〜 新チーム発足 〜
どんなものでも新しい始まりは
良いものだ
仲間と協力して
ときには対立して
精一杯ぶつけ合った考えは
形を変え力強い信念になる
今の僕の中だけでも期待や不安
葛藤が渦巻いている
それらが新しく形作られていけば
きっと強固なものになる
そう期待させるものが
そこにはあった
ユウは基本的にバスケは
初心者だった
僕の練習をよく見にきてはいたが
後輩の持ってきたパイプイスに
座って大人しく見学をしていた
フェザーズは男子チームではあるが
高校の後輩やメンバーの彼女など
女性の参加者は少なくなかった
自然と女性参加者とユウは
仲良くなり
「 ユウさん 一緒にやろうよ 」
などとよく言われ
はじめは断ってはいたが
人数も増えて女子チームを
作ろうという話が出たとき
これは良い機会だと言うことで
バスケを始めてみることにした
「 キャプテンはユウさんが
いいんじゃない? 」
仲の良い女の子やシンジまでもが
賛成した
本人そして僕は反対をした
一番最初のころからいるからという
理由はわかる
でもクラブ運営にあたり
未経験者がキャプテンを
することに僕は反対した
「 代表であったり チームの
象徴的なものに
ユウがなるのはいいかもしれない
でもキャプテンは練習の進行
などもする これはやっぱり
経験者じゃないと大変だ 」
いざというとき人望だけで
キツい練習をメンバーに
指示することは出来ない
チームの方向性や
ゲームプランなども考えると
意識の統一のためにはプレーでも
引っ張っていける人に託すのが
無難と考える
その意見を聞き入れて
女子チームのキャプテンは
初期からいるユウより少し年下の
高校でもキャプテンをつとめた子が
やることになった
平日の夜
ユウから連絡があり仕事帰りに
晩御飯のため女子チームの
ミーティングに参加した
みなやる気があり熱意ある
話し合いが開かれ何か一つのものが
形作られる場面に
立ち会えた気がした
それとともにフェザーズも
こうやって成長してきたんだな
と思える
「 そう言えばチーム名は
決まったの? 」
「 それがこれといったのがなくて
ジュンさん 何かありますか? 」
口々に言うが僕にはこんな大事な
ネーミングを任せられるような
センスはない
「 候補とかもないの? 」
みんな困ったような顔つきで
口を揃える
特にないと
僕は困り果て一つの提案をした
「 もうあれでいいんじゃないの 」
誰かが言っていたのを思い出した
「 あれってなんですか? 」
「 俺はおすすめできないけどね
誰かがね
フェザーズの女子チームだから
女フェザーズとか
Wフェザーズとかで
いいんじゃないのって… 」
「 それでいいんじゃない?
Wってウーマンってことだよね?
いいじゃん 」
「 でもフェザーズって高校の
名前から作ったし
あんまり出身者いないよね 」
「 いいじゃん
フェザーズから高校の名前は
実際連想できないし今じゃ
フェザーズはフェザーズだしね 」
「 よしっ じゃぁ決まり~
Wフェザーズ結成でっす 」
ここに新しいチームが誕生した
でもまだまだきっかけが
出来ただけでこれから頑張って
いかなければ何も出来てこない
継続して頑張ってもらいたい
どんなチームにしていきたいか
どんな練習をしたいかなど
話は尽きない
僕は基本的に沈黙を保ちつつ
ただ食事をとっていた
「 ジュンさん
何か意見ありますか? 」
「 そうそう 何でもいいから
言ってください 」
そもそも僕はここには
いないはずの人間
女子メンバーのミーティングだし
たまたまユウがいないと僕のご飯が
一人だったから
来ちゃえばいいじゃんという
勢いで同席しただけだ
だからこそ方向性などのことには
口は出さない
自分たちだけで
作り上げてほしいから
でも参考くらいにはなればと思い
僕は口を開いた
食事も終わり
食器もさげられたテーブル
僕は話を聞きながらのんびりと
飲み物を飲んでいた
その飲みかけの
コーラの入ったグラスを置くと
僕はゆっくりと話し出した
今のフェザーズには創設時には
いなかった人も参加している
チームを発展、維持していくには
新しい力は必ず必要になると思う
でも人間は十人十色
いる人間の数だけ個性があり
考えもある
その様々なベクトルを
ひとつへ向けるため
チームという方向性があると思う
その方向性が曖昧だと
やる気のベクトルを
間違った方へ向けてしまう人が
出てきてしまう
そのためにも方向性を
しっかりと示しチームの土台を
強固なものにしてもらいたい
行く道に迷う人がいないように
僕から言えるのはそんなところだ
「 っていうことは目標とかを
決めろってことですか? 」
一人のメンバーの問いに僕は答える
「 うん それもいいと思う … 」
明確な目標を据えることも
大事だと思うし志を同じくして
ここからスタートするみんなが
出来ることならいつまでも共に戦う
それが出来ないにしても
残るメンバーはこの想いを
しっかりと胸にしつつ
次の人たちに引き継いでいく
それがチームの伝統として
受け継がれていくものだと思う
「 このチームに入りたいと
思った人はその伝統のもとに
努力することを約束出来るから
入部を志願すると思う 」
類は友を呼ぶ
熱意あるみんなが作るチームに
ちゃらんぽらんな人間は
いらないんだ
「 たしかにそれだけを
押し付けてやるのは
