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斉・近・加、揃っちゃいました その1

俺は急いで玄関の扉を開けた。

音を出さないように慎重に階段を踏みしめる加藤に続いて、何も考えずドスドスと上がってくる斉藤部長の順でまもなく二階の踊り場に到着するところだった。

二人ともしっかりとスーツ姿だった。

事務所でいつも見ていた姿に変わりなかった。

ただし、頭にしっかりと装着する黄色の…それも触覚付きのヘルメットが乗っていることを除いてはだが。

踊り場に付き、ドアから顔を覗かせる俺に気づいた加藤の顔が一瞬ほころぶ。

上がった口角が開こうかというその顔の動きを見て取った俺は、慌てて「しーっ!」と人指し指を唇に押し当てた。

やや小走りに加藤が玄関に滑り込んできた。

頭だけを突っ込み、部屋の中を確認するようにしてから斉藤部長がそれに続いた。

何も無い六畳部屋に、斉藤、近藤、加藤の「再婚か!」コンビが揃った。

この光景を何も知らない人物が突然訪ねてきたとしたら、一体どう思うのだろう。

スーツ姿にパンツ一丁の男が三人。それならまだいい。

しかし三人が三人とも触覚付きヘルメットをしっかりと装着している。

何の儀式だ。

それともただのアホか。

「レミはどこだ?」

先ほどから落ち着き無くキョロキョロと部屋中を見渡していた斉藤部長の第一声はそれだった。

「そんな人、居ませんよ」

まだ理解できていないのか。呆れる俺を前にして斉藤部長は尚も続けた。

「じゃあ、編む嬢、レミ イズ ワンダフルはどこだ?」

「…部長の言うさっきのレミと、今の編む嬢、レミ イズ ワンダフルはきっと同一人物のことです」

「そうなのか」

「いや、分かりませんが、おそらく。そもそもレミなんて最初から存在しません」

「いや、居る。お前が電話で言っただろう」

「部長が作ったんですよ、編む嬢、レミ イズ ワンダフル」

「お前が居ると言ったんだ、編む嬢、レミ イズ ワンダフル」

「そんなこと、一言も言ってませんよ」

「いや、言った」

「言ってません」

「いや、言った」

「言ってませんって」

かくまってるのか」

「何で俺がレミをかくまう必要があるんですか」

「やっぱり、居るんだろう」

「だから居ませんって」

「逃げたか」

「…そうかもしれません」

どうしてもレミを諦めきれない斉藤部長に根負けし、否定することを諦めた。

「どんな女ですか、そのレミっていう人」

ベランダから外を覗いたり、隣りの三畳部屋を歩き回ったりしていた加藤が興味深そうに俺と部長の会話に混じってきた。

「…お前もか」

「へ?」

「いや、いいんだ。何処かへ行ったらしい」

「へえ。先輩が越してきたからですかね」

「…そうかもな」

「戻ってきたら紹介してくださいね、先輩」

「…ああ。あくまでも、戻ってきたら…の話だけどな。そしたら俺も会ってみたいよ」

加藤の代わりに強く首を上下し、うなずく斉藤部長の広い額に陽光が照かっていた。





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