〜 激闘!麹会 〜
輝かしい第一歩
そこに待ち受けていたのは
大きな壁だった
今僕に出来ることを精一杯
僕のいた証を刻み込む
僕がホームのフェザーズ以外で
練習場所にしていたところは
複数あった
ひとつはサポーターをしたまま
怪我をした忘れることはないだろう
若くて強いガチなチーム
それと助っ人で大会参加まで
させてくれたチーム n
そしてもうひとつ
数人がチーム n の練習に
参加していて知り合った
麹会というところ
創部から長く
歴史があり年齢層は様々ながら
年輩から若手までチームとして
まとまりIQの高いバスケをする
他の練習場所で一緒に組めば
動きの質や引き出しの多さは
やりやすく
チームの練習に参加して
相手に回れば崩しのうまさと
強固なポジショニングに手を焼く
ラン&ガンが基本にある
僕のバスケだが
目指すバスケはそこにあった
そんな麹会によく練習参加に行った
試合に出るのはわりと若めの人や
長身の人が多いがその中に
入らずチーム運営や
ワンポイントに徹している年輩組に
とても良いプレーヤーがいて
すごく勉強になっていた
全盛期を過ぎたと言いつつも
絶対的信頼感を匂わす落ち着いた
パスワークでチームを
コントロールする指揮者
と言えるポイントガード
基礎技術、身体能力はそれほどでも
確率の良い、何より勝負強い
シューターもいる
そのシューターの口癖は
「 俺なんかは試合に
あまり出なくてもいいんだよ
終わりの二分くらいだけ出て
ボールを触るのも一回
ただそのワンチャンスに
試合を決めるスリーを
ぶちこめばいいんだよ 」
そんな話をしながらいろんな事を
教えられかわいがられた
その麹会と相対する
この大事な試合で
僕らは新規参戦なので区の大会は
3部の一回戦からの出場だ
なぜ麹会ほどのチームが
3部の一回戦にいるのかは
クラブチームの運営の難しさだろう
一回戦と言えど麹会の実力に
疑いの余地はない
越えるには、挑むには最初から
あまりにも大きな壁に直面した
僕が練習でお世話になっている
なかでも一番のチームと戦う
という組み合わせ
そして僕の置かれている今の状況
この運命の道の重なりを僕は
どんな風に受け止めていいものか
正直わからないけれども
一番素直な答えを出すために
僕に必要なことなのかもしれない
体をベッドに縛り付けていた管が
すべてなくなりマイナスからの
僅かな前進を
少しの自由と錯覚した僕は
その日も日課である散歩をしながら
両腕に車椅子の負荷をかけていた
午後に約束の時間が近づくにつれ
落ち着きを隠せなくなってきた
だめだ
もう一回りしてこよう
こんないい車椅子じゃ
どんなに漕いでも疲れやしない
病室を出ようとベッドの横に
慣れた手つきで車椅子を
横付けしてストッパーをかける
腕に力を入れて車椅子に
乗り込もうとしたとき
「 ジュンさん! ジュンさん!
どこ行くの?
おとなしくしてなきゃ 」
顔見知りの看護婦さんが続ける
「 もう来るから ベッドにいてね 」
そりゃそうだけど
時間にルーズな人は嫌いだ
少ししたら先生がやってきた
「 遅くなって すいませんね
じゃ 行きましょう 」
車椅子に乗り先生に押されながら
外来にある処置室まで行く
「 それじゃ 見てみようか 」
「 はい お願いします 」
椅子に座ったままサポーターと
包帯をとる
「 う~ん 」
まるでものを扱うようにピンセットで
傷口を叩きながら状態を確認していく
痛いんだけど
と思いながら判定を待つ
「 うん 着いてるね 大丈夫
抜糸しちゃおうか 」
ピンセットで傷口を結んでいる糸を
引っ張り上げてハサミを入れる
血で真っ黒になった糸は固まって
引っ張っても隙間を作るのは難しい
それを上手く切っていく
少し痛むがこれくらいの