つまらないかもしれないし
人も増えないかもしれない… 」
個人の取り組みを尊重するのも
大事だし、ただ体を動かせれば
いいという人も練習を成立させる
ためには貴重な存在だ
初心者でもやりたいと言うなら
引っ張っていかなければいけない
そんなことは当たり前だけど
その根底にみんなの思い描く
チームの姿がないと
いけないと思うんだ
「 なんか難しいですね 」
話が少し重くなってきた
「 そうだね きっとそんなこと
ちゃんと出来るチームなんて
そうないよ
でもそういうことも
覚えておいてほしいな 」
僕はチームの抱える問題や
自分自身の抱えている問題を
女子たちの新しいチームに
重ねていた
「 とにかくやりたいことを
やればいい
行き詰まったときや
問題を抱えたとき
こうやって話し合って
解決していけば… 」
僕もそうだけど目の前に
フェザーズという良い意味でも
悪い意味でも見本がいる
見習えるところは見習い
間違いがあれば気を付けて
相談出来ることなら
誰にでも相談しよう
そしてメンバー同士、チーム同士で
切磋琢磨しながら
共に成長していければいい
それが出来れば
男女合わせたフェザーズという
団体がそこではじめて
完成するんじゃないだろうか
僕にはそんな気がしてならなかった
そこで産声をあげた
フェザーズにこそ
真の存在価値があるんだと思う
僕はそれを待ちこがれ
この目で見て
この肌で感じることを
楽しみにしている
「 とにかくフェザーズに
負けないチームを作ります 」
Wフェザーズのキャプテンは
そう言い切った
気付くと晩御飯を食べている
時間ではなくなり外は完全に日が
落ちている
「 そろそろ帰ろっか 」
ユウは少し僕を気遣った
様子で言った
「 俺は何時なってもいいけど
何度でもこういう機会を
作った方がいい
俺がいると話しづらいことも
あるかもだし
ってことで帰ろっか 疲れた 」
「 やっぱ帰りたいんじゃん 」
ユウが突っ込むとみな笑った
僕はこの場に立ち会えて
よかったと思った
「 ジュンさんらしいですね 」
「 この人ホント飽きっぽいんだ 」
なごやかにミーティングは終わり
なんだか晴れやかな気分で
電車に揺られ家路についた
次の週から分解練習に
参加することにした
まだびっこひいた感じでは
たとえ走れてもハーフスピードも
だせないのが実情だ
少しずつ
焦らずに少しずつ
チームは貴重な練習時間の
割り振りを全体でのアップ
全体でのオールコートでの
ランニング系練習
そのあとに男女分かれて
ハーフコートでのチーム練習をして
最後にオールコートで男女交互に
ゲーム練習をすることにした
僕の進行状況はと言うと
最初はアップなどの球だしから
次はハーフになってからの
一部の練習
それもWフェザーズに頼み
参加させてもらった
男子との練習
特にスピードと接触プレーの
面ではまだまだ到底参加出来る
レベルではなかった
いまの僕が以前の僕に
追い付いているのは
ボールハンドリングと
極めて近い位置からの
シュートタッチだけだ
少しずつ本格的な練習に入りだした
どれだけ動けばどれくらい痛みが
あるのか
どれくらい次の日や日常生活に
支障が出るか
手探りに自分の体を分析していく
分解練習といっても
対人の練習に入ると
やはり感じたのは恐怖だった
僕の右の膝の前面
ちょうどお皿の下あたりには
見れば異物が入っているのが
すぐにわかる
手でなぞるとゴツ、ゴツと二つ
ボルトの頭が皮膚一枚を通して
存在を主張する
術後に仕立てたサポーターも
第一の目的はお皿の固定であって
ボルト部分を守っている訳ではない
ボルト2本で固定しているとはいえ
もちろん強い衝撃はNGだった
誰でも知っている
バスケで人と対して
膝がぶつからない
なんてことはあり得ない
膝には十分に注意もしたし
多少の接触も覚悟した
それを避けては復帰の道のりを
順調に進むことは出来なかったから
案の定何度か膝をぶつけては
痛さにしりもちをついた
その日、練習を終えて家に帰ると
いつもは膝全体がまんべんなく
腫れるがそれに加えて膝下の
ボルト部分がひどく腫れ上がった
念入りにアイシングをしては
次の練習に備えた
僕はたくさんの人に迷惑をかけたり
支えられたりしながら生きている
足を不自由にしてからは
いろんな人にお世話に
なりっぱなしだ
それは少しばかり歩けたり走ったり
出来るようになった
今でも変わらない
腫れた膝をアイシングする度に思う
そんなとき僕は
よくペンを手にとった
Wフェザーズのみなさん
走れもしない僕を
練習に入れてくれてありがとう
今はWフェザーズのために
貢献できていなくて
そしてWフェザーズのための練習が
できる頃には
フェザーズの練習に戻ると思います
チームに自分勝手に迷惑をかけて
本当に申し訳ないと思います
これから僕が見せられるプレーは
Wフェザーズのおかげで
戻ってくるものです
僕は感謝しながらプレーします
プレーすること
つまり当たり前のことを
素晴らしいと、嬉しく思うことが
できる今はバスケを楽しくできる
ひたむきにも素直にもなれ
プレーが楽しい
この気持ちをずっと
持っていられたら
きっと僕はなかなかに
素敵なプレーヤー
人間になれることだろう
そんな簡単にいかないことは
なんとなく分かってはいるけれど
そして耳から離れない医者の言葉
歩けなくなる
それならできるうちだけでも