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疾駆する槍ロンバロン 対 暗黒の神フロミデムル(三)

 「なんだって」イリアムは大変驚いた顔をした。「ではわたしの剣術は、闇属性の力を借りて真価を発揮するものなのか。確かに師に習った秘伝の剣の内のいくつかには、己の肉体と剣を魔力を込めることで調和させ、ほとんど人間には捉えることの出来ない動きと力を実現するものがある。今まで意識したこともなかったが、それは闇の属性の魔力を用いるものだったのか」


 研究的な生活の習慣がない田舎の貴族の中には、まれに己の属性について無関心な者もいる。特にイリアムのような剣に一筋の騎士などは、魔法に対する無知を一つの喜びと考えるような傾向があるのだ。勇者マホローン八人の弟子の中でも、とりわけイリアムとロンバロンは己の属性にこだわらないであろうという見立てから、闇の剣術と槍術を授けられたのかもしれない。


 後に語られたところによれば、ロンバロンは遍歴の旅の最中、メントガ人の土地において、上流階級の人妻との危険な恋に陥ってしまったのだという。一般的に身分の高いメントガ人は、闇魔法の力の向上と伝承こそが貴人の務めであると考えおり、帝都ピロの学者顔負けの魔法的教養と知識を身につけている。だからロンバロンの恋の相手は、一目でこの槍に巧みな騎士が闇属性を無意識に用いていることを見抜いてしまったのである。人妻はロンバロンの若い魅力に打ち負かされ、相手の歓心を得るつもりで、メントガ闇魔法の秘中の秘であるいくつかの古言語、及び術式や呪文を教えてやった。ロンバロンはそのことが他のメントガ人にばれてしまうとどんなに大変な事態が起こるかしっかりと分かっていたために、用心深く隠れてその秘伝を伝授されていたのであるが、ある日悪い偶然が重なって、遂にロンバロンの恋人の、民族に対する裏切りが発覚してしまった。人妻はとても貴族が耐えられるものではない過酷な罰を受け、逃亡するロンバロンには暗殺者が日々差し向けられることになってしまったのだった。


  ともかくもフロミデムルは悶絶し、身体をねじったり宙返りをしたりして、おぞましい悲鳴を上げる。


 「ああ、苦しいわい! ただでさえこうした真昼では太陽に焼かれ、黒い肌がぴりぴりと痛むというのに、鶏肉のように串刺しに穴をあけられてしまってはたまらない。この深刻な傷を癒すためには無垢な少女の生き血や、恨みの極まった復讐者の呪いなどといったものが必要なのだが、この原っぱではそれも用意することが出来ない。まいってしまった。こうなったら仕方がない。夜の神の一族として、見事な悪あがきというものを人間に見せてやろう」


 そう宣言すると邪悪神は、巨大な身体を自らぼろぼろと崩し、いくつもの黒と赤のグロテスクな塊に分裂した。そして地に生える草の活力を吸い取って枯らしてしまい、植物から得た霊力によって、分割した身体を真っ黒の男に作り替えた。こうしてフロミデムルは十六体の影の戦士に変身したのである。


 「十四、十五、十六……よし、一人四体の分身を倒せばいい計算だ! 貴公ら、構えよ!」


 ロンバロンの号令で、それぞれが臨戦態勢をとった。 


 イリアムは右手に勇者の剣、左手に緑の宝石で装飾された愛用の剣を持ち、二刀で複数の敵を瞬時に片づける姿勢だ。


 ホセは四肢を無駄なく用い、舞うが如く相手を倒す華麗な「飛竜の構えポリゾイ・ドルバゾート」で敵を睨まえた。


 ニンバスは足下に大きな青い光の魔法陣を発生させ、近づいてきた影を氷結させてしまう罠を張った。


 そしてロンバロンは腰から両刃の太い剣を抜くと、剛胆にも多数の敵の下に飛び込んだ。それに続いてイリアム、ホセもフロミデムルたちに襲いかかる。


 まずロンバロンが一太刀で一体の分身を斬り殺し、叫びながら向かってきたもう一体に体当たりをお見舞いした。イリアムは剣の間合いに入った三体の胸を、容赦なく貫く。ホセは見事な脚力で敵の頭上に跳び、


 「破ァぁぁぁぁああああああ!」


 というかけ声とともに蹴りを放ち、一体を地に沈ませ、着地後は素早い投げ技、目にも留まらぬ突きの連続によって瞬く間に残りの三体を倒し、自分に割り当てられた義務を果たした。


 強襲に怯んだ残りのフロミデムルは、一体も残らずニンバスが発射した鋭利な氷柱の矢に射抜かれ、そのまま大地に突き刺さり動かなくなった。


 「こりゃ駄目だわい」もはや虫の息の分身フロミデムルの一体が呟いた。「メントガの民は門外不出の闇属性魔術を、古来から己の生命よりも大切に扱ってきた。メントガ人の中でもそれを習うことが出来るのは身分の高い者たちのみであるし、秘伝の漏洩を恐れて土地によそ者を入れることさえしなかった。しかし今ではどうだ、暗黒の領域に対する敬慕の念は冷め、伝統を疎かにしてしまっている。だからこのように、どこの馬の骨とも知れぬ野蛮な武人に闇の魔力を盗用されてしまったのだ。まったく嘆かわしいことだよ――」


 やがて日光に溶かされるようにして、邪悪の神は地上からさっぱりと消え去ってしまったのだった。


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