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11話

 ダンジョンに勇者達が探索に出た次の朝、雲一つないいい天気だった。太陽が山から顔を出そうとしており、独特の静けさが辺りに広がっている。町と町を繋ぐ道には行商人どころか、動物すらいなかった。そんな中一人の少年がまるで喜びを全身で表すようにこう叫んだのである。


「自由だぁぁぁぁ! 俺は自由を勝ち取ったんだ!」


 そう俺だ! 一条蒼汰だ。胸に矢が刺さって崖に落ちたはず? そんな訳が無い。確かに崖からは落ちた。だがあれは全て俺の計画に沿って起こった事だ。


 今思い出すだけでも転移させられた次の日の俺は良くやった。あれほど忙しい一日はこの世界に来る前でも無かった。この自由を勝ち得る為に俺は生まれて初めて見せる働きぶりだった。


 そうあれはこの国に転移して次の日の事だ……  


 用心深い俺はダンジョンに潜ると聞いてすぐに情報収集を行った。俺だけ碌な能力が無い事は周知の事実である。国としても余計な予算を使いたくないだろう。そんな事を考えるとダンジョンなんてものは、俺の暗殺を行うには絶好の機会であると容易に想像が出来る。まずは自分に危険が無いか、そして何をするつもりなのか、その2点を調べる必要がある。


 勇者の連れとして融通の利く待遇であった俺は、まず兵士が集まる宿舎へと直行する事にした。そこでフルフェイスの鎧を探し当てて、それを着込む。なぜそんな事をするかって? 俺が直接聞いて、手に入らない情報を手に入れる為だ。


「くせぇ」


 鎧を着こんだ時に思わず俺はそんな声を出してしまった。だって仕方ないだろう臭いんだから。昔一度だけ経験した剣道着の匂いだった。ここの兵士はこんな臭い物を被りながら仕事をしていると考えるとなかなかハードな仕事だなと心の中で思う。


そして俺はザンガール王国の鎧に身を包みながらヘルメットの隙間から周囲の様子を伺いながらウロウロと移動を始める。周囲の様子をしっかりと観察しているとやはりキョロキョロとしていて不審がられていた。やはりそんな兵士には声を掛けられてしまう。


「貴様、何をさっきからウロウロとしておる」

「すみません、私本日ここに初めて配属されたロイドと申します。道に迷ってしまって、厠はどこでありますか?」

「厠? ずいぶん古い言い回しだな。まあ良いそこの角を曲がって真っ直ぐいった所だ」

「ありがとうございました。それでは失礼します」


 どうだ俺は上手く危険を交わして見せただろう。そのままトイレに向かうと、日本と同じ様に個室と立小便をするトイレの2種類があったのだ。俺は迷わず個室に入りその臭いヘルメットを取り外した。ここは情報収集に良いのでは無いかと思い始めたのである。そして俺のその予想はどうやら正解だったようだ。鎧を着込んだ俺は兵士達の噂話を容易に聞くことが出来たからだ。


「あの才能の無い異世界人の話聞いたか?」

「あぁ、明日のダンジョンに罠を仕掛けて殺すって話だろ」

「何も殺さなくても良いよな」

「どうやらゴーガ将軍が、無駄飯喰らいはいらぬと息巻いてたらしいから、それでだろ」

「よくやるよ……謁見の間であんな事があったのにさ」

「あの時ゴーガ将軍は居なかったらしい。だから、あの女勇者の恐ろしさを知らないのさ」

「全く、あの将軍のワガママで死人が出てもしらねえぞ」

「死人ならでるだろ、あの小僧が……はぁぁ、あいつが死んだあとどうなるんだろう」

「やめろ! 言うな俺だって考えたくないんだから」

「ところで罠の配置図は頭に入れたか? この後すぐに着工だぞ」

「やっべ、まだ見てねえわ」


二人の兵士が俺達の明日の予定について話していた。盗み聞きして良かったとその時は思ったね。そして俺は行動にでる。二人がトイレから出ると俺はまるで後に着いて行くように個室から抜け出す。そして偶然を装い二人に声を掛ける。