痛みはもう慣れた
消毒をしてガーゼを当て
丁寧に包帯を巻く
「 よし じゃギブスしましょう 」
包帯の上から伸縮する
ストッキングみたいなのに足を通す
その上に濡れた温かい布を
巻き付けていく
これが次第に固まっていく
石膏は一昔前の話だ
さらに包帯をきれいに巻いて完成
「 はい おつかれさまでした 」
「 ありがとうございました 」
車椅子に移りながら話す
「 先生 今日、
外泊したいんですが 」
「 あぁ 言ってたね…
えっ 今日? 」
「 はい 」
「 うん了解 松葉杖になるから
十分気を付けるようにね 」
「 ありがとうございます 」
病室に戻りすぐに
外へ行ける服に着替える
いよいよだ
試合は18時20分
会場のスポーツセンターまでは
タクシーで15分
まだ少し時間がある
ギブスをしても楽にはけるジャージ
これはコートで着るものであって
ベッドの上には不似合いだと
再確認する
「 明日の午後に帰ってきます 」
この数日は車椅子で移動してたので
松葉杖は少しキツいかもしれない
ユウに頼んで持ってきて
もらっていたウェストポーチに
財布と携帯電話を入れる
「 はい 気を付けて
行ってらっしゃい 」
ナースステーションに挨拶をして
エレベーターで外来から正面に出る
予想通り客待ちの
タクシーが並んでいる
「 スポーツセンターまで
お願いします 」
少し早めに会場に着いた僕は
ロビーの長椅子に曲がらない足を
投げ出して座った
井の中を泳ぎ、ときに背比べを
しながら共に歩んできた
このチーム
その誰よりも早く
僕はこの場所に立っていた
それは優越感ではなく使命感だった
それが今
ろくに歩けもせずに応援とは
笑える話ではない
でも僕は来た
この大事な日
この場所に
僕がこの日まで積み上げてきたもの
彼らが今日手に入れるもの
そのすべてを
意味あるものにするために
僕自身、正しい選択をしている
という絶対的な自信はない
そして今という状況が最善である
ことなのかもわからない
でも僕は自分の道を作り
確かな足取りでそれを踏みしめ
進んでいくために
今は全身全霊をかけ
すべてを肯定していく
「 あれっ?! ジュンさん!
どうしたんですか?! 」
やはり一番乗りはシンジだ
「 外泊だよ さっき許可おりて病院出てきた」
目の前で着替えと用意を
しながら話す
本当は更衣室でやらないといけない
「 最初っから 麹会ですよ
まいっちゃいますよ 」
「 シンジ 気持ちはわかるけど
そんな言葉聞きたくない
いかにして勝つか それだけだ 」
シンジの顔つきが変わる
「 ジュンさん手術なんかしても
変わらないっすね 」
そう笑う
僕も笑う
「 たしかに今はどう勝つかを
考えなきゃいけないけど
もっと大事な話がありますよ 」
なんだろう?
「 いつ戻ってくるんですか? 」
「 三ヶ月 リハビリ入れて
完全復帰までは半年かな
秋の大会までには
間に合わせるつもりだよ 」
僕にはもう戸惑わずに答えられる
用意がある
「 マジっすか 長いですね 」
長くても辛くても本当に
戻ってこれるなら
僕にとってそれ以上のことはない
「 大したことないよ
すぐにスタメンに戻るよ 」
「 がんばってください 」
「 おう いや今日はみんなの方に
がんばってもらわないと 」
試合時間が近づくにつれメンバーも
集まってきた
みな僕の姿とまさか来るとはという
驚きを隠せないでいた
僕は決まってみんなにこう言った
「 初勝利をこの目で見ないとな 」
試合前にほとんどのチームメイトと
話ができたが今みんなが
するべきことは
僕に挨拶をすることではない
「 よし ミーティングするぞ 」
シンジの声が響く
「 …と…と 俺がスタート
死ぬ気で走れよ!
