表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/23

暗黒の儀式と四人の追撃手(四)

 宰相はポルマッキに命じて傭兵たちを地下室へ連れてこさせ、床の転移魔法陣の中央に立たせた。そして暗殺の標的の男たちとその武具についての説明を施し、追跡魔法の必要性を理解させた上で、儀式に参加することの承諾を得た。傭兵たちは皆メントガ人の長老、古き良き闇魔法の伝承者としての老人カロスを知っており、術者、儀式に対する不信が無かったので大変都合が良かった。


 カロスはアザモン僧の遺骨を魔法陣の四方に配置し、詠唱しつつ供物のビン――少女の血、復讐者の怒り、飢餓犬の魂が詰められた――を開け、それぞれを適切なタイミングで混合していく。


 「天地開闢以来、昼の領域の対極に位置している暗黒の空間、これを統治する尊き精霊、あるいは悪魔や魔物、そして物質や霊魂を裏側から操る超越の神々に捧げますは、酒神ですら作ることの出来ない、メントガの民にのみ伝わる暗黒美酒、地を引き裂き海をひっくり返し空を落っことすその味に酔いつつ、何とぞこの哀れな老人及び細腕の傭兵たちに呪いの力をお貸し下され! Orgaminntes hoquavanettel mis xianus rom qui quite spindole ittcyo homo rangei Zellia Masuke non nomon polett chuansa checkecha nisle honvera; onsei mahon, siekew Lin quia et miet sonde oyam Imposenk nose pori poritesuchical mindke Gomen Gomennne hoi!」


 地下室はもくもくと立ち上る黒煙に包まれ、一寸先も見えないほどの夜が支配する。カロスの儀式によって吸い寄せされるようにやってきた闇の神々が、姿こそ見せないものの、ささやき、どよめき、ちょっとした騒ぎを形成し始めた。


 「――なんだこりゃ旨そうな匂いに釣られてやってきてみればカロスの老人がまた懲りなく暗黒の理をこねくり回して楽しんでおるわい。人間によって家畜のように使役されるわれわれ神々ではないが、時にメントガ人の用意する酒や御馳走には耐えがたい魅力を感じるものよ。どうだいほら右や左の同僚の神たちよ、今日は格段に上等な酒の匂いがするじゃないか。乙女の血と極上の憤激の香りがおれを酔わせるわい――」


 「――おうおうどうしたことだ鯨の死骸に群がる蟹や海老のように、われわれ暗黒の神々もはしたなく集い始めておるわ。たとえ神々が蟹に見えたとて、仕方があるまい人間よ、疑いの目でこちらを睨みなさるな、闇の掟は単純明快、抑制しない情欲に、制限加えぬ感情と、我慢を知らない暴虐が、混じり混ざって作り上げる夜の深淵、これを愛することなのだから。ああ神の友たちよ大いにこのカロスが用意した酒を流し込もう、淫猥と放縦と残虐の宴を楽しもうよ――」


 「――おれは虚言を司る神だが、実際のところおれは太陽の主神アザモンの父ピリカランデオモポデオロスカの隠し子の親戚の忌み子の友人の仇敵の娘の恋人の妻が殺した間男の尻の半分の肉を食らった怪鳥シャナクテシャクテの足に寄生した暗黒虫ゴゴトローソドの右目の中の汚水をたくさん金杯に集めて飲み干した英雄コレガノヤーヤーの娘と交わったことのある犬の二十三番目の子の舌をちょん切った廉で処刑された罪人の母親の母親の父親の母親の父親と母親を合わせて一体の人間と成し、そこに猫や虎の毛だの爪だのを繋ぎ合わせて作り出した怪物であるミンチロダメダーンの子孫なのだ。そのために長老カロスが用意した美酒はこのおれの所有であるということを、ここに明確に主張させていただこう。神々の同僚たち、まったくおれに断り無く一滴も飲んではいかんぞよ――」


 「――つまらぬことを言うな虚言の神、飲んでは吐き出し吐き出しては飲み、他の神が飲んで吐き出したのをおれが飲んで吐き出してお前が飲んで吐き出して、それをおれが飲んで吐き出して他の神がまた飲めばいいのだからまったくつまらぬことを言うな虚言の神――」


 満足な数の神々が集ってきた頃合いをはかって、カロスは儀式の最終段階である四人の傭兵への、強力な武具追跡魔法の暗黒加護術式を空に書き出した。暗黒の神々は混合された供物をちびちび舐めて楽しみつつそれを読み、あるいは承諾しあるいはあざ笑う。気の利く神は可能な限り最高の加護を傭兵たちに授けてやり、お調子者の神は宙返りをしたり舌を出したりして宴を盛り上げる。どこからともなく響いてくるのは夜の虫の声――すなわち沈黙と寂寥の旋律――これが地下室の壁に滲み入り、不思議な振動を発生させる。あたかも壁が歌うように、不可解な言語をまくしたてる。


 「Tdaoej seoiaigh sle lsient mottei siesiaq omoomo, seieti, seisoithi Vont iei seo qui qui qui smise ose simierl ayamisiei h rigi poi ineio mibugttin soeijsneai aei nao smiei......」


 これが神々のささやき、どよめき、舞い、カロスの詠唱、宰相の心臓の鼓動、傭兵たちの呼吸の音などと調和して、一種の夢のような感覚空間を作り出した。時間は停止したように思われ、儀式は永遠に継続するかのように感じられる――暗黒の神々と共にある人間の儚い生命が強くエネルギーを得ることで、肉体を捨て、霊魂を改造し、己もまた一個の神の仲間入りをする確信――。


 ――次の瞬間、宰相が不思議な夢見心地からふっと覚めると、驚いたことに先ほどまで地下室を埋め尽くしていた黒煙、闇の神々は跡形もなく消え去っており、傭兵四人もまたその姿をくらましていた。ただ床の転移魔法陣がほんのりと赤く光って浮かび上がり、壁にもたれて座っているカロスがちびちびと余った少女の血を飲んでいる。


 「いったい何が起こったのだ」宰相は動揺してカロスに詰め寄る。「儀式は失敗したのか? この部屋いっぱいにいた怪しい神々はどこへ行った? そしてあの頼もしい傭兵たちは? まさか逃げ出したのではあるまいな」


 カロスは宰相の慌てぶりを明らかに楽しんでいるらしく、ゆっくりと血液を飲み下して、あくびをついてから答えた。


 「何をおっしゃるか、そこの倒れたいくつもの空きビンを見れば神々がこの老人の作った酒に酔いしれていい結果をもたらしてくれたということは明白ではありませんかな。傭兵は強力な武具追跡の魔術とともにパタロンダへ飛び、神々は満足してまた夜の領域へと帰っていきましたわ」


 実際カロスの言う通り、儀式は見事に成功し、傭兵たちは勇者の武具を用意に発見、追跡することの出来る魔導を引っ提げて、パタロンダの地へと転送されたのであった。宰相はまだぼんやりとしている頭を叩きつつ、地下室を歩き回りながら考えごとを始めた。


 「あの四人はいずれも金に糸目をつけず雇った敏腕の暗殺者たちである。いくら勇者の弟子たちとは言え、無傷でこの攻め手たちを追い払うことはまず出来ないだろう。紆余曲折あったが輝かしい勝利と栄光の祝い日は近い。あと三日としない内に最大の妨害者は始末されるのだ。その後はいよいよわたしが皇帝の権力を纂奪し、わたしの正しい信念と理論に基づいた政治が行われることとなる。わたしが権力を掴んだその日こそ、大地におけるもっとも卓越した支配によって可能となる、史上最強の国家が開始される日なのだ――」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