてきた。


「おめぇ、これからどうすんだ? 俺達と来るか?」


ゲイザーから意外な提案があった。このスキンヘッドは中々良い所あるじゃねえか。少し泣きそうになっただろ……


「気持ちはありがたいが、俺にはやらなければならない事(理想の彼女作り)がある。」


 そう……こんな厳ついおっさん達がいては女が寄り付かない。これでは俺の将来設計が狂ってしまうではないか! だがその気持ちは受け取っておくぜ。


「どうやらゲイザーに気に入られたみたいだな。一緒にいかないのは良いが何時でも俺に頼ってくれよ。無料で相談にのってやるぜ!」


バイフォンはニヤリと笑みを浮かべて俺にそう言って来た。やめろ! 惚れてまうやろ。世紀末な顔から繰り出される笑顔に敗北しそうになってしまった。これが……ギャップ萌えか! 


「何時でもお前らを頼らして貰うぜ。さてそろそろ火も消える頃だ。これから俺は別の町へと向かう事にする。師匠としての意見を聞きたいのだが」

「俺から見たらザコすぎてとてもじゃないが一人旅なんてさせたくねぇ。だが依頼主であるおめぇがそう言うなら……これを持っていけ!」


ゲイザーは一つの指輪を俺に手渡した。見た目は木で出来た質素な物だったが、どこか不思議な力を感じた。それにしても指輪か、男に貰うと何か嫌な感じがする物だ。


「それはモンスターに見つかりにくくなる指輪だぁ。それと俺が教えた事はしっかりと実践しろよぉ」

「あぁ、わかってるぜ」

「じゃあもういけよぉ、これ以上おめぇと一緒にいると……」


ゲイザーの瞳はうっすらと湿り始めた。その涙が流れないように必死に堪えている。俺はそのままゲイザーに背を向けて歩き出す。そして俺は片手を上げて、クールに去って行く……


「ソウタ……」


背後からバイフォンの別れを惜しむ声が聞こえてきた。そんな言葉には動じない! 何故ならば今、俺は最高にカッコイイからだ。自分に酔いしれながら俺は前へと進む。これが新たなる人生の始まりだ!


「道はそっちじゃねえぞ、どこ行くんだ」


 バイフォンからのセリフに一瞬全身が氷つく、だが俺は素知らぬ顔で方向転換をして何事も無く歩き出す。しかし失った空気を取り戻す事は俺にはもう出来ないだろう……そんな事を思いながらそそくさと目的の村へと歩き始める。


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