走れないやつはすぐ代えるぞ 」
人を引っ張っていく力はあるが
シンジはやっぱり戦略にはうとい
あんまり具体的な作戦はない
でも練習でやってきたことを
ぶつけるだけ
「 お前にすべてを任せようと
思ってたけど、使えるもんは
有効に使おう 」
数週間、練習やミーティングに
参加していなかったとはいえ
メンバーのプレーは全員見ている
チームの練習も方針も知っている
「 ベンチワークを俺に任せてくれ 」
会場に入りチームはコートでの
アップを始める
僕は松葉杖をつきベンチを過ぎ
オフィシャルを過ぎ
相手ベンチまで行く
「 こんな格好ですいません
今日はよろしくお願いします 」
本当は今日この日このコートに
立ちたかった
その想いは隠しててもわかるもの
「 おぅ よろしくな
次やるときはちゃんと出ろよ 」
「 わかりました 」
松葉杖をはずし深く頭を下げる
挨拶は終わった
さぁ戦闘モードだ
「 気合い入れろっ! 」
僕はベンチに座った
熱気や緊張感や雑音とかが
混ざりあって
僕を静寂の中へ
連れ込もうとするかのようだ
そのまま心落ち着かせ身を委ねたら
静寂のもとに僕はこの世界から
逸脱してしまいそうで
ここに僕がいなくなるようで
僕はみんなに大きな声をかける
麹会は見るからに大きな人が多く
しかも重量級から
走れそうなタイプまでいる
ガード、フォワード陣には
経験豊かな選手から
若かい選手まで様々だ
いろんなゲーム展開に
対応出来そうだが
練習で見ない顔もいるので
そこがつけいる隙のように思えた
だがメンツの充実ぶりを見るだけで
練習でつかんだ僅かばかりの自信を
忘れてしまいそうなのも確かだった
僕らは互いに声を掛け合いながら
怯みかけた足を前に出す
この場所にたどり着くまで
長い時間をかけ
多くの努力をしてきた
そのすべてをかけ
その先に見えるもっともっと
長い道のりへの挑戦が
今始まる
麹会にティップオフのボールを
軽く保持されて
僕らの挑戦は始まった
高さに対抗するため2-1-2ゾーンを
組んでゴールに近い場所を固める
麹会はハイポストとローポストに
ビッグマンを配置し
外でボールを動かす
中を固めたフェザーズに対して
インサイドにボールが入らずとも
そのスクリーンから45゜フリーの
シュートを打たれるが落ちる
インサイドにボールを入れさせない
スクリーンアウトをしっかりして
リバウンドを確実に取る
オープニングとしては
緊張もほどほどに
計画通りのディフェンスを見せた
フェザーズのファーストセット
麹会のディフェンスは2-3のゾーン
シンジがボールを散らしながら
タカがスイングを繰り返す
やはりインサイドには
なかなかボールが入らない
外にまでプレッシャーがくると
フェザーズはファーストセットから
パスミスをおかし
ヘルドボールになった
センターサークルでジャンプボール
ベンチから早くも大きな声がする
「 タカ! タカ! 」
その声は僕だった
麹会の一度のディフェンスを見て
スイングのタイミングと
シュートポジションの修正をした
遅れてサークルに近づくタカ
審判がボールを上げる
瞬間に僕は叫んだ
「 タカ!前だっ! 」
遅れたタカを麹会は
マークしていなかった
ジャンパーが思い切り前に
叩いたボールにいち早く対応した
タカがレイアップシュートで
フェザーズの記念すべき初得点をあげた
その後はジャンパーもつとめた
ケンがリバウンドで奮闘するも
麹会の高さにセカンドチャンスを
与えジリジリと離される展開が続く
フェザーズはオールラウンダーの
ケンとシューターのタカが
果敢に攻め込むも
決定率は低くリバウンドも取れず
だんだんと思いきったオフェンスが
出来なくなっていった
前半も中盤になり
若手で今一押しきれない麹会は
正PGを投入しゲームの
コントロールをはかる
僕らフェザーズは待ってましたと
ディフェンスを変える
病院のベッドの上から僕が
提案しておいた1-1-3のゾーンだ
一枚目のタカがセンターライン
くらいからプレッシャーをかけ続け
トップオブザキーとの
パス交換回数を減らす
リスクも多いがそれだけの
価値があるPGだ
敬意を込め僕らは指揮者と呼んだ
そのPGがいるだけでコート上の
プレーヤー達の動きが良くなっていく
そこでいい仕事をされたら今の
フェザーズでは太刀打ち出来ない
との僕の判断だった
僕がいない間も指示通りの練習を
こなしたフェザーズは柔軟に
相手チームに対応する
僕らのリスクチャレンジは麹会の
懐の深さに大きな成果を
出すことは出来なかった
麹会はさらに大きくパワーのある
プレーヤーに交代しガチガチの
インサイド勝負を仕掛けてくる
僕らの作戦によって
いいゲームメイクが出来なくても
個人技でのシュートから
圧倒的なリバウンドで
フェザーズから得点とファウルを
増やしていった
フェザーズはいまだに
オフェンスが落ち着かない
前半が終りすでにダブルスコア
明らかな差は
決して高さだけではなかった
一番はたま際の弱さ
少しのプレッシャーやコンタクトで
すぐにファンブルしてしまう
あとはコンビネーションの悪さ
ボールをもらったプレーヤーが
それから次の出し所を探している
いつも通るパスが通らないなど
真剣勝負の場面でのクオリティ、
経験値が足りないために
起こるミスが多すぎる
終盤に仕掛けた
マンツーマンディフェンスも
マークマンを間違えたりと
戦術への対応度の低さを露呈した
ハーフタイムもこれ以上の
有効と思われる作戦もなく
これといった手だては立てられず
今あるものをもっと頑張ろう
自分たちのプレーを
しっかりやろうといった程度の
ミーティングしか出来なかった
しかしフェザーズはまだ得意の
スタイルを出せてはいなかった
僕は静かにその機をうかがっていた
前半と同じようにフェザーズ、
2-1-2と麹会、2-3のゾーンで
後半戦スタート
フェザーズは前半とは違い
ゴール近くを固めるのではなく
1-1-3をしたときのように広く
プレッシャーをかけ出した
ハーフコートいっぱいに広がった
ゾーンはハイポスト付近を手薄に
しながらもしっかりと
マッチアップしていった
ディフェンスは機能し出し
オフェンスは思い切りを良くするため
ペネトレイトを多用し
相手としっかりと組み合わない
よう心掛けた
その成果かチーム全体に勢いがつき
前半のダブルスコアもあって
気の抜けた麹会は
その勢いに飲まれつつあった
多少のミスにも
「 いいんだ 行けっ!
