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イリアムの決意とパタロンダ到着

 フロミデムルとの戦いの後、馬を食われ失ってしまった四人は仕方なく徒歩でパタロンダへの旅を継続することにしたのであるが、道中イリアムは何か思い詰めたような様子である。


 「どうしたのだいったい。慎ましさの徳を身につけた貴公がみだりにものを語らぬのはいつものことであるが、どうにも覇気というものが失われている風だぞ」


 ロンバロンがイリアムを気遣い二、三度声をかけるが、要領を得ない返事が返ってくるのみであった。とうとう日が暮れ、昼と夜が地上の見張り番の交代をしようという時間になって、やっとイリアムは仲間に心中を打ち明けた。


 「わたしは近衛として、皇帝陛下に生命を預けお仕えしてきた身分である。パリア帝国の君主にして、ゆくゆくはその寛仁な徳により全大地をしろしめされるであろうエルゴモン陛下直属の騎士というのは、いわば地上の審判者の右腕であり、あらゆる裁きに際して用いられる剣の役割を担うものだ。近衛という精鋭の刃には、一点の錆も許されるものではないし、一度の敗北も認められない。なぜならば近衛の敗北はそのまま陛下の名誉を傷つけることとなるわけであり、それは生命一つで報いることの出来ない大きな罪であるからだ。ところでわたしは、知らずにいたとは言え、純粋な剣の技のみでなく、禁忌とされている闇魔法を備えて近衛となった。宮殿に持ち込むべからざるものをもちこんでしまったのだ。これはすなわち、陛下への裏切りであり、騎士として許されざる失態であると思う。だからわたしはこのことの償いのために、勇者マホローンより授かった剣術に匹敵する、あるいはそれを超えるような技量を身につけ、近衛としてふさわしい剣士に生まれ変わる時まで、無言の行を行うことにする。口を開くことがなければ呪文の詠唱も不可能であって、師から教わった魔法と剣を併用する奥義を使わなくて済むのだ」


 「しかしイリアム、確かにピロの宮殿では異教的な属性である闇の魔法を禁忌とはしているが、それを実際に用いたことがないのだからいいのではないですか。わたしも理論だけなら書物で知っているけれども、だからといって陛下に対する誠実さが欠けることになるとは思っていないのだから」


 「うむ、確かにピロではまだ禁忌を破ることになるような剣技を披露してはいない。しかし闇の魔力を用いるのは時間の問題だったかもしれない。罪は罪なのだ。せめて無言の行を果たすことで、この罪をそそぐことにしよう。そしてこの敵の多く待ち受けるであろう旅の最中において、益々己の腕を磨き、近衛として最もふさわしい武人になるのだ」


 かくしてイリアムは、「過去の剣術と決別し、己の力のみによって獲得された刃の技が、皇帝の近衛としての能力に見合うようになる時まで、この口から言葉を決して発さないし、ピロの地を再び踏むことはない」と、神聖な勇者の剣に対して厳かに誓った。


 元々無口な性質であったイリアムが、石像のように沈黙を守るようになってから、一行は途中すれ違った行商人や聖職者の集団から食料を分けてもらいつつ、徒歩で七日間歩き続け、やっとパタロンダに到着した。


 パタロンダは巨大な円形の都市である。上空から見れば、街の外壁が完全な円を描いていることが分かるだろう。魔物や異民族から攻められた際、こうした形の都市は攻撃を受けやすい箇所、弱点を持たないために、防衛しやすい。もっともパタロンダは、様々な民族が出入りし活発な商業活動が行われている都市であるから、あらゆる民族にとって経済的に必要不可欠な場所になっている。そのため長い間パタロンダが巻き込まれるような大規模な戦争は発生していなかった。


 イリアムたちは大きな市門をくぐり、何人もの旅の商人たちと共に都市の土を踏んだ。商人と言っても、帝都ピロで見られるようなのとは大きく異なり、奇妙な売り物を携えた者が多数散見された。例えばびちびちと暴れる竜のしっぽを山積みにした車を引く商人や、世界中のあらゆる言語で書かれているたくさんの書物を売る少年、食べると世界の理が見えるという触れ込みの茸を扱う露店もあれば、聖職の権利書を売る女もいる。とにかくこの街で見つけられないものはないと思われるほど、パタロンダはたくさんの物に溢れた場所である。


 この街に対する尽きない興味に身を任せる前に、四人は適当と思われる宿に入って当分の間の寝床を確保し、それから各々解散することとなった。一人になったところを宰相の追っ手に狙われてしまってはまずいようだが、パタロンダの市中であればいくら勇者の装備を身につけていても、それよりもっと派手で奇妙な出で立ちの者が大勢いる以上目立つ心配はなかったわけだし、四人はこの街にそれぞれ違うあてを持っていた。イリアムはパタロンダの剣術道場で腕試ししようと考えていた(無言を貫いているために、仲間には伝わっていなかったが)。ロンバロンはパタロンダの美人をつかまえて、旅における刹那の気晴らしに興じようと思っていた。ホセは市中を歩き回って一日四人の貴族からアザモン神への喜捨を募ろうと決心しており、ニンバスは知り合いの老魔女に用事があった。


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