表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/23

暗黒の儀式と四人の追撃手(二)

 「これ傭兵風情がめったな口をきくもんじゃないぞ」と、ポルマッキが警告する。


 それに対して鼻でふん、と笑いつつ赤いローブの魔女がまくしたてた。


 「口を閉じるのはあんた下男風情の方さね。こちとら武力と金を交換する立派な契約相手、すなわち宰相だろうが何だろうが対等な関係の人間なんだからさ。それにしてもまったく宮廷人というのは分からないものだよ。顔の外側では厳かな表情で皇帝陛下に頭を下げてお追従、『実にその通りでございます陛下』『陛下は神の如き配慮をお持ちの方でございます』『陛下ほどの寛仁な徳を備えた君主というのは他にございません』なんて心にもないことを出任せにぺらぺらと言うものだけども、顔の内側、つまりは人には見せない表情においてはいつでも舌を出してこう言うのさ『こんな暗愚な君主よりかはまだしもわたしの方が適切な政治が出来るだろうに。晩餐も芝居も音楽も、舞踏会も衣装も詩の朗読も、退屈でしょうがない、典雅というものを真に理解しているのはわたしであって、陛下ではない。お世辞を言うのもあんまり楽じゃないぞ!』とね。しかしね、わたしら傭兵というのは腕力で飯を食う人種だから、心底から陛下をお慕いしているんだよ。何故ってそら陛下は武人の中の武人、本当の武人だからねえ。魔女王の放った魔物の軍勢を勇者マホローンとたった二人でやっつけておしまいになった。そしてなんとまあ敵から黄金の冠を受け取られ、玉座を永遠に安泰なものにしなすった。やはり騎士はこうでなくっちゃあ。剣一本で名をあげてしかるべき地位を獲得する――エルゴモン陛下は血統のおかげで皇帝になられたのではなくて、実際にご自分の腕で皇帝になられたのだから本当に立派な君主だよ」


 ポルマッキは自分に投げかけられた侮辱に顔を真っ赤にしたが、宰相は魔女の口からどんどん繰り出されるあまりの饒舌のため、ついには吹き出してしまった。

 

 「それでは君はわたしの仕事から降りるかね? 金払いは悪くないと思うのだが、確かにこの仕事はわたしの計略、陛下の地位を危うくするのに手を貸すものだから」


 赤い魔女はとんでもない、という顔をした。


 「さっき言ったじゃないか、わたしら傭兵稼業の者は力で金を得て生活しているんだからね、金の払いさえしっかりしてもらえば文句はないさ、仕事は受けるよ。皇帝陛下にはそりゃお慕いの気持ちは持ってるけれども、なに、金の払いの良い猊下の方にこそこのわたしの魔力は忠誠を誓うのさね、あくまで、金貨銀貨のためだがね」

 

 「そうか。他の三人はこちらの魔女と同じ考えかね?」


 赤い魔女以外の傭兵たちは厳かに頷いた。


 その後ポルマッキが宰相に、四人の傭兵について詳しい説明を与えた。


 一人目の傭兵、最初に宰相に話しかけた初老の男は、プドルという毒弓使い。凄腕の暗殺者としてその筋では有名な者だということだ。金さえ積まれればどのような身分の者からなされた依頼でも引き受け、今まで殺してきた人間は男も女も数え切れないほどたくさんである。得意なのは暗殺の標的を病死に見せかけて殺す術であり、医者の目を誤魔化し証拠の残らないように仕事を果たすのだという。年齢の割にまだ若々しくがっしりとした体つきを見れば、この男が強力な弓の引き手であることは誰にでも分かる。それに加えて様々な種類の毒の扱いに長けているのだから、なんとも恐ろしい男だ。


 二人目の傭兵、宰相を吹き出させた魔女は、まだ外見は女の若々しさを保っているものの、血液のように真っ赤なローブと巨大な帽子のせいで、いかにも淫猥にして陰惨な魔術使いであるように思われた。一見して抱くそのような印象はまったくこの魔女にそのまま当てはまる。すなわちこの女は、実際に淫猥な黒魔女の祭りに参加し、陰惨な魔導実験を繰り返すような人間なのだ。名はリングミスと言い、元は捨て子であったのだが、魔女の老婆に拾われて各種異端的な魔法を伝授され、優秀な後継者として育った。今ではその育ての親の稼業であった暗殺と調薬を受け継いでいる。扱うのは火属性であり、地獄の業火を管理する神々と危険な契約をして強大な力を分け与えられているという。


 三人目の傭兵、プドルのとなりで静かに目をつむり佇んでいる男は一見貴族風だが、よく観察してみると半透明の両腕を持っている。これはグリムという半分霊魂の肉体の戦士で、暗殺者プドルが仕事の相棒としている男である。一般的な怪我によって手足が切断されたとしても、普通は霊魂として再び手足が生えてくるなどということはありえないが、グリムはどういうわけか生ける肉体と死者の魂を両方所有することに成功している。不気味なほど無口で、何を考えているか分からないような男なので、宰相はこのグリムをとても同じ人間の仲間だとは思えなかった。


 傭兵の四人目は、ユナヒェルという風属性の黒魔女。まだ十四歳(アザモン教徒の少女の結婚が可能となる年齢)にもならないが、殺めてきた人間の数は年齢の倍以上にのぼる。ポルマッキの報告によればこの女は、青年貴族を誘惑して殺し、懐中の金を奪い取って生活している。どこかの怪僧のような手口だが、その並外れた残忍さはさすが黒魔女のものである。いつも哀れな犠牲者は、体中を無惨に切り刻まれた姿で発見されるという。刃のような切れ味の魔法を用いるということらしい。それならばあの剣豪イリアムとも互角に渡り合えるかもしれないな、と宰相は思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