〜 変化 〜
日に日に変わる生活に
手に入れたものと失ったもの
指折り数えてみたら
あっという間に
両手じゃ足りなくなった
僕の生活にはたくさんの
変化が訪れた
残業もしなくなりイベントの
参加率も激減
バスケをする場所も
バイト先で手にしたものの
ほとんどが僕の手をすり抜けた
会いづらさに仲間との時間も
順調に過ごしていた僕の生活の
だいたいのものが失われた
その代わりに僕の世界に
やってきたのは
ユウだ
ユウは無くしたものに僕が悲しむ
余裕もないくらいに
たくさんのものをくれた
僕のバイトに合わせて
朝の7時30分にいつもの公園で
お弁当を渡してくれた
女の子らしさが苦手なユウが
得意じゃないなりに作ってくれた
僕は家で夕飯を食べて風呂に
入ってから22時にユウの
コンビニに弁当箱を返しに行った
ユウはアルバイトをもう一つ
僕と同じ二つ離れた駅で見つけた
ユウがいればそれだけでいい
ずっとそう思ってきたけど
ほんとにそんな毎日だった
僕はそんな幸せに
他に何一つ要らないと思った
でもユウには気がかりがあって
それは僕がバスケをする
機会も失ったこと
たまに
「 バスケやれば 」
と言ってくる
でもそんな場所も時間もないし
僕はユウが心から笑える時間だけを
与えてやりたかった
もちろんバスケをしたかった
でもユウと一緒にいれる以上の
ことは他になかった
そんなとき懐かしい響きが
僕の家の電話を鳴らす
電話はシンジからだった
「 ジュンさん どうです?
最近やってます? 」
もちろんバスケのことだ
「 まったくだね 」
冴えない返事だが僕がそれを
気にしていないことを感じとり
シンジは説教するように言う
「 なにやってるんですか!
やるとこないのわかるけど… 」
うちらの部活にくるのは
気が引けるから仕方ないにしても
何もしてないのはダメ
もったいないです
と、ダメ出し
「 俺今 部活以外にも
区のスポーツセンターとか
行ってやってるんで
一度行ってみてください 」
そんなものあるんだ
知らなかった
「 ふぅん シンジくんが
そんなことをねぇ
今度行ってみれば
あたしも付いていくから 」
シンジからの電話の話をすると
ユウはぜひやりなさいと言う
「 ジュンはやっぱバスケだよ 」
「 そうかなぁ 」
「 そうだよ
そんなこと言ってくれる
後輩がいるなんて羨ましいよ 」
それは僕が頑張ってバスケを
していた証拠なんだと教えられた
シンジが言うには隣の区の
スポーツセンターで月に
何回かバスケ一般解放の
日があるらしい
公共施設のため在勤、在学の人が
格安で体を動かせるところらしい
「 裏から入ればただですよ 」
いやいやもうそんな
学生気分じゃいられないし
僕は場所を調べて電話で
スケジュールを確認した
「 あたし これやる
ロッカーあるし 」
ユウも調べていたらしく
ジムでトレーニングすると言う
「 バイクやるんだぁ 」
ユウが汗を流しながら地道な
トレーニングを…
意外だが
そんな楽しみを見つけて僕の
バスケをする場を
作ろうとしてくれること
感謝している
初めて行ったスポーツセンター
更衣室を出てユウはジムへ
僕はコートに
係りの人が仕切っている
「 こっち 経験者~
こっち未経験者と自信ない人~」
僕はブランクもあるし
当然自信ない方に参加した
シューティングやランシューなど
軽くアップをしてハーフの3対2
係りの人がやってくる
「 何やってんの!