ゴールまで行けっ! 」
僕の声は止まらない
「 出ろっ! 前に出ろっ! 」
フェザーズのディフェンス
プレッシャーにより外に出てきた
インサイドプレーヤーは
無理なプレーを選択し
トラップにかかる
スティールから電光石火
3対1の速攻が決まる
ここしかない!
「 おいっ! 走るぞっ! 」
ベンチから叫ぶ僕の声は
勝利へのGOサインだ
大きな声で返事をしたコートにいる
プレーヤー達の目の色が変わった
そうだ
ラン&ガン
僕たちの展開では譲れない
麹会は指揮者の声で即座に
ディレイドオフェンスに
切り替えるが
フェザーズには関係ない
ゴールインからでも
全速力でフロントコートに
ボールを運んでいく
「 止まるな! 動けっ! 」
セットプレーも足は止まらない
勢いある動きのオフェンスから
オフェンスリバウンドで得点
麹会にタイムアウトを取らせる
この早いタイミングでベンチに
タイムアウトを請求したのは
コート上のPG指揮者だ
さすがとしか言いようがないが
タイムアウトを取らせたという
イニシアチブはこちらにある
後半5分
19対32
ロースコアのこの試合
ゲームの流れ次第でひっくり返る
タイムアウト時の指示はもちろん走れ
追い上げムードだ
シンジは自らコートを出て少しでも
足のあるガードを入れる
そのシンジが大きな声で
メンバーを送り出す
「 勝つぞ! 行ってこい! 」
麹会も重量級センターを下げ
走れるプレーヤーに
ガードも若手を加えツーガードで
セーフティに徹する
手は早いが勝負はこれからだ
タイムアウトがあけ
ゲームが再開される
今まで肩で息をしながら
うつむき加減だったコート上の
プレーヤー達に
闘志がみなぎっているのがわかる
計画性や戦術に加え精神の
コントロールが大切なのが
とてもよく分かる
勝負というものの中にあって
相手の必死な抵抗にあい
自分たちのプレーが出来ずに
ペースを失っていた
フェザーズだったが
今やるべき事が明確になり
それに向かって全力を尽くす
他のことは頭にない
やっと取り戻した平常心は
自分たちに失いかけた
自信を思い出させ
ファイティングスピリットに変わる
消えかけた闘争心を奮い立たせ
もう一度前に出る
大きな相手にフェザーズは今一度
その牙を向く
ゆったりとボールを運んでくる
麹会のPG指揮者
決して無理はせずにパッシングで
ゲームをコントロールする
焦らされてもフェザーズの
ディフェンスは足を止めない
我慢比べだ
ベンチは大きな声で一緒に戦う
シュートクロックギリギリの
シュートはお世辞にも
良いセレクションとは言えない
やはりゲームの波はこちらに
「 行けっ! 」
リバウンドから速攻に移るが
ガードにはプレッシャーが
僕は大きな声を出す
「 ケン! 自分で行けっ 」
オールラウンダーのケンが
ボールを運ぶ
麹会の戻りが早い
センターラインを越えると
すぐに勢いをなくす
「 止めるな! 」
僕はベンチから身を乗り出す
45度
ウイングでボールを止めたケン
トップからボールサイドを
味方が駆け抜ける
ボールが入らなくてもいい
みんながゴールに向かって走る
アタックする
「 ボールを動かせ!