「すみません! 急遽、応援にくるように隊長から言われたロイドなんですけども、今からする事を教えて貰っても良いでありますか?」

「ん、応援? 俺は聞いてないぞ? お前聞いてるか?」

「いや、聞いてないぞ」

「そうなんですか? でも言われたからには仕事しないと、うちの隊長に怒られるんですけど……」

「仕方ねえな。とりあえずウチの隊に組み込んでやるよ」

「あ…ありがとうございます!」

「しっかり働けよ! あと、あれ? どこいったかな? あった、これだこの地図に設置する罠の場所が書いてあるからしっかり覚えておけよ」

「はい。それで今からどこに行けば良いでありますか?」

「あぁ、その資料に書かれている物を資材保管庫で集めて裏門の前に置いておいてくれ」

「了解であります」


俺はこのバカで優しい兵士達に最高の敬礼をして資材保管庫へと急ぐ。ついでに自分の持っていたノートにこの地図を丸写ししておいた。こんな時の為にノートを隠し持っていて我ながら天才だと思う。


 そしてそのまま俺は資材を運ぶ為に資材保管庫へと向かっていった。だがここで問題が起きる。またもや道が分からないと言う事だ。俺はオドオドしながら周囲を見回し誰かに聞くことにした。そして俺の視線の先には黒い服と白いエプロンで二本の三つ編みが特徴的なメイドさんにくぎ付けだ。そうだ彼女に聞こう。


「すみません、そこのメイドさん」

「はい、何でしょうか?」

「少し道に迷ってしまったんですよ。資材保管庫ってどこにありますか?」

「新人さんね。そこの角を左に曲がって、次の角を右曲がれば資材倉庫がありますよ」

「有難うございます。それではありがとう……」


 会話の途中である事に気付いてしまう。メイドさんの大きすぎる胸にだ。はち切れんばかりのその胸を鷲掴みしたらどれほど気持ちがいいのだろうか? そんな事を考えてしまっている。欲望を抑えろ、今軽率な行動をしてばれてしまえば作戦は水の泡だぞ。そんな風に自分を言い聞かせる。


「きゃっ、何するんですか!」


 だが体は正直だった。知らない間に俺の右手は彼女の胸へと向かっていきしっかりと鷲掴みをしていたのである。そして俺はこの感触を余す事無く堪能していると、ついにメイドが切れてしまう。


「触るなって言ってるんですよ」


 メイドは俺の腕を片腕で払いのけると、後ろを向いたそしてその後、女性とは思えない速度の後ろ回し蹴りが繰り出され俺の頭へとクリーンヒットする。鉄で出来たヘルメットのはずだが彼女の脚力によりぽっこりとへこんでいるのが中からでも分かったのである。そしてそんな威力の蹴りを受けた俺自身が無事な訳でも無く頭から地面に叩きつけられると言う恐ろしい事態になっていたのである。


 だがそれだけでは終わらない。メイドさんは倒れこんだ俺のヘルメットに片足を力強く乗せると、


「女の胸に気安く触ってるんじゃねえよクソが」


 と強い口調で俺を罵り唾を吐きかけ何処かへと去ってしまったのである。その時見せた彼女のゴミを見るような目はしばらく忘れられそうに無い。そんな状況の中、俺はただただ彼女に


「ありがとうございます!」


 と言う事しか出来なかったのである。そして彼女が去ったのを確認すると俺は言われた通り資材倉庫へと向かい、ボーガンや罠の類それに大きな木材を何本も城の入り口へと運び続けた。これしないと変な疑いがかけられると予想されるので真面目にやるのである。


 役目を終えた俺は鎧を脱ぎ捨て、自らの部屋へと帰る事にする。勿論やる事があるからだ。部屋に戻った俺は、金目の物を全て盗み俺の持つカバンの中に押し込めたのである。絵画や陶器類は場所を取るので持っては行けないが、宝石などはナイフでひっぺがえして全て持って行ったのである。勇者はお城の物を全て持って行って良い権利がある。それは昔やってゲームで立証されているのだ。そして王との謁見でどさくさに紛れて返さなかった金と部屋の換金出来そうな物を全て持って悪びれる事も無く俺はそのまま城の外へと出て行ってしまったのである。

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