〜 フェザーズ 〜
僕の人生で切っても切れない
強烈な光を放つ1ページ
偶然の重なりがまた物語を作り出す
そしてまた
新しい季節が始まる
「 ジュンさんバスケしてます?」
「 いや ほとんど 」
そう
僕はほとんどボールにも
触れないでいた
「 俺 チーム作ったんですよ
高校のOBで 」
そうか
シンジも引退するような時期か
「 ジュンさんも一緒に
やりましょうよ 」
え?
「 俺の代からしかいないし
先輩達に声かける気ないけど
ジュンさんは俺 呼ぼうと
思ってたんですよ 」
ほんとに?
「 まだ作ったばっかで
人もあまりいないんですけどね
一緒にやりましょうよ 」
まさか偶然にシンジに会って
バスケチームに誘われる
なんてことは
夢にも思わなかった
チームはシンジとその代の後輩が
中心でその後輩の現役も何人かいた
練習場所はシンジの出身中学校を
日曜の夜間に借りた
チーム名は出身高校名を
思わせるものを採用し
キャプテンはもちろんシンジがやる
人を集める大変さや
場所を借りる苦労などを
嬉しそうに僕に話すシンジ
「 友達で上手い奴がいるんですよ
同じガードだから
ジュンさん ベンチかなぁ 」
嫌味はない
楽しさが滲み出ている
「 俺が入ったらスタメンとるよ 」
僕もムキになるわけじゃない
その楽しみに加わりたい
そしてバスケをやりたいと
心から思った
次の練習の時間と場所を
詳しく控えて仕事に戻った
僕が仕事を始めてから少し
ユウも就職してふたりの日々は
気忙しさに追われていた
その少ない時間
数少ない休日が減るとしても
僕がバスケをすることに
ユウは賛成してくれた
1DK土手沿いにある
マンションのキッチンで
ユウは夕飯の用意をしながら話す
「 やっぱバスケしてなきゃねぇ
働いてるけど大学生の歳だもん 」
僕は中学の卒業前に買ってもらい
高校の二年間では履き潰せなかった
ランバードのバッシュを
押し入れから出した
「 俺 もう一度やり直そうと思う
高校では何もしていないから 」
「 ジュンは何もしてなくないよ
シンジくんみたいな後輩は
ジュンが頑張ったから出来たんだよ 」
僕はあいつにたいしたことは
してあげられなかった
「 卒業式の日
花束を贈られた人なんか
他にいなかったじゃん 」
ユウは夕飯の用意を一旦やめた
「 何もしてないから
やるんじゃないよ
今まで築き上げてきたものが
ここでまた道を繋いでくれた
だからまた歩き出すの
…あれ なんかジュンみたい 」
ユウはこれ以上ないような
笑顔を見せた
「 うん 自信持って
そして 感謝して やるよ 」
僕は着替えとバッシュの入れられる
バッグを探した
僕はシンジに言われた通り
暗くなって生徒のいない
学校へ向かった
真っ暗な校庭は高校時代に
練習量の少なさを補うために
真夜中忍び込んで練習した
中学校を思い出させた
煌々と光りながら黒い
校舎のシルエットから
浮かび上がる体育館は
存在感を示している
「 こんばんわぁ 」
少し開いて明かりのもれる重い扉を
左右に開いた
「 ジュンさん 来ましたね 」
ようこそと歓迎を受けて見渡すと
見た顔がいくつも見える
高校でキャプテンだったシンジ
その次のキャプテンと
そのまた次のキャプテン候補
高校のOBと現役の
男女で構成されていた
チーム名は「フェザーズ」
出身高校の名前を彷彿とさせる
チームカラーはガチで練習して
勝つチームを作ること
とは言うものの
とりあえず練習を成立させるために
現役部員や知り合いを
呼んだりしているため
チームというには程遠い
メンバーもスタイルも
決まっていないし
練習メニューすら
その場で決める
ひどいと言えばそれまでだが
作り上げる楽しみもありそうだ
僕はメンバーでもないのに
もちろんタイトな
マンツーマンからの
走るバスケでしょ
と勝手な構想を思い浮かべた
「 ジュンさん 今こんなだけど
とりあえずは練習来てください
いずれはチームを固めるのを
手伝ってくれたらうれしいっす 」
シンジは僕に強く
メンバー登録を勧めた
とてもうれしいことだった
ただブランクというものは
コンディションに
とても大きな影響を持っていて
自分では出来るはずと
思い込んでいるプレーが
イメージ通りにはいかない
それはディフェンスにおいて
顕著に現れた
スクリーンを
ファイトオーバーするときに
上体が起きてしまいしりもちを
ついてしまったり
普通に1対1の場面で足が
付いていかなかったりと
ひどいものだった
自分の中では
相手の動きは見えていて
一歩目のサイドステップで軽く
コースに入れてるイメージなのに
なぜか体がそこまで動けていない
壁や仕切り板など近くにあるものを
手当たり次第に蹴り飛ばす僕に
練習の雰囲気は悪くなることもあった
週一回の練習でコンディションを
取り戻すのは厳しいと判断した僕は
家の立地を生かし
夜に土手でのランニングと
広場でのフットワークを始めた
もちろん家の中で出来る筋トレもだ
まだまだ慣れない仕事との
両立は難しく
疲労回復に休日を
潰すこともあったが
休みに出掛けられないことに
ユウはひとつも文句は言わない
自主トレの成果もあり
僕のコンディションは
日に日に上がっていった
それと共にシンジの
チーム改革も進んだ
「 遊び気分でやってんじゃねぇ 」
シンジの言葉は
彼女連れの後輩に向けられた
練習の合間に
コートサイドに座り込み
ヘラヘラしている奴だった
ユウは行く度に見学用の
椅子を後輩が持ってくるので
そこで大人しく見学している
練習が終るまで僕がユウと
口をきくことはほとんどなかった
それは最初からだった
チームの方針などが
決まってきたころはひどかった
練習に来た人数が
三人なんてこともあった
それでも自分たちの
やりたいバスケをしていこう
という目標において僕らは
足並みを揃えていた
チームの方向性とメンバーの数
それによる練習メニューや
クオリティのバランスは
本当に難しかった
厳しい練習をすると
メンバーやゲストの参加率が
落ちてろくな練習が出来なくなる
練習を成立させるために
人を集めようとすると
チーム方針をエンジョイの方へ
少し針を戻さなくてはならない
悩み抜いた末に僕らが出した答えは
多少緩くても人の集まる場所にして
それから振るいにかけていこう
というものだった
高校のOBが多いチームではあるが
弱小校であったために
こういうバスケという
バックボーンはなかった
そしてチームをマネジメントから
ベンチワークまでこなせる
人材もなく
方向性というものはひとつひとつを
ミーティングで確認し
作り上げるしかなかった
週に一度の練習
月に一度は
大きなミーティングを開いた
もちろん週一の練習のあとには
体育館そばの公園で
毎回ミーティングをした
しかしプレーヤーとしても
一流と言えない選手達の集まり
思うようなチーム育成は
出来なかった
今出来ること
それは一緒にやっているという
相互理解
それだけは身に付けようと
チームメイトのプレーを見ろ
自分のプレーを主張しろと
言い続けた
しかし僅かなインテリジェンスも
持ち合わせないプレーヤー達は
それすらままならなかった