疾駆する槍ロンバロン 対 暗黒の神フロミデムル(二)
「剛胆なる銀の重槍、邪悪穿つ者、竜の如く獰猛な遠矢、進め、貫け、疾駆せよ! Pindenet respondeini que Gonsosir linest min erd kira Bunko wendei osieuwuo mis mse vonenxenndette les Puneiyam Imsotto, vinis, xorindes, densquoxaxis! ――おれが放つ槍はただの棒きれなどでは無い。師マホローンの編み出した百発百中の巧みな投法、及び、どこまでも敵を追いかけ、どんなに分厚い防盾をも突き破る制御の魔術、これを身につけたおれが放つ槍! 戦場においては巨大な軍勢を退がらせ、強力な魔物を相手にしては一撃でこれを下し、そして、人智超えたる神々をも貫く、まさしく冥府への案内者だ! (古代パリア語における槍と案内人をかけた洒落)」
「ぬん……何という威力だ……圧倒されそうだわい」
ブルブルと拳を震わせ、かろうじて槍を抑えているフロミデムルではあるが、体表の赤い模様は苦しげにちかちかと発光し、鬼のように険しい形相を浮かべている。同じくロンバロンも、この力比べに勝利すべく、全身に汗をかきながら槍に魔力を込める。イリアム、ホセ、ニンバスはその横で、決着を見守っている。
「だが……こんな槍、おれの身体を貫きたければ貫けばよい。大した痛手にもなるまいよ。なんといっても神の身体は不死の物質から成るもの。槍一本で死ぬ神などもはや神とは言えないわい!」
力比べにこりごりしたフロミデムルは、にやりと笑って槍から手を放した。
果たして槍は、そのまま勢い良くフロミデムルの胸に飛び込んだ。いくら勢いの強い槍とはいえ、所詮はただの金属で作られた、人間が人間や野獣を殺すための武具。神々にはかゆみすら与えられるはずがない、そうフロミデムルは確信していた。しかし――
「おれの勝ちだぞ、邪悪神!」
「なんと!」
槍は神の胸を貫通してなお推進力を失わず、ほとんど見えなくなるほど遠くの大地に刺さってやっと停止したのであるが、槍の通り道となったフロミデムルの胸にはぽっかりと穴が開いて、そこから黒い霧がしゅうしゅうと吹き出し始めた。この黒い霧は邪悪神を構成する暗黒の気であり、人間で言うところの血液にあたるものである。ロンバロンが放ったのがただの槍であったならば、神に血液を流させることは出来なかっただろう。ロンバロンは槍に「特別な」魔力を込めていたのであった。
「おお、この感触は、もしや……闇の魔力か? 槍に暗黒の力が宿されていた! しかし、メントガの民の他に暗黒の属性を用いることが出来るはずはない」
「だがおれは用いることが出来るのだ」ロンバロンは得意げにフロミデムルを睨みつけた。「槍の穂先に昼をも飲み込む深淵の力を宿らせて、暗黒の膜に護られたその夜の塊のような身体を貫いてやったぞ。実際、他でもないおれが今日までメントガ人に生命を付け狙われているのは、おれが闇魔導の秘伝を持ち去ったせいなのだからな。勿論、盗賊のように卑しくくすねたわけではなく、当然の戦利品として明確な権利の下に獲得したのであるが」
ロンバロンの力を見て不思議そうな顔をしていたニンバスは、これを聞いて何か閃いたような表情をした。
「なるほど、そういうことでしたか。師マホローンの意図というものが今、分かりました」
「訳知り顔のニンバス、貴公、どういうことだ。拙僧には何のことやら分からん。非常に混乱している。どうしてあのメントガ人嫌いのロンバロンが闇魔法などを使うのだ」
ホセは当然の疑問を表明したが、ニンバスがそれに十全な説明を与えた。
そもそもロンバロンが勇者マホローンから授かった体系的な槍術には、投げ放った後の槍を操る魔法も含まれていたのであるが、これは四大属性である火、氷、風、地の属性とは異なる原理に基づく魔力を用いるものである。マホローンの指導方針によって、一人の弟子の修行風景を他の弟子が見てはならないことになっていたために、魔法と属性の学問に詳しいニンバスはロンバロンの槍術をまじまじと見る機会がなかったのであるが、今回の戦いを見て、すぐにロンバロンの魔法が闇属性のものであると気づいてしまった。闇属性は物質に宿る力を自在に操る属性でもあるのだ。
「つまり、われわれは師マホローンが弟子に教えた術を、剣術、槍術、拳闘術、火属性魔法、氷属性魔法、風属性魔法、地属性魔法、治癒魔法と考えていましたが、本当はこう言うのが正しいのかもしれないのです。――闇属性魔法に基づく剣術と槍術、四大属性魔法、光属性魔法に基づく拳闘術と治癒魔法――師マホローンは神々に愛されて生まれた人間であり、全六属性の魔法を用いることが可能だったのですが、帝国パリアでは闇属性は迫害の対象ですから、それを隠していたのです。しかし師は己の技術を自分一人の生命と共に滅ぼしてしまうのは惜しいと考えた。だから巧みに隠蔽し、剣と槍の技として二人の弟子であるイリアム、ロンバロンに伝えたのでしょう」




