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小さな栄光  作者: ジュン
45/59

〜 停滞する時間 〜


待ち望む


我らフェザーズの大躍進



現実はうまくいかず


手探りと試行錯誤の繰り返し



根本的に進み方を知らない

僕らは歯がゆく足踏みをする



「 どうでした? ジュンさん 」


用事があり見にこれなかった

シンジが僕に聞く



「 シンジ …


 まずいよ とりあえず出なきゃ


 ボケッとしてる暇はないよ 」


僕は思い付くままに

試合の内容よりも

試合をするということの大変さを

経験談として伝えた


僕がチームnから感じ取った

チーム運営についても話した



「 ヤバいっすね


 ちょっと調べときます


 あとはチームのやる気ですね 」



そう


そうなんだ

ちゃんとしたチームの方向性や

育成方針が決まってない今


それが一番の課題になるだろう




勝つバスケやるぞ


とは言ってみるものの

チームの根本的な部分で固まった

志でなければ

熱いなぁと他人事で終わってしまう



とりあえず体を動かしたい

ここでなくても

バスケでなくてもいい


そんな取り組み方の人もいるだろう



僕らという集団は

集まった人の数だけ方向性があり

そのベクトルはこの場所を中心に

あらゆる方向に向かっていた


それを一本に絞る行為は

今まで一緒に活動してきた人達の

向きを修正すること


修正出来ないほど

違う方を見ている場合


それは今まで楽しく活動を

共にしてきた多くの友との

決別を意味していた




「 来期から登録します


 それからいろいろ考えますよ 」


シンジが強く決断したのには

もしかしたらきっかけが

あったのかもしれない



そのころフェザーズは

いつも借りている中学校の

体育館が雨漏りのために

修繕工事期間使用中止になっていた


練習場所を失うわけには

いかないのでフェザーズ首脳陣は

臨時の体育館を探し


いつもの体育館からは車で

20分くらい駅からは遠くバスも

使わなければ通えない人もいた


僕はたまたまいつもの体育館よりも

家に近く車でなく自転車で

20分をかけて行った



体育館への移動が大変になことと

地元での活動が少し離れた土地での

活動になったことで練習の

参加者は減った


悪条件によりふるいに

かけられたメンバー

志の高い精鋭がそこには集まった




人数は減ったが方向性が絞られた

僕たちは少しだけ前を向いた

気がしていた



でもそれというのは

現実的にはチームの方向性を

示すためのベクトルを計算する

上での要素が変わっただけで


方向性の変化

というほどのものではなかった



場所が変われば人も変わる



その場所で活動したから訪れた

ゲスト要員も日に日に増えた



そんなゲストたちに

僕らが出来たことは

チームの方向性を説明し

理解を得ることではなく


練習メニューの成立のために

練習のクオリティを下げて

練習場所を提供することだった



なかなかチームの成長が

見られないままいつしか僕らは


その練習をしているという

結果だけを受け入れ

精度をおろそかにしていった


つまり汗をかいたという満足感


スポーツ選手にとっての最大の敵と

戦っていた


それは気分的には変わった気がしても

結果、今までの活動と

なんら変わりはなかった




場所が変わっても不便でも

休まず練習する僕らは必死に抗った



これじゃいけない

一休みも必要かもしれないが

足踏みという楽なものに流されちゃ

前には進めない


僕らの精神的抵抗は次第に

苛立ちに変わっていった



ただバスケがしたかった

やるからには

自分のやりたいことをやる


そういったゲストにメンバーたちが

寛容に対応できないことが増えていった



練習を有意義に成立させるためには

今はどんなゲストも必要と

わかってはいても苛立ちを

隠せずにはいられない



類は友を呼ぶという言葉


同じ志を持つ者を待ち望むばかりに

それ以外を拒絶してしまっていた



そしてついに事件は起きた




ある日の練習


その日もゲストが来てくれて

基礎練習や分解練習から

ゲームまで出来ていた



高校でシンジに紹介を受けてから

フェザーズのシューティングガードを

つとめるまで成長した

高校の後輩のタカ


その友達がずいぶん前から

練習に参加していた


いつも三人くらいでくる

その若者たちは

インテリジェンスを感じさせない

プレーと基礎技術の未熟さから

練習についていくのは

少し大変だったが向上心があり

出席率は高かった



それでもがんばるだけなら

いいとしてたまに

自分勝手なプレーが目についていた


戦術に沿うか

それを凌駕するほどでない限り

無理な個人技は自分勝手でしかない


僕もその子らはそんなに

好きな方じゃなかったが

毎週のように練習に来て

がんばる姿に

多くを求めることはできなかった



そしてフェザーズはまだ未熟で

個人としてもチームとしても

そういった取り組み方、

自分らと違うものを受け入れる

ことができなかった




その日も少し理解力を欠いた

プレーが目立っていたのは

確かだった



練習が終わりゲスト含めみんなを

集めてその日の総括と連絡事項を

シンジが話しみんなで

挨拶をして終わる


メンバーはその後も

ミーティングがあるが

練習自体はそれが毎度の終わり方



「 最近少し自分勝手な


 プレーが多いのでメンバーは


 もっとチームプレーを意識して


 ゲストの人は


 それに合わせてください 」


シンジが軽いジャブを入れる



するとメンバーの一人が

若い三人組のひとりに詰め寄る


「 お前 聞いてんのかよ! 」


確かにその子らは

スポーツマンとしての節度を欠いた

態度でミーティングに参加して

いたのは僕も気付いていた




その子が何と答えたのか

僕には遠くて聞き取れなかった



次の瞬間

メンバーの電光石火の鉄拳が

ボディに突き刺さった


騒然となる体育館

僕は叫んだ


「 シンジ っ! 」



すぐにシンジとやられた子の友達が

割って入った


ざわめき止まぬ体育館に

シンジの声が響く


「 なにやってんだよ!