君あっちね~ 」
はい、いいけど
ゲームになってブランク出ても
知らないですよ
シンジの話では外人さんなども
顔を出してて
アリウープとかしてたらしいので
自信ない組に入ったんだけど
そんな心配の必要もなくその日は
そんなレベルの人は
来ていなかったので
久々のバスケを楽しくやれた
でもかなり体力や筋力が落ちていて
コートに出ることや
ボールを持つ以前の問題な気がして
少し悲しかった
ロッカー近くのベンチにはすでに
ユウが座って待っていた
「 楽しいんだけど
すぐ疲れて続かない 」
それはね
「 ただの運動不足だよ 」
僕の住む家の近くには一般解放している
施設は見つからなかった
いや見つけ方がわからなかった
今と違ってインターネット環境
などもまったく
浸透していなかったから
僕とユウの予定と
一般解放のスケジュール
隣の区まで行く元気
いくらあっても足りないくらいの
ふたりの時間では
なかなかバスケは出来なかった
そうしてる間にも春が近づき
新しい社会という環境に
身を乗り出さなければ
いけなくなっていた
僕はユウとの時間や場所を
確保するために
就職をすることにした
一人暮らしをするためだ
親には一応勉強をして
去年と同じ学校を受験して
落ちたことにした
ユウも同じ理由
同じ経緯で就職をすることにした
バイトの休みの日に職安に行き
いくつか目星を付け面接に
一年を費やした浪人生活の結果
やりたいことは具体的には決まらず
ただユウといたい
それしか決まらなかった
でもそれでよかった
僕は社会のことも勉強せずに
自転車で私服のまま
となり駅の工場に面接に行った
そこは小さな工場で汚かった
僕はやりたいこともなかったから
なにかものを作る仕事を
してみたかった
社長は私服の僕に少し
戸惑いながらも熱心に仕事の
内容や、規模は小さくとも
誇れる技術があることを説明した
面白かったので僕も熱心に聞いた
最後に給与面の説明があり
その頃はピンとこなかったが
かなりの高給だった
明日からでも来てくださいと言われ
連絡しますと伝えて帰った
家に帰った僕は
親に面接の事を話した
親の意見は
お前がやりたいように
やりたいことを
自分でやるのは良いことだ
就職も良いし
一人暮らしも良いだろう
ただひとつ…
あまりにも小さすぎる会社だけは
避けてくれ
それ以外は何も言わない
その親の意見を聞き
申し訳ないが辞退の連絡をし
次の就職先を探した
次に面接の連絡をした企業は
一般的にはあまり知られない
分野の仕事で
業務内容がよくわからなかった
面接をお願いする電話にでた
総務担当に聞いたときも
「 ん~ 内容ねぇ 僕も
よくわからないんだよね~ 」
なんだこの会社
とも思ったが、場所や給与面と
嘘っぱちの完全週休二日制
ということで
面接を受けてみることになった
僕は少しは気を使ったが
懲りもせずに
ボタンダウンのシャツにノータイ
綿のパンツにブーツ姿で
面接に向かった
社長と総務のおじさんが
並んで座っている
「 君の親は注意しないのか?
それじゃ社会に出れないぞ 」
僕にはわからない
「 親には関係ないので
今日の事も知りません
ダメなら僕の責任です 」
なんか普通に20分ほど
世間話をした
面接の結果、合否の連絡は
後日郵送しますと
総務のおじさん
そして社長が帰り際
「 靴のサイズはいくつかな?
注文しなきゃいけないから 」
バブル気分も抜けきらない
これもご時世か
数日後、採用通知が届いた
就職をして家も出て
マンションに越した
2ヶ月くらいして会社関係の
健康診断があった
僕の体重は少し減り血圧は二十歳と
思えないほど低かった
僕のマンションは住み慣れた街の
となりの駅にあり
ユウは門限ギリギリに
僕の部屋から帰る
ユウの自転車を僕がこいで
後ろのステップにユウが乗る
いつもの駅まで行くと
ユウは自分の自転車で帰り
僕は電車に乗って自宅に帰った
その帰り道
ステップに乗り
僕の肩を持っていたユウが肩と
上腕のあたりを触りながら言った
「 こんなに細かったっけ? 」
ユウとの時間、仕事の忙しさ
いろいろとあるが
ショックな言葉にかわりなかった
スポーツセンターのバスケも
なかなか行けないまま
数ヶ月が過ぎた
仕事も少しだけ慣れてきて
ひとりで会社に帰るときなどに
会社近くのゲームセンターで
時間を潰すのが日課になっていた
僕がよくやっていたのは
学生時代よりも格段に進化した
格闘ゲームと
その後、何シリーズも続く
人気サッカーゲームの
NBAバージョンだ
僕が一番使ったチームは
JAPAN GAMESで東京ドームまで
見に行った
ジェイソンウィリアムズ率いる
サクラメントキングスだ
サッカー人気とバスケ人気の違いか
サッカーは何シリーズも
続いているのにバスケの
バージョンはその一作だけで
続編は出なかった
僕は時間を潰そうといつも通りに
ゲームセンターに寄って
ゲームをしていた
座ってゲームをしていた僕の
肩を叩く人がいる
僕は反射的に後ろを振り返る
「 何サボってんすか! 」
笑いながらそこに立つのは
シンジだった
僕はびっくりして
ゲームもそっちのけで
シンジに聞いた
「 シンジこそ 何やってんの? 」
「 俺んち この辺すよ
地元っす! 」
「 マジかっ! 」
びっくりとしか言い様がない
「 ジュンさん 時間大丈夫? 」
「 だいじょぶ
サボってるくらいだし 」
いい加減と言えるような就職をして
てきとうに仕事してた僕
知らぬところでまた
運命の螺旋が重なりあう




