やっぱり歓迎会
コンシェルジュの召集に、きちんと手入れされた庭で各々(おのおの)の役割をそれとなくこなしていた面々がバーベキューコンロを取り囲む形で集まった。
「もうお気づきかと思いますが」
コンシェルジュは皆をぐるりと見渡したあと、最後に俺に視線を合わせ、一つ頷いた。
「これから近藤さんの歓迎会を始めたいと思います」
「よ!」と体育会系の男の声が澄んだ夏の空気に響き渡る。
プラスチックの容器にビールを注いでいたレミが、手際よくそれを配り歩いている。
俺の歓迎会にも拘わらず、最後に回ってきたビールを受け取り、コンシェルジュに視線を移した。
それを確認すると、コンシェルジュは再び深く頷いて軽くビール容器を持ち上げた。
「それでは近藤さん、一言お願いします」
これと言った挨拶を用意していなかった俺は、「お世話になります」やら「ご挨拶が遅れまして」やら「何卒宜しくお願いします」程度の当たり障りの無い挨拶をした。
「これからトゥギャザーしてやってください」
隣りの部長が俺の言葉を締めくくるように言った。
「ぶ」と笑う加藤以外、笑いを上げるものは居なかった。
一瞬の間をおいて、マー坊が声を上げた。
「四露死苦!!」
生の声をしても、明らかに漢字のそれに聞こえる暴走族上がりの「よろしく」は、部長の壊した変な空気を余計に掻き乱した。
「ま、乾杯しましょ、乾杯」
というレミの言葉に、生ぬるくなりかけたビールを持ち上げ微妙な乾杯を交わした俺たち三人とメゾン・デ・孝明の住人達との宴は始まった。
序盤、集まった連中はひたすら物を食っていた。
歓迎会という名に相応しい盛り上がりも何もあったものでは無かった。
ジュージューと焼ける肉の音だけがしっかりと鳴り響いている。
俺に声をかけてくる奴さえいなかった。
どこぞの運動会に紛れ込んでしまった一般ピープルのような心持だった。
歓迎会というよりも食事会、もはや待ち望んでいた配給にありつく様な連中の背中を一歩下がって見守った。
配給という呼び方が古いのならば、さながら大食い大会の一場面を見ているようだった。
ヤキソバやら肉やらビールやらが、それぞれの胃に詰め込まれていく。
相当腹が減っているのか、それともただ飢えているだけなのか。
部長と加藤もまた、コンロの最前列に陣を取り、肉にかぶりついていた。
ふと隣りを見ると、マッシュルームカットの小生意気な小僧が立っている。
「何ていやしい」
頭のてっぺんに天使の輪ができているつやつやの髪を僅かに揺らし、いっちょまえなセリフを吐く小僧。
「呆れてモノも言えませんね。あんなにガツガツと。大人げ無い。そういえばさっきあなたの後に「トゥギャザーしてやってください」とか言っていた人、あれ、あなたの上司ですか。それにも呆れますね。一体何歳なんですか。まったく最近の大人には呆れるばかりですよ」
モノも言えない程呆れているはずの小僧は、こちらが呆れる程、モノを語っている。
「君は食べないのか」
「あそこに混じって食べる気がしないだけです」
頭に乗せた天使の輪がこれほど似合わない子供もいないだろう。
「レミ…君のお母さんもあそこにいるじゃないか」
「まあ、そうですけど」
痛いところを突かれた小僧は、手にしていたオレンジジュースをグイグイと飲み干した。
顎を上げ、後ろに下がった髪の輪は、雫の形に歪んでいた。
コンロから上がる湯気と肉から湧き上がる脂の匂い。
先ほどまで澄んでいた空気は、熱気に少し、湿っていた。
この作品の更新の見通しがたっておりません。
これから先の話を続けられる自信がなく、近々閉じようと思っています。
読んでくださっていた方には大変申し訳ないのですがご了承下さい。