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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

思いつき短編集

ボッチの心得

作者: 孤高の支配者

 長ったらしい校長挨拶にノックアウト寸前で入学式が終わり、息も絶え絶えに新しい教室へ向かう。

 俺はそんな列をこっそりと抜け出して階段を昇った。

 二階、三階、四階まで上がり、そのまま足を緩めずにさらに駆け上がる。

 辿り着いたのは屋上につながる扉。

 はやる気持ちを抑えて、俺はドアノブに手をかけた。

 …………。

 鍵がかかっていた。


      *


 俺が『ボッチ』であることを志してからどれくらいになるだろうか。『ボッチ』とはすなわち孤高を好む崇高な存在。コミュ症ともいう。神みたいなものだと考えて差し支えない。


 小学校のころはそれほどでもなかった。地元のサッカー少年団のゴールキーパーをやっていた。補欠なので、試合に出ることはほとんどなかったが。俺が出なかった試合でチームは県大会出場を決め、怪我をした正ゴールキーパーに代わって出た試合で、チームは惜しくも全国大会出場の機会を失った。卒業まで針のむしろだった。あまりにつらくて不登校になり、中学からは別の学区に移った。ただ、そのせいで数少ない友人と離れることになり、俺は意図せずボッチになった。……ふと思い出したのだが、引越しの際に『手紙出すからな』と言っていた彼からの手紙は、そういえば中学三年間一度も送られて来なかった。なぜだろうか。照れ屋だったのかもしれん。


 部活にでも入れば多少は違ったかもしれないが、へたくそでもへたくそなりにがんばっていたサッカーが、怖くて出来なくなっていた時点で詰みだった。不器用な俺が他に入れる部活なんてあるわけがなかった。


 中学でボッチになったきっかけとしては、そんな小学生のころのほろ苦い思い出があったわけだが、その他にも、入学して最初の一週間のうちに二度ほど熱を出して休んだこと、移動教室だと知らなくて、自分の机で二時間ほど爆睡してしまったことなどが挙げられる。誰か起こしてくれればよかったのに。俺の触れれば怪我しそうな尖ったオーラに気圧されたのだろう。そんなこと気にせず話しかければいいんだが……ふう。能力チカラを持つものはつらいぜ。


 そんなわけで、腐るほどあった時間をネトゲに八、勉強に二ほどつぎこむことで、その筋では【廃神】と呼ばれ、ひさびさに外出するとカツアゲに遭う治安の悪い田舎の中学を卒業し、同中の連中がほとんどいない進学校に今日俺は入学s


      *


 高校からは給食制度はなくなって、弁当か学食になる。俺は弁当である。「お前の昼飯に金出すなんてもったいない」とは我が母君のお言葉だ。「時間ももったいない。自分で作れ」とのこと。俺は昼夜逆転生活を改善し、早起きして痛弁当を作成した。暇にかまけて練習しまくったから、まったく手慣れたもんである。


 そして我に還る。

 これ、見られたら終わりじゃね?


 だが、すぐに見られなければいいのだと思い直す。どうせここ数年ろくに人と会話していない俺に、昼食を共に摂る人間など出来るわけがない。配られたプリントを後ろの席に回すことさえ緊張する俺である。英語でペアを組むアレの時間は悲惨であった。


 しかし一緒に食べる人がいないにしても、教室はだめだろう。自分の席で一人寂しく食すつもりだったが、それは断念するしかないようだった。


 するとどこにすべきか。俺はすでに考えついていた。

 そう、サブカルチャーにおける青春の代名詞。


 屋上で食べる弁当!!!!


 まあ俺の人生にヒロインはいないので、まったく青春してないんだが。

 ヒロインの手作り弁当ならぬ、廃神ネトゲランカーの痛弁当である。

 なにげなく今日の日程を確認して、

 あ。入学式午後からだ。


 俺はそっと血盟騎士団副団長の顔に蓋をかぶせた。



 早起きしたせいでアホほど時間が余ったので、コンビニで立ち読みでもしようと外に出る。今週は確か『マギ』のコミックス最新巻が出ているはずだ。なかったらジャンプを読もう。『ワールドトリガー』の続きが気になっていた。『ハイキュー!!』も面白い。『BLEACH』はよくわからん。


 コンビニまでは、歩いて十分もかからない。いつものごとく、せっかちな気性を存分に発揮。センサーに人として認識されなかった俺は、開かない自動ドアに激突し、恥をかきながら入店する。やべえ死にたい。