 やめろよっ 」



やられた子は腹を押さえ

その友人は一応は静観している

手を出したメンバーは

そこまで興奮している感じもない


シンジが怒鳴るまでもなく

事態はそれ以上に悪い方へは

いかなかった



それよりひどい状況に

ならなかったのは幸いだが


手をあげたメンバーの言い放った言葉に

その場の空気は固まった




「 お前ら迷惑なんだよ


 もう来んなよっ 」





あれはシンジと再会した日だった


「 ジュンさん


 絶対来てくださいよ 」


僕をチームに誘ってくれた時だ



「 俺を入れたらスタメンの席が


 ひとつ無くなるよ 」


僕は笑って言う



「 まぁわかりますけど いくら


 ジュンさんでもわかりませんよ


 俺の友達でめっちゃ


 うまいやつがいるんすよ


 ガードですよ 」



ムキになるわけじゃない

嬉しくて


「 俺がスタメンだ 」



フェザーズに行くようになって

シンジの言っていたことが

わかった気がした



フェザーズには

とても良いガードがいた




シンジの中学時代の友達で

名前はアキ


スキルもインテリジェンスも

持ち合わせ

基礎がしっかりしていてなんでも

そつなくこなすプレーヤーだった



人物としての印象は大人しい好青年

すごくいいやつで


教職課程の研修で小学校に通う

子供好きな先生だ



プレーのタイプは似ているが

温厚なアキと対照的な性格の僕は

アキとの違いである

アグレッシブさに磨きをかけ

共存を目指すチームでの位置関係に

やり甲斐を感じていた



僕とアキは対照的な立場、考え方で

シンジの相談役になっていた



ときに熱く議論を展開する僕と

冷静に物事を考えるアキ

どちらの意見も聞くシンジ


停滞するチーム事情の中

良い関係は作り上げられていた




「 もう来んなよ 」



そのアキが事件を起こした


こういう事にはチームで一番

縁のない男と思われていたアキが



どんなに若いと言っても僕らは成人


そして彼らは未成年だった




「 だいじょうぶか? そうか


 タカ こいつらとりあえず帰せ 」



そう言ったシンジの判断には同感だ


当事者同士ですぐに問題を

解決出来ればそれに

こしたことはない


だが当事者同士は

落ち着いていたのに

お前ら呼ばわりされた

まわりの人間が興奮しかけている


個人なら収まりはつくが

集団の心理は恐ろしい

賢明な判断だったと思う



その日のメンバー同士の

ミーティングでアキは


「 シンジの話を聞いて


 ないから注意したんだ 」


と話し出した





「 注意したら


 うざったそうにしたから


 あいつらのこと言ってんのに…


 手を出したのは悪いと思う… 」



手を出したことは悪い

責任をとれと言うのなら

チームをやめる


ゲストが来てくれるから

練習出来るのもわかっている


それでもあの子らは

チームのマイナスになる



やり方はいけなかった

でもほとんどのみんなが

思っていたことだった



何かしらの社会的な制裁

とまでいかなくても

何らかの筋を通す必要があった


そして筋を通したなら

アキを非難する

メンバーはいなかった



「 みんな落ち着いて帰りました


 怪我もないし 」



友達であるタカですら

アキを責めることはなかった




後日、タカが間を取り持ち

チーム代表のシンジとアキとで

タカの友達三人と会った



まず一番にアキが謝罪し

シンジが今回のこともあるし

これからの練習への参加を

断らせてもらった

もちろん理由は他にあると説明した



説明は通じたはずだ


それの証拠に一年くらいたったころ

一番敵意をむき出しにしていた

三人組のリーダーが

未熟なりにもチームを率いて

練習試合を申し込んできた


気持ちは計り知れないが

僕はがんばってバスケを続けて

勝負を挑んできた彼の行動を

うれしく思った



成長した彼はただの三人組の

リーダーではなく

チームのキャプテンになっていたからだ




若い人間しかいない未熟な集団も

チームの成長が思うように

いかない状況に危機感を感じ

改革を押し進める



体育館の工事も終わって

ホームコートに戻り

心機一転チームの歩幅を広げる



「 春から大会に出場します


 勝つチームを作っていきます


 ガチが嫌な人は


 違う場所を紹介します 」



シンジの決意表明も終わり

僕らは足踏みをやめ前に進み始めた



その頃僕はチームnでの活動を

今期いっぱいでフェザーズに

専念することを約束し

残りの試合を助っ人として

出場することにした



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