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宰相と長老の怪しい策動(二)

 「神だと!」宰相はまさか神という言葉がこの不穏な空間で発せられるとは思わなかったために、意表を突かれた表情をした。「目的のために手段を選ばぬのがわたしの主義とはいえ、暗黒魔法にまで手を染めた人間が、神について多少でも語るということが、許されるものか」


 「ところが」呪術士は怪しい笑みを浮かべ言う。「神も一枚岩ではない。四大属性を司る神がそれぞれ存在するように、暗黒を領分とする神もまた、メントガ人にとっては近しいものなのでしてな。このパリア帝国では禁忌とされているようで、暗黒の神について何か論じるだけでも罪だとか。ところが実際はしっかり、暗黒の神は人間たちを観察し、夜を支配する役割を果たしておる。――暗黒の領分の内でも、特に戦が好きな、邪悪の神でも召喚しましょうかな――うむ、それがどうやらよろしいようじゃ――」


 邪悪な笑みを喉に飲み込みつつ、雨乞いをする者のように、カロスは両腕を突き上げる。すると、暗い部屋の中央にぽっかりと、闇夜よりも真っ黒な球体が出現した。


 「おお、なんだあれは。この夜よりも深い洞穴から、メントガ人の神を呼び出すというのか」


 「――暗黒の領域、霊魂と万物の裏側、影の支配者、邪悪を司る神――邪悪神フロミデムル――現れよ黒き民族メントガ人たちの長、邪欲の老人カロスに導かれて――昼をも夜にする秘儀、太陽に背くわれわれの業に哀れみを――。 Thisdendi soide poqoiimporosi eid thunenden hip hipo Hig Gndie shiendte mis Fromidemr locar sapo yam Inderlword krack rit Karoes ti xoromdensis inor Pordandew」


 憎しみの底から湧き上がるようなおぞましい詠唱は、室内の空気を厳かに振動させ、やがて影の球体から邪悪の神を呼び出すに至った。まず神の漆黒の腕が飛び出し、頭が突き出され、血管のように張り巡らされた身体の赤い光の脈を点滅させながら、フロミデムルは全身を宰相と長老の前に現した。


 「闇の子らごきげんよう」邪悪神はじろりと二人を睨んだ。「このフロミデムルを呼び出したのはどういった用件のためかな? 神々の領域にむやみやたらに人間が干渉するべきものではないとはいえ、夜に敬虔なるメントガの子らが真にわれわれを必要としたならば、力を貸してやらなくっちゃいけまい」


 邪悪神の声はまるで魂に直接語りかけてくるような、不思議な響きと音色を持っていた。宰相は驚きによりすっかり動転し、目を白黒させていたが、長老は神の前に出ることに慣れているのか、落ち着いた様子で対峙している。


 「よう来られたメントガの民の祈りの宛先、フロミデムル神。この暗黒の気に満ちた心地の良い部屋へ呼び出したのは他でもない、メントガ人に仇なす不埒な男たちを、是非とも人智を超越したる邪悪の技法を用い、神の手によって始末していただきたいためじゃ。そしてその報いとしてメントガの民は、夜の神々に少なからぬ犠牲を捧げ、盛大にして陰惨な祭を執り行おう。鳥を百匹、馬を五十匹、牛を三十匹、若い乙女を十人。祭はパリア人の乙女の悲鳴から開始され、皆が踊り狂い、叫び回り、皿や机までも食らい尽くし、やがて日の出を呪う合唱をもって終結するというもの。夜の神々が好むメントガ人伝統の祭ですじゃ」


 邪悪神フロミデムルは、全身の赤い模様を激しく発光させながら笑い出した。


 「げほほほ。これは愉快な提案をする老人だわい。そのような犠牲と祭が確実に行われるというのであれば、よろしい、お前たち子らの頼みも確かに叶えてしんぜようぞ。このフロミデムルが打ち倒すことの出来ない人間の男など存在するはずがない。たやすいことだ」


 「ついてはこの邪悪神の乗り物としてふさわしいほどの規模と力を有する、大転移魔法陣にそのお身体を差し込んでいただきたく存じまする。その魔法陣はこの老人カロスの弟子であるそこの帝国宰相ブレンドロスによってつくられたものですが、なかなか乗り心地の良い、まさしく神々などといった高貴な種族にもってこいのものでありますでな」


 フロミデムルはじろりと床の魔法陣に目を向けた。


 「なるほどこれは出来が良い。ではさっそくその殺すべき男のところへ連れていけ。格調高い古代メントガ語の呪文を詠唱し、魔法陣の行き先を指定するのだ」


 「はい、ただいま――」


 二分後、邪悪神はイリアムたちのすぐ近くに転送された。ギュルリという音が鳴って、神の黒い大きな身体が消えると、宰相の地下室はふたたび寂しい広さを取り戻したのだった。カロスは転移魔法で使用した魔力を回復するために、すぐに青い液体の霊薬をごくごく飲んでいる。宰相は腕を組んで目をつむって考えにふけり始めた。


 「(――メントガ人の信仰する邪悪神、闇魔法を司る太陽の仇、影を支配する皇帝の血脈、このとんでもない老人が呼び出した神であれば、あの勇者の弟子たちもやっつけられてしまうだろう。ともかく勇者の武具を手に入れて、わたしの手元に置かなくては、わたしの政治的な目的は達成されない。問題は、こうした邪悪の存在に力を借りることで、将来わたしが神聖なる神々から見放されるということになりはしないか、ということだ。皇帝エルゴモンは魔女王の庇護を受けているが、今のわたしには人間を超えるいかなる存在の後ろ盾もない。早急に勇者の武具を得て、魔女王の力を盗んでしまうとともに、時機が来たならばこの怪しいメントガの民族とは手を切り、わたし自身も習い覚えた闇の属性の魔法を捨て、真に力ある何者か――唯一神アザモンに近しい神々――に取り入ろう)」


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