 というか、なぜここのコンビニは自動ドアが設置されているのだろうか。かなり珍しいというか、生きてきてここ以外でそんなコンビニは見たことがないような気がする。俺はどうやら自動ドアやらのセンサーに嫌われる体質らしいから、こういうのは困る。じきにこのコンビニは潰れると予言しよう。維持費もばかにならないらしいしな、自動ドア。


 などと益体もないことを考えながら、俺はコミックが置かれた棚の方へ歩く。『マギ』はなかった。普通に発売日を間違えて覚えていたらしい。ググってみると、発売予定は来週末くらい。生殺しである。

 次いでジャンプを求めて青年誌の棚の隣に目を向ける。平積みになっていた。俺は真ん中くらいに積まれたものを引き抜いて、読み始める。


 一通り読み終えて、十五分。読み返して、さらに十五分経過。三十分を棚の前で過ごした。迷惑な客である。ちなみに今までの最高は二時間だった。小心者の俺は、新発売のカップ麺とポテトチップスコンソメ味を手にレジに向かった。


 余談だが、コンソメは家族内で俺しか食べないわけではない。大体みんな食べてしまうので、小型テレビをしこむようなまねは危なっかしくてできない。一度やってみようとしたら、弟に先を越されていた。なんのことかというと、『DEATH NOTE』は家族で読んでいるということだ。コンビニコミックを買って来いとのお達しを、俺はすっかり忘れていたのだった。レジ袋ひっさげて意気揚々と帰還した俺は母親から肉体言語つきでそれを仰せつかり、即座にコンビニに舞い戻ることになったのだった。多少のハプニングに遭遇しつつ。


 そんなこんなでまあ、学校に行こうと、俺は自腹切って電車に乗る。定期は入学しないと買えないし。保護者はついてこねえし。手がはなせない状況になったのだという。まあ、俺にはそんなに関係のある話ではないので気にせず家を出たわけだが。


 学校の近くの駅で降り、俺は歩く。友達やら親やらと一緒に通学路を歩む人だかりに囲まれて死にたくなった。和気藹々と話す少年少女中年どもを見ると、呼吸ができなくなりそうになった。滅びないかなあ、世界。とか思った。この世全て覆い尽くす炎をイメージする。俺はこの業火と一体と成り、世界を地獄に染め上げるのだ……。


 危うく世界を阿鼻叫喚の渦に巻きこむところだった俺は、首を吊る縄を探しそうになったので、落ち着いて想像を頭から追い出した。道を無言で歩きながら妄想をたくましくする新入生。誰か殺してくれないだろうか。



 で。入学式の会場に着き。

 式の全てのプログラムが終わって、新入生の群れから抜け出して。

 俺は屋上へ向かう。こうなったら、弁当だけは気持ちよく食って帰ってやろうではないか。

 辿り着いたその先で。


 ――屋上には、鍵がかかっている。


 ……なぜだ。

 なんと――なんと残酷な現実ではないか。青春の一ページをも刻みつけることかなわぬとは。

 まあ予想はしていたんだが。生徒管理上の問題があるわけだし。

 にしてもこれは――


「もう、高校入るのやめようかな」


 と、俺はコンビニで『ポイントカードは持ってません』と答えた以来の声を発する。


「だって俺、」

 死んでるし。


『DETH NOTE』のコンビニコミックを買いに行ったのが間違いだったな。

 コミックス全巻持ってるのに、欲張るから。

 まあ、友達いねえから、コミックス版との違いを比較するには、自分で集めるしかないわけだけど。親は買ってくれないし。

 ボッチの心得。

【孤独で人は死ぬ。】


『今日午前十時ごろ、○○県××町のコンビニ付近で芦屋キヨタカさん(15)が乗用車に撥ねられて、頭を強く打って間もなく死亡しました。県警△△署は車を運転していた会社員、笠井リュウジ容疑者(36)を自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕し、容疑を同致死に切り換えて調べています。署の調べによりますと、信号待ちをしていた芦屋さんが手に持ったコンビニ袋を取り落とし、落ちた袋を拾おうと車道に飛び出したところ、左折した乗用車に巻きこまれた模様です。芦屋さんは本日より、県立××高等学校に進学の予定でした。次のニュースに移ります。本日☆☆都では……』


まあ、この程度じゃニュースにもならんと思いますが、演出ということでここはひとつ。

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