あいたら打てっ 」
タカにはボールを持ったら
すべてシュートに行けと言ってある
タカは性格がおとなしいので
それくらい言った方がいい
勢い任せの早いシュートは
リングにはじかれた
が、流れは悪くない
高さで勝る麹会が確実に
リバウンドを取るが速攻を
仕掛けるでもなく
のんびりとボールを運ぶ
「 あたれっ!」
僕は大きな声を出す
タイムアウトあけディフェンスは
タイムアウトを取る前と
同じ1-1-3のゾーン
それはタイムアウトあけでの
戦術変更をしていないと思わせる
作戦で
次の指示はすでに出してある
走るバスケで追いかける
もちろん作戦は
オールコートマンツーマンだ
タイムアウトのときにすでに指示を
出していたディフェンスは
オールコートマンツーマン
最初のディフェンスをゾーンから
入るということで混乱がないように
5人全員にマークする選手を
背番号で指示していた
僕がみんなの変わりに走ること
点を取ることや敵を引き付けて
やることは今は出来ない
今僕がしてやれるのは少しでも
精神的負担を
減らしてやるくらいだ
今までにないくらいに頭を
フル回転させ大きな声を出した
この経験は後にポイントガードを
本格的に目指すことになる僕に
多大な影響及び経験値になった
「 タカっ あたれっ! 」
麹会の指揮者にはフェザーズの
ガードではなく
シューティングガードの
タカをあてた
素直で真面目なタカの
高いディフェンス能力は
チームディフェンスよりも
1対1に向いていた
「 ボールを見ろっ
カバー忘れるなよ! 」
コート上のフェザーズの
プレーヤーは今試合が始まったか
のような雰囲気で
元気いっぱいにディフェンスをする
麹会はいなすようにパスを回し
スローペースを作ろうとする
勢いに乗り
動きの良くなったフェザーズ
自分たちのバスケを
目の前の強敵にぶつける
チームの状態は最高潮に
しかしこの真っ向勝負は
力と力とのぶつかり合いになり
実力で劣るフェザーズは
自分たちの非力さを思い知らされる
ことになってしまった
麹会は時間をかけながら
スクリーンを多用し最終的に
インサイドにボールを集め
リングに近い位置で得点していった
対するフェザーズはミスを気にせず
果敢にゴールに飛び込むも
シュート精度が悪く
コンビネーションのクオリティも
低かった
結果的には自分たちのプレーを
するよりも相手を考えた戦術で
戦っていた時間帯の方が
良い戦いをしていたことになる
しかしそれだけでは自分たちの
ペースを崩し持ち味を
出せないままだった
その辺りの兼ね合いがスポーツの
面白いところだ
自分たちのバスケが通用せずに
さらに点差が開くこの展開にも
フェザーズが大きなショックを
受けることはなかった
時間がどうとか
点差がどうとかは関係ない
今やるべきことを
一生懸命にやるということに
フェザーズのプレーヤーたちは
集中していた
僕はこの勝ちのほぼなくなった
状況で必死にボールを追いかける
メンバーを見て
これからフェザーズはもっと
強くなれると思った
それと同時にこの大事な試合の
終り方を考えなければいけなかった
この大事な日に駆け付けたメンバー
普段みんなと一緒に
がんばっているメンバー
弱いなりにも厳しく
がんばっていくと決めてから
メンバー同士がスタメンやベンチを
争うようになった
その方針のまま
この試合を全力で戦ってきた
そのために実力的戦術的にコートに
立てていないメンバーがいる
その中に僕よりも歳が二つ上のメンバー
タッキーがいた
ほんの数ヶ月前にメンバー入りした
新顔で初心者だった
イケイケの性格のはずが
初心者という負い目があるのか
僕の態度が大きすぎるのか
このころ僕とはほとんど口を聞かず
話すときは間違えて僕を
さん付けで呼んでいた
そのタッキーは
まだコートに立ててはいなかった
タッキーは僕とは違い
身長も体格もあり
ひた向きさも持っている
僕とは似ても似つかない
ただ今日この場所、この大事な試合が
タッキーのそして誰かの
岐路になるほどのものならば
いやそうなる可能性があるならば
その機会を掴んでほしい
チャンスは均等にある
理想のバスケスタイルのように
僕のこの道をつないだ
あの中学のラストショット
誰かの身に起こりうる
かもしれない偶然
努力の末の必然や奇跡でもなんでもいい
何かがドラマチックにその人の
心深くに刻み込まれ
明日への糧になるならば
僕は残りのベンチメンバーの最後に
タッキーを呼んだ
「 今できることだけでいい
精一杯を出しましょう 」
緊張の中に笑顔を見せながら
タッキーはコートに向かった
この時点で会場にこれた
フェザーズメンバーは
僕を除いて全員出場を果たした