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小さな栄光  作者: ジュン
44/59

〜 区大会デビュー 〜


形はどうであれ


新しい第一歩を踏み出せたような




その道は遥か彼方まで続き


まっすぐにその先を見つめると

背筋が伸びるのがわかった


初めての区民大会


そのスポーツセンターは

フルコートがゆうに二面あり

観客席まである大きな会場だった



小学校や中学校などを借りて

活動している僕は

改めてコートの広さを感じた


これだけ距離があれば速攻は

オフェンス側にかなり分がある


そう思ったのは思い過ごしで

長い距離を速く走るのは

きちんとした練習をして

体力がついている方に分があった



僕は試合15分前に会場入りした


ホントは30分は欲しいところだが

開場がその時間だった


とはいえ一応は開いているので

次はもっと早く来ようと思った



人が集まるのもまばら

アップもバラバラ


というより遅れてくる人になんて

合わせていられない


僕はアップを急いだ




試合開始までにはパラパラと

人が集まり僕は

ベンチスタートを指示された



相手のチームはみな大学生くらいの

若いチームだった


こちらでそのくらいの年代は

僕だけだ



まずは走り負けしないことと

早い展開への対応を心掛けようと

心の準備をしながら

試合開始直前の

ミーティングを聞いた



内容は特になく


2ー3のゾーンで守ってから

ハーフコートバスケットを

しっかりやる

トラジションゲームに付き合わない


くらいの確認をした



僕から見てもその辺の確認は重要で

良い確認事項ではあった


だがそれ以外のゲームプランはなく

試合の流れに対応するのは

個人の判断に任されているようで


その個人の判断の材料になるような

要素は練習で培われているとは

言い難かった




僕のユニフォームは9番

とくに意味はない


小さいサイズの空き番号だ



試合が開始された

僕は社会人での試合は初めてで

少し緊張していた



相手チームは身体能力の高い

若い選手が多く


高さで分があるこちらの

良いプレーはあまり出ていなかった



一番の問題はマンツーマンなどの

プレッシャーに対する弱さだった



なんとか食らい付いていくチームn


前半残り7分くらい5点ビハインド

(ゲームはまだ20分ハーフ)


7点差開いたら交代と告げられる



前半残り5分

点差が開く

そこで交代の指示




この瞬間


僕の新しい挑戦が始まった




オフィシャルに

メンバーチェンジを申請し

待機用のイスに座る


ボールがデッドになるまで

コートには入れない


僕は緊張していた



アウトオブバウンズ

オフィシャルが

メンバーチェンジをコール


僕の緊張は最高潮に…


達することはなかった



同じタイミングで相手チームも

メンバーチェンジ


コールがあってから僕に並んで

オフィシャルの前で交代を待つ

そのプレーヤーを僕は知っていた


フェザーズの練習にもたまに

顔を出す高校の後輩で

破壊的なスピード、跳躍力

それに似つかわしくないパワー


圧倒的身体能力で得点を量産する

オフェンスの鬼



後輩を相手に


「 負けねぇぞ 」


拳を合わせコートに入る



僕の緊張は消えていた




僕が入ったことによる

チームの変化はオフェンスには

あまり現れなかった


精力的なオフザボールも

無計画なチームプランの中では

良い形に結び付くことはなかった


それでもディフェンスにおいては

少しの影響があり

まず相手の

ファーストブレイクが減った


これは自分の用意しておいた

課題でもあったのですぐに

結果に表れた



しかし相手チームの

メンバーチェンジによる

チームへの影響は

うちのそれを凌駕し

大きな違いを見せ始める



僕の後輩、オフェンスの鬼は

本当に脅威的な身体能力を見せつけ


跳んだらフリー

という言葉がこれほど似合うやつも

いないというくらいに躍動した




体はないものの少しの

ディフェンス力と

リバウンド力をかわれ

2ー3ゾーンの下のサイドを

任された僕は


その身体能力にひるむ事はなかった



まずボールを持たせない

ボールを持たれたとしても

慌てずにそのプレーヤーの

プレーをさせない


僕のサイドでは仕事はさせなかった



だがゾーンをしている以上

コート内を追いかけるわけにも

いかず違う場所で失点していった




僕はふと思い出していた



高校のとき

体育館でシューティングをしてると

シンジが僕のところへやってきた


後ろに見慣れない若者が二人



「 ジュンさん お久しぶりです 」


「 おお シンジ


 練習始まる前には帰るよ 」


僕はバスケ部を辞めても

昼休みと放課後の少しの時間だが

自主練を続けていた




「 ジュンさんに紹介しときたい


 やつがいるんすよ 」


「 いいよ そんなの 」


「 いやいや部の歴史を勉強させないと


 レジェンドですから 」



なんじゃそりゃ

とツッコミながらも紹介をうける


まず一人目…名前はタカ

シンジと違って

良いシュートフォームを

持っていてスマートなプレーをする

シューターとして育てるとのこと


もう一人…名前はチャン

ベトナム人で運動神経が

めちゃくちゃ良いとのこと


そのチャン

僕のイメージでは身長はまぁまぁで

線が細いという印象しかなかった



それが僕の見ていない一年間で

豹変した


いわゆる化けたというやつだ

時期さえ違えばトップレベルを

目指せるほどに


異国の血の凄さを感じた


そいつが今僕の前に立ちはだかる



大化けしたチャンは

体の強さを身に付け

持ち前の身体能力に力強さを加えた

そして強力な

オフェンスマシーンへと変貌した



一人で強引にフィニッシュに

持っていくところを見ると

高校の時の顧問のプレーの影響か

チーム編成の影響か


どちらにしろそれだけじゃ

バスケは出来っこない



僕はずば抜けた身体能力も

運動神経もセンスも持っていない

でも無い物ねだりはせずに

生き残る術を探してきた


それが見つからないのならば

このスポーツをするのにあたり

魅力を感じず

のめり込むことはなかっただろう


僕は自分の出来ること

自分の能力でチームに

貢献出来ることそれを少しでも

わかっているつもりだ


それを実行する時は今だ




試合は相手の

オフェンスマシーン登場の

インパクトが強く


点差を広げられてハーフタイムを

迎えていた



やっぱあいつすげえな


速いよ 止められない


あんな高いシュート

飛んでも意味ないよ



皆口々に前半を振り返る


しばらく聞いたあと心の中で、

感想はもうやめよう

と一言呟いてから輪に入る



「 ゾーンを解きましょう


 個々をしっかり抑えるんです


 俺が付いてもいい 」


ゾーンを解けないにしても

ちゃんと意識して守る


脅威を感じたプレーヤーもけして

戦術的に機能しているわけじゃない

どんなに強さを持っていても

孤立させてしまえば怖くない




前半僕のサイドで

攻めきれなかったときは戻すだけで

戦術的なパスはひとつもなかった


ひとつプレーを止めればそこからの

連動性は極めて低い


あそこの連携は

うまく出来てないはずだ


その証拠にプレータイムは

疲れが少し出た前半の終りの

短い時間だけだ



この分だと後半もプレータイムは

短いだろう


それをわかった上で

みんなで心の準備をしていれば

怖いことは何もない



それよりも問題は

後半にどうやって

点差を縮めていくかだ



慣れないマンツーマン

ディフェンスを仕掛けるよりは

このままがんばるしかない

ということになり

僕は後半またベンチから


練習で何も用意が出来てないので

今さら引き出しをあさっても

何も入っていないということか




後半が始まった


チャンは予想通りベンチ

僕もベンチ


ほぼ動きのないまま5分が

経とうとするころ僕に

早くも交代の指示

と同時にタイムアウトを申請



ハーフマンツーに変えて

プレッシャーをかけようという作戦


どれだけの効果が期待できるかは

別として

マンツーマンで守るのは嬉しかった



「 ジュンくん 12番よろしく 」


そう


そうなんだ

試合を通して見てきたが

このチームは12番が

中心のチームだ


リーダーシップなどを考えると

こいつがエースだと

ずっと思っていた


身長やポジションのミスマッチが

あるにもかかわらず

12番のマークを任された僕は

いつもの通り

ノッた


「 任せてください 」




タイムアウトが終わるとすぐに

12番を捕まえる


身長も体格も向こうが上

当然のごとくリングに近い位置で

プレーをし出す


僕はボールを

持たせないように守った



相手のスクリーンなどを

かいくぐりながら

すべてのパスコースを抑えることは

不可能に近い


何度かペイントエリア内でボールを

持たすもなんとかシャットアウト


きっちりスクリーンアウトをして

セカンドチャンスも与えない



それでもポストプレーを

続ける12番


インサイドプレーに対する

ディフェンスに慣れていない

僕はとうとうフェイクにかかり

腰が浮いてしまう


そこをすかさず12番がドライブ


やられた



やられた

と思った瞬間、代表である

ビッグマンが

珍しくナイスカバーリング


ムキになっている12番は

そのまま勝負にでる


大きな相手にフックシュートを

試みる12番

遅れた僕はすかさず横から

そのフックをたたき落とす


次の瞬間僕は最前線を一人走る


ビッグマンは目の前の

ルーズボールを取ると

そのままタッチダウンパス



こうして僕の記念すべき公式戦

初得点が生まれた



調子に乗った僕は

ディフェンスに戻ると12番に

向かって手のひらを上に差しだし

手招きをした


馬鹿にしている訳ではない

エースとして実力も認めた上で

さぁ来いという気持ち


試合終了まで抑えてやる

何度でも来いという気迫だった




そんな僕もオフェンスでは

あまり仕事が出来ずにいた


気の弱さから余程確率の良い

場面でしかシュートにいかずに

アシストに徹するパサーが

僕のスタイルだった



そんな僕のスタイルは

トリッキーなアシストで

体育館に少しの拍手やどよめきを

起こすこともあったが

真剣勝負の中では仲間が

良い動きをして

やっと結果を出せる程度のスタイル


ましてやいつでも

ゴールを意識してはいても

ゴールにプレーしない僕は

怖いプレーヤーではなかった



ディフェンスでがんばるも

頼みのビッグマンがガス欠気味の

オフェンスでは追いつく

わけにはいかず


時間が経つほどに点差は開き

試合はなんとなく決まっていった




僕の公式戦デビューは

あっという間に

あっけなく終わった



得るものは抱えきれないほどに多く

その中にある課題では

それを克服するのに

とても多くの努力が必要なのが

手に取るようにわかった



どこかの誰かの言葉じゃないが


僕のこの小さな第一歩は

本当に大きな一歩になった


貴重な体験をくれたこのチームに

できるだけの恩返しと

フェザーズの前進に


僕は今まで以上に

精力的に働かなくては

と多いに思った出来事だった



僕に他人を導く力がないのなら

その役目はシンジに任せて


僕は僕自身


こんな小さな

こんな低い技術レベルの中で

たいしたことができなかった自分


それを理解し上達する


いずれは自分のプレーで仲間たちを

引っ張っていけるくらいに

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