before fact maker
日の当たる午後、通学路。
陽当たりの良いこの町に、少し変わった少女がいた。
それは多分、コンクリートの多い街なら当たり前の光景。
黒いベレー帽、丸襟の真っ白なブラウス、フリルがあしらわれた薄いグレーのジップアップパーカーに、膝まで届くかどうかの黒くて縁に白いラインがあるヒラッとしたスカート。
長い黒髪は歩く度に揺れる。
年は俺と同じくらいだろうか。その小柄な体には少し大きすぎるリュックを背負い、更にスーツケースを引きずっている。
パッと見た瞬間、懐かしい、と思った。誰だかわからないのに、俺は彼女を知っている、と確信した。
やけに気になって、俺は引き返した。彼女は、私鉄の駅に向かっていた。JRばかり使う俺にとっては、なれない場所だ。
迷いそうになりつつもなんとかついて行く。
だが少女は私鉄の駅に着く直前で、細い路地に入っていった。
右へ、左へ曲がり、気付くと寂れた喫茶店があった。少女のスーツケースが見える。
『あら、時崎も来たのね。いらっしゃい。』
と俺を迎えたのは、幼馴染みで一個下の彩希。この喫茶店でバイトしてたなんて、知らなかった。腰まであった黒髪は肩に触れるほどになり、いつの間にかオレンジ色のリップが塗られていた。
こいつも、変わっちまってたんだな
『彩希、俺も…って?』
『あれ、気づいてない?』
久しぶりだね、たっくん
振り返った少女は
あの日の愛らしさを湛えたままの
今も想い続けていた
ただ一人の君。
『泉?』