ベルトを外す音
カチャカチャカチャッカチャ
金属音がカーテンの向こうで鳴る。
結局また次の服を着るのだから、いちいちベルトなんかしなくていいのに、無駄に几帳面な阿呆である。
「これはどうだ。」
カーテンが勢いよく開くと、中には立ち襟の白のYシャツに、黒の蝶ネクタイをして、ガンクラブ・チェックのブレザーにズボンを着用した異国の王子のような顔立ちの男が立っていた。
褒められたくてうずうずしているのが分かるが、先ほどの服とどう違うか私には検討が付かない。強いて言うなれば、上着の丈と色合いが微妙に違うだろうか。
この阿呆丸出しの王子の後ろには、似たような服が5着ほど吊してあって、彼のドヤ顔をみたのは未だ2回目、阿呆の足下には似たような服がまだ何着か落ちてあって、私はあと何度この似たようなこの阿呆を見ればいいのかと思い、深い溜め息が出た。
しかも、ドヤ顔でカーテンを開けた時に、私が居なければ、この阿呆は顔を真っ赤にして羞恥のあまり泣き崩れ、遅れてきた私に小言を言いつけて、一週間ほど地味な嫌がらせをしてくるに違いないため、私は律儀に阿呆が着換え終わるのをカーテンの前で待ってやっているのだ。なんて優しい奥様であろう。
しかしそのせいで、元来気が長くない私はカーテンの向こうでなるベルトの音に苛々を募らせるばかりなのであった。
喧しくて、ノイローゼになる自分の姿が浮かんだ為、ドヤ顔の阿呆のベルトをカチャカチャと外すことにした。
白昼堂々何をするんだとか、家でもやってくれないのに何故今なんだとか、意味不明な事をほざくのを無視してベルトを外す。そして、一言。
「ベルトもう付けるな。五月蠅い。」
素っ頓狂な顔をしてフリーズした阿呆面の阿呆の肩を押して、次の服をさっさと試着するように促し、カーテンを勢いよく閉めた。
ベルトを外す音
お題提供元「確かに恋だった」