疾駆する槍ロンバロン 対 暗黒の神フロミデムル(一)
ロンフェロー伯爵たちとの決着の後、ひたすら草原を進み続けて数時間。そろそろ昼食にしようというロンバロンの提案が承諾され、四人は木陰でパンをかじっていた。日は空の中心に位置し、清涼な風が頬を撫でる非常に気持ちの良い気候である。
「たまには外に出てみるものですね。わたしは魔法の研究ばかりやっているからたいてい書庫に籠もりきりだが、こうも太陽や風が気持ちがいいとなると、どうも室内にいるのは損だ」
「まったくその通りだぞニンバス。おれのように強靱な騎士は一生のほとんどを屋外で過ごす。その方が気持ちがいいし、肉体も風や雨によって磨かれる。男という種族は野獣のように転がって寝ても平気なようにつくられているのだ」
ロンバロンがニンバスとの会話をきっかけに寝転がると、それに習ってニンバス、ホセ、そしてイリアムもまた大地に身体を投げ出した。もっとも、こうしてくつろいでいる時でも各々勇者の武具は身につけたままであるから、特に鎧を着ているホセなどは寝心地が悪そうである。それでも少しの間、牧歌的な午睡を楽しんだ。
しばらくすると、一行は馬の悲鳴で目を覚ました。ピロから連れてきた軍馬は皆、一流の博労によって選ばれた優秀な個体であり、槍や魔法や血の雨にも怯まず突撃する戦場の友である。蜂に刺されたり、蛇に咬まれたりした程度では滅多に情けない声を上げることはない。不審に思った四人はすぐに悲鳴のする方を向いた。するとそこには大変な光景が広がっていた。
「こりゃ、旨い馬だわい。メントガの民に呼び出されることがなければ、滅多にこの大地のものを食うことも無いのだが、こうしてたまに来てみた時にはどうしたことか無尽蔵な食欲が湧いてくる。ピロの荒馬は筋肉質でとても美味だわい」
なんと驚くべきことに、黒い影の塊のような外見の神が、馬を食っていた。何を隠そうこの神というのは先ほど大転移魔法で送り込まれてきた邪悪神フロミデムルである。神にしてはなかなかに旺盛な食欲で、すでに四頭目を丸飲みにしているところであった。
「あれは……メントガ人の奉じている神フロミデムルだ! おれはあれを見たことがあるぞ。おれの命を執拗に付け狙ってくるゼフォーとかいうメントガ人が、以前召喚しておれにけしかけてきたことがあった。気味が悪いから逃げ出したが――いや勿論、騎士として敵に背を向けるのは恥であるが、神々が相手である場合はまた別だからな」
「む、そこにおる虹色の兜の騎士、見覚えがあるぞ」フロミデムルは馬を咀嚼しながらロンバロンを見据えた。「この邪悪神フロミデムルに百牛の贄を怠らない、感心なメントガの民、その敵である――確かロンバロンとかいう奴だな。そして虹色の武具を身につけるその仲間たち。なるほどお前たちが長老カロスにとって目障りな男どもか。よろしい、名乗らせていただこう諸君。おれは闇魔法を司る神々の一族の内の一柱、霊魂や物質の理を扱う邪悪なる神フロミデムル。――いや、そちらの名乗りは不要。神なる者は言葉など介さなくとも全てお見通しよ。余計な段取りは必要あるまい、ただただ即座にその生命を冥府へ送ってやるわい!」
フロミデムルは大木のような腕を鞭のようにしならせ、四人を横薙ぎに打ちすえようとしてきた。
「まずいぞ、散れ!」
ロンバロンの掛け声が耳に入る前に、戦闘に熟達している各人は素早く動いていた。イリアムは勇者の剣を抜きつつ、後方に退いた。鎧を装備してなお身軽なホセは、その場で高く跳躍して腕をやり過ごした。ニンバスは背負っていた勇者の盾を手に持ち、フロミデムルの大きな拳を受け止めた。ただの青銅の盾などであったなら、殴打を防ぎきれずに吹き飛ばされてしまったであろう。しかし勇者の盾はその埋め込まれた多くの宝玉を発光させつつ、封じ込まれた強力な防御魔法によって、拳の勢いを無力化したのである。
最初の一撃を回避した後、ロンバロンは木陰に置いておいた槍を拾い、邪悪神目がけて力一杯投げつけた。槍は風を切って唸り、フロミデムルの胸へ一直線に飛んだ。
「そんな卑しい金属の棒などで、夜の神を倒せると思うなどとは笑止千万だわい」邪悪神は手で槍を掴んだ。「仮にこの槍がおれの胸に刺さったところで、神々は人間のような痛みを感じはせぬし、出血をして死ぬということもない。不死なる種族との戦い方を知らぬようだな、ロンバロン!」
「それはどうかな、影の住人」
「むん……な、何だこれは!」
放たれた槍は、神の剛力で簡単に止められてしまうように見えた。しかし予想に反して、フロミデムルの手に包まれてもなお、槍はぐいぐいと突き進もうとする。ロンバロンは右手の二本の指を槍の方に突き出して、呪文を唱えていた。




