A-Zwei 0
誤字、乱文等見るに耐えない文章かもしれませんがどうか生温く見守ってやって下さいませ。
耳を劈く雷鳴に似た轟音と共に目の前で何本もの巨木が薙ぎ倒されていく。その破壊は鱗に覆われた鞭のようにしなる長大な尾によってもたらされた。
その主は黒い金属質の鱗を持ち、巨大な一本角を備えた鋼竜だった。
体長は凡そ20メートル弱。平均的な数値からすればまだ200歳前後の若い個体であるのだが、だからと言って脅威であることには何ら代わりは無い。故に、
「ぬかった・・・!」
鋼竜から少し離れた巨木の陰でその少女は独り言ちた。
歳の頃は恐らく成人に達していないであろう風貌のその少女は幼さの残る顔に似つかわしく無い鋭い眼光で鋼竜を睨みつけている。
「3級魔導災害って聞いていたのに、竜⁉竜ですって⁉最近の情報局は仕事が杜撰ですわ!」
愚痴りながらも少女はこの状況を打破するべく、最善策を模索している。その証拠に少女の表情に焦りはなく、凛とした金眼は鋼竜をつぶさに分析している。
「200歳程度の幼竜ならどうにか撃退くらい出来るはず。と言うより出来ないと・・・」
少女は竜の進行方向に目を向ける。
木々に遮られて視認出来ないがそのまま数キロも行けば森が開けており、マール村という小さな山村がある。人口500人にも満たない小さな村だが、万が一にも鋼竜をそこに到達させるわけにはいかない。
少女は覚悟を決め、腰に固定してある50センチメートル程の金属筒を引き抜きグリップに力を込める。すると筒の前後が伸長し、片側先端が鳥の翼のように展開。それは130センチメートル程の杖だった。
「同機〜エンゲージ〜」
少女が呟くと展開した杖の先端部が鈍く発光し金色の魔方陣が顕れ、少女の深層意識と同調を始める。少女の支配下に在る精霊が同調に従い魔方陣に収束し、望まれた事象を顕現する為に励起状態に入る。主が集中を高めるとそれに呼応して収束が増し、杖の先端部から青白い稲光が発生。はち切れんばかりの力の奔流が引鉄を引かれるのを待つ。
少女は魔導師だったのだ。
「精霊の集まりが良い。豊かな森ね」
一つ微笑むと、少女は身を翻し巨木の陰から躍り出た。
足音と稲光を感知した鋼竜が鎌首を擡げ少女の方へと向き直す。鋼竜の赤眼が少女を捉えると質量を感じる程の敵意が少女の全身を包んだ。
「何を猛り狂っているのか知りませんが、人里へ踏み込む事は私が、エルザ・マクマハウゼンが許しません!」
エルザと名乗った少女の言葉を理解したのか、鋼竜は憤怒の雄叫びと共にエルザに向かって突進を開始した。大質量の高速移動が木を、山を揺らすがエルザはほんの僅かもたじろぐ事無く、ただ杖を鋼竜に向け引鉄となる声を発した。
「『アズアーレダイ』!!」
エルザの声と同時に魔方陣が発光。瞬間、轟音と共に巨大な雷が鋼竜を襲った。
如何に鋼の鱗に覆われていても10億ボルトにも及ぶ雷を防ぐ事は不可能である。尚且つ膨大なエネルギーによって発生する熱量が鱗を、肉を焦がす苦痛に鋼竜の突進は停止した。
しかし全身から煙を噴き出し両眼が沸騰し破裂してもなお鋼竜は絶命してはいなかった。
「竜というのはほとほと呆れた生命力ですわね。まさか倒れてももらえないとは思いませんでしたわ」
エルザは即座に次の一手の集中を始めようとしたが、それを察した鋼竜は180度方向転換。今度は村に向かって突進を開始した。
「マズい!」
エルザは構えを解いて鋼竜を追うが人の足で竜の全力疾走に追いすがるのは不可能である。魔術による足止めが最善であろうが、鋼竜に通用するだけの魔術を編む時間が恐らく無い。
既に遠目に村の灯が見えていた。
最悪の展開を想像し全身が粟立つ。
エルザは必死に思考を巡らせる。
何か何か何か何か何か何か!
エルザの脳裏を絶望が支配しかけた次の瞬間、突進を続ける鋼竜の眼前に一つの人影がまろび出た。
「いけない!逃げて下さい!」
叫びはしたものの人影と鋼竜の距離は絶望的だった。とても避けきれる余裕は無い。
そう判断した刹那、エルザは一番早く顕現出来る魔術を編む。
「同機〜エンゲージ〜!」
契機となる声とほほ同時に励起が完了。人影が逃げる一瞬を稼ぐ為に鋼竜の脚に狙いを定める。
「『セルニア』!」
叫び切るのとほぼ同時に小振りな雷光の矢が発生、次の瞬間には鋼竜の右後脚に着弾していた。
鋼竜の巨体が揺らぐが、集中が甘い低位の魔術では決定打にはなり得なかった。それでも僅かながら突進は減速し、時間稼ぎは成功した。
しかしエルザの決死の一撃も虚しく人影はそのまま鋼竜の前に立ち塞がっていた。
間に合わない!
エルザが声にならない声を発しかけた時、それは起きた。
人影から言いようもない異質な魔術の躍動が発生したのだ。エルザが今まで見たどの魔術体系にも当てはまらない構築式が展開し、芸術的とも言える速度で膨大な処理が行われていく。
世界が歪み、壊れて、またそこに世界が産まれる。
それはまるで神の所業だ。
そうして組まれた駆動式は人影の背に巨大な8つの紅い魔方陣を描いていた。
その魔方陣は回転を始め、自らが内包した世界を外へ押し出そうとするかのように赤光を放つ。
殻が、破れる。
エルザがそう感じた刹那、8本の光の柱が生まれ鋼竜を飲み込んだ。
光の中で粒子の次元まで分解されていく鋼竜を見ながら、エルザは意識が急速に遠のいて行くのをどこかぼんやりと感じていた。
何にしてもこれで村は護られたのだ。その安堵と共にエルザは意識を手放した。
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