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ルウラが灰になるまで  作者: 安西 夢吾
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レドは呪われている:1

 いま俺と空との間にある空白を埋めるものは何一つなかった。目に写るのは、ただただ深い青をした空と一面の砂。赫赫たる太陽が背後の頭上から憎たらしいほど照りつけ、反射された光が目を眩ませる。うんざりして目を閉じれば鬱陶しい熱さだけが意識を現実に縫いつける。水なんてどこにもないのに自分の吐息だけが湿り気を帯びて、顔の周りだけがやけに蒸している。吐きそうだ。そう言えば汗をかかなくなってきたかもしれない。ぼろ布と肌が擦れてヒリヒリする。痛い。こんな苦痛から逃げるように、俺は再び目を開けた。強い光に怯えるように、できる限り空だけを見た。

 最初の内は、一日どれだけ歩を進めて、どれだけ近づいたのかを丁寧に数えていた。毎晩寝る間際に、残る旅路が恐ろしいほど長いのに気づいて泣きたくなった。自暴自棄になりかけた。そうしているうちに自分の意志がどんどん磨り減るのが分かった。だから止めた。肩から下げた背嚢には水を詰め込んでいた。砂漠を歩くのだから、それは多くの水を仕舞っていた。前はその重量が俺を狼狽させたのだが、すぐに軽すぎる背嚢が虚しくなった。どれももう、ずいぶん前のことだ。

 俺はいつ、死ぬのだろうか。

 呪われているとしか思えない。ほんの少しの干し肉をかじり、数滴の水と唾液だけで喉の乾きを誤魔化してきた。それだけで日が出ている間は炎天にさらされながらひたすら砂漠を歩くしかない。暫くすると靴のなかに砂がたまって足が持ち上がらなくなる。仕方なく立ち止まり靴をひっくり返すと、気持ち悪いくらい沢山の砂が流れ落ちる。俺は地面に盛り上がった砂を見つめて、ぼーっとする。すぐには歩きたくなかった。でも数分と経たないうちに、今度は背後から死の絶望がひたひたと迫ってくる。歩かなければ、あそこに行かなければ俺は干からびて死んでしまう。こんな状況でいつだって死にたいのに、なぜかその恐怖だけで俺はまた歩き出す。生きる糧も意志も、これ以上ないくらい磨り減っているのに、死なないし死にたくない。こんなことを考えて足を動かしていると、いつの間にか日が落ちていた。

 旅に出るまで、夜がこんなにも暗いのだとは知りもしなかった。月明かりなんて俺の両手すら照らしてくれない。それよりも日中に網膜にひりついた砂漠の光景だけが暗闇のなかで鮮明に映し出される。空気はどんどん冷たくなる。本当はこうしている間も先へ行きたいのだが、この環境がそれを許さない。夜が深まると俺は次第に身体を揺さぶり始める。大きく、そして細かく。全身のすべての神経が鈍くなり、動く自由を奪ってゆく。なにも見えない、聞こえない、感じられない。次に朝が来たときもしかしたら俺は五感を失っているんじゃないかと、何度も怯えた。ここには、なんの飾り付けもないただの俺がいるだけだった。それすらも徐に消えていくようだった。そして必死でぼろ布を手繰り寄せた。俺が砂漠にいることに、妙な安心感を覚えた。

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