〜 ひとつの季節の終わり 〜
青春の1ページを綴り終えて
僕が思うこと
人の歩みは止まらない
僕が歩み続けるこの道は
無限の可能性を秘めている
今なおロマンチックに彩り続ける
幸せを感じるほんの小さな出来事
胸を痛める出来事
すべてのものは僕の心に
大きな起伏を加えながら
新しい道をつないでいく
僕はこの道を歩き続けるよ
だから君もその道を歩き続けるんだ
もう僕が言わなくたってだいじょぶだろう
それぞれの新しい季節へ
僕の右膝の下の辺りには
出っ張りがある
生まれつき脛骨と膝蓋骨とを繋ぐ靭帯の
付く場所が悪いために角度がおかしい
さらに膝蓋骨が収まるくぼみが
異常に浅い
とても座りの悪いお皿
先天性膝蓋骨亜脱臼症候群
それが僕の、生まれた時から
持ってきたもの
一年前に受けた手術では複数の処置をしたが
メインの内容は、健常な脛骨の上部を
切り離してから角度を変えてボルトによって
固定するというもの
その5cmほどのボルトの頭がふたつ
僕の膝したの皮膚を膨らませている
お皿を固定するための分厚いサポーターで
少しは守られているが、接触には
めっぽう弱い
そしてくっ付いてはいるが、完全ではない
骨にも不安が付きまとう
入院時からの筋トレにより上体の
筋力は落ちるどころか上がった気もする
歩けないうちは、足上げ
歩けるようになればスクワットなど
走れるようになれば、夜のランニング
もっと回復したらランニング途中に
広場でのフットワークも入れた
多くの不安を抱えながらも
僕のコンディションは上々に仕上がっていた
そして思うように動けない時の
多くの時間は、決断という勇気を
僕に与えた
だからこの大会は、まだ骨が
くっ付ききっていなくとも
僕にとって意味のある大会になるはずだった
それが試合4日前の捻挫
当日、僕はなんとか仕事をごまかしながら
終わらせると早めに会場入りし、
テーピングをガチガチに巻き足首を固定した
本来テーピングとは、可動範囲を抑制し
動きを補助するものであって、
痛むところまで動かさないという効果は
あっても、まったく動かさずに痛みを
抑えるものでは決してない
僕のテーピングも素人ながら
動きを補助しているため、びっこひいて
痛まないように動く時よりも
実は痛みは大きい
それでも痛みを我慢しながら
今の状態を確認しつつ
懸命にアップをしていた僕
黙っていてくれという頼みを
受け入れずに報告したタカ
選手のコンディションをみて
出場機会を与えなかったシンジ
それぞれの思惑の中、一回戦が終わった
僕が見ていたものは今までと
何も変わらない、ただ実力の劣るチームに
勝ったというだけの自己満足のような
ひとつの勝利
数か月後にはきっとこの相手チームには
負けるだろう
僕らは足踏みし、彼らが進むのならば
足首もまぁまぁの回復具合をみせている
二週間後の二回戦を僕は欠場した
一身上の都合
歩けなくとも見学や応援に行くと
教えられてきた僕の当たり前からしてみると
会場にすら行かないことは大きな出来事だった
憤りを感じないのは、だれのせいでもないから
でも僕はもう同じように歩みを
揃えることはできない
この場所が悪いわけでなければ、
この場所にいる人が悪いわけでもない
きっと僕も悪くはないはずだと思いたい
ただここに僕がいれなくなっただけ
おそらく僕の居場所はあったはずだ
でも僕はその場所で満足できなかったし、
その場所を満足できるところまで
押し上げる力もなかった
僕にできることはひとつ
飛び出すことしかなかった
新しい何かを求めて
バスケの国、アメリカ
超有名校、UCLA
何軍かは抜きにしても、後進国からやって来た
バスケ好きが、ストリートを点々としながら
ふいに紛れ込んだUCLAの練習に通ううちに
練習試合にまで出場したという
サプライズを起こしたバスケ馬鹿のシンジ
ケンにフェザーズのキャプテンを任せて
彼が何のあてもなく、バスケの国の空気を
吸うため単身アメリカに渡る頃
僕も新しい何かを求めてフェザーズを退団した
そして、新しい季節へ
小さな栄光 〜 第一部 〜 完