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小さな栄光  作者: ジュン
39/59

〜 再会 〜


ほんの数ヶ月会わない時間が


何十年と感じた



会えないときがこんなにも


長く感じるなんて


バイトはユキと一緒に働ける

可能性もあるので今まで以上に

残業を引き受けた


ユキと仲の良い大学の先輩には


 「 Power of love 」


などと茶化されたが

悪い気にはならなかった



残業を頑張り仕事も出来る僕は

店長やマネージャーにも認められ

契約からにはなるけど社員に

ならないかと誘われていた


ただのパン屋ではあるが母体は

日本最大手の製パンメーカーだ


前向きに検討することにしていた



そんなでバイトとほんの

たまにあるバスケが

僕の生活の軸になっていた


バイト仲間で飲み会などがあると

真っ先に予定を聞かれ

誘われない飲み会はなかった




充実して送るこの毎日はまったく

新しい生活だった


高校のときの友達とは

何ヵ月も会っていない



駅から家に帰る途中にある

コンビニでユウは

アルバイトをしていた


だいぶ前にはよくバイト帰りに

寄っては買い物がてら

ユウに逢いに行った


その度に買った食べきれないお菓子や

飴が家にはまだ残っている


少し前に距離を置いて

考えてみようと自分の中で

決めたときにでも

コンビニの前を通り姿を探した



元気そうな姿を見掛けるだけで

僕はそれでいい気がしていた



そんな僕も今では

帰りの道を変えてまっすぐに

家に帰っている




その日も僕はバイトを終え

いつもの帰り道を帰る


コンビニへの道には曲がらずに

まっすぐ商店街でペダルをこいだ



ユウの家は商