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ロンフェロー伯一行との決闘(二)

 ロンフェロー伯の仲間たちは言われたとおり、馬から下りてすぐにでも襲いかかろうという鋭い眼光を飛ばす。イリアムたちもすかさず馬から下り、いつでも相手をしようという姿勢だ。騎士としての誇りを傷つけられたロンバロンが言った。


 「貴族を追い剥ぎ呼ばわりとは、なかなか穏やかではありませんな。決闘を申し込みますぞ。おれも騎士であなた方も騎士であるのだから、名誉の問題は剣と生命によって解決さるべきであろう」


 「よろしい。こちらもそちらもちょうど四人。一人ずつお相手いたそう」


 こうしてもはや、事態が血を見ずに収拾されることはなくなった。旅を続けられるのはどちらか片方の軍団だけである。


 まず先鋒としてイリアムが勇者の剣を鞘から抜き前に出た。柄から鍔まで色とりどり大小の宝石で装飾され、幅広の刃には魔術式が刻まれている。この術式を持ち主が指先で念を込めてなぞることで、封印されている魔力が一時的に解放されるという仕組みである。


 イリアムに応じる相手の騎士はビカオリ男爵。剣の師範として高名な騎士である。ロンフェロー伯とは異なり、軽快な剣さばきを実現するため鎧と兜は身につけていない。黒い胴着と籠手、すね当てのみが身体を覆う。剣は柄にサファイアが埋め込まれた一世紀前の一品で、切れ味は抜群、これまでに少なからぬ量の血を吸ってきた。


 イリアムは剣を逆手に持ち、刃を下に向けて柄を額に当てた。これは放浪の剣士の決闘前の挨拶である。対してビカオリ男爵は剣を鞘に収めたまま柄に手を当て、膝を少し曲げて応えた。これはビカオリ男爵の生まれた地方における騎士の決闘前挨拶の流儀である。


 それぞれ形式的な挨拶を終え、剣を鞘から抜き払いビカオリ男爵が言った。


 「さて放浪の剣士の格好のお方、お忍びの旅の貴族かはたまた変装した盗賊か、それはわたしの与り知ったことではないが、身にふりかかる火の粉は払わなければならぬのが世の道理、その命頂戴いたす。神に祈りを済ませなされよ」


 「心遣いかたじけない。しかしわたしは盗賊ではなくまた別段貴族の身分に意味を見いだす者でもないから、あくまで一人の放浪の剣士である。わたしの修行のために貴公の息の根を止めること、どうかご容赦願おう」


 「剣に巧みなこのわたしを討つことは、そんなにたやすくないぞ、イリアム殿。では参る!」


 ビカオリ男爵が得意の突きを放ち、戦いの先手を取った。イリアムは半歩下がってそれをいなし、すぐさま上段から反撃を繰り出すが、ビカオリ男爵は素早く体勢を立て直し攻撃直後の隙を狙わせない。


 「わたしの最初の一突きを避けるとはなかなか動ける。ではこれならどうだ」


 長い手を生かした突きの連続技が、イリアムを襲う。肩に胸に、顔に腿に、まるで猫のように俊敏で捉えどころのない攻撃を、イリアムは冷静に対処する。半身になって避け、鍔で受け止め、伸びきった腕を狙って若干の反撃。ビカオリ男爵は右手の籠手を割られ、一瞬剣がぶれた。


 「南無三!」


 「御免!」


 隙を逃さぬイリアムではない。剣のぶれに乗じて放たれた一撃は、ビカオリ男爵の胴着を刺し貫いた。ビカオリ男爵は崩れ落ち、うつ伏せに倒れてしまった。


 「ぐっ……見事な剣の腕前。このような強い剣士に斬り殺されるのであれば何も憂いはないさ。ただただ心残りは郷里の残してきた可愛い妹のことだが」


 「ビカオリ男爵、もし旅の途中に貴公の妹君にお会いする機会があったらば、貴公の騎士としての立派な死に様をお伝えしよう」


 「イリアム殿、かたじけない」


 内蔵を刺され臨終の苦悶を味わう騎士に、イリアムは慈悲の一撃を首筋に与え、冥府へと送ってやった。


 ビカオリ男爵側、イリアム側両方の男たちは立派な決闘の決着に敬意を表した。


 「さてそれでは次に、アロマール・ミンデラ伯爵の子、このわたしジュデ・ミンデラ子爵が男爵の仇をとらせていただこう。わたしは剣よりも魔法が得意という性質たちなのだがそこの学者先生、魔法による決闘はいかがかな」


 次なる決闘相手となることを申し出たミンデラ子爵は、ニンバスを指名して前進した。


 「よろしい」ニンバスは答えた。「わたしは剣も槍も扱わないが氷の技であれば天地に比類無き腕を持っていると自負している者です。父はビュネフェ公爵、子たるわたしは貴族の身分を捨て修行の身。ただニンバスとだけ名乗っております」


 「それは大変結構。先に知らせておかないと不平等だから申し上げるが、わたしの属性は火属性、すなわちニンバス殿の氷とは反対属性。反発しあう魔力のぶつかり合いとなれば、これはもう荒海の怒濤か霊峰の噴火か、力は激しく制御しきれない嵐となってどちらかの命を奪うことになる。死の覚悟をなされよ」


 「もとより決闘となれば死など恐れていられませんからね。わたしは身分を捨てたとはいえ、まだまだ貴族としての気高い気質がこの血に流れているのです。恥を晒して生きながらえるよりかは、まだしも名誉のために死んでいきましょう」


 火トカゲの鱗の貼り付けられた橙色の甲冑に身を包むミンデラ子爵は、腰から剣の代わりに差してある杖を抜き、自分の足下に大きな赤色の魔法陣を出現させた。同時にニンバスも青く光る魔法陣を自分の足を中心にして地面に出現させ、魔術書を開いて臨戦態勢だ。


 「竜の如き炎の激流! Port fan Grutti des rie wiht nnio quearl hoppi rappi his ahi er Hi!」


 「永遠なる氷の障壁! Lotti ani pouri siekd sid kendr Kendde of hori kori dais uci!」


 呪文の詠唱の後、ミンデラ子爵の杖の先端に埋め込まれたルビーから、勢いのすさまじい炎が怒りに狂う竜のように、あるいは雨期に氾濫する大河のように迸り、ニンバスを襲った。それに対してニンバスの青い魔法陣の外周に現れたのは厚い氷壁。まるで難攻不落の城壁とでもいったように、まったく炎を問題にしない。ニンバスの背負う勇者の盾が青白く発光し、魔力の手助けをしたのであった。


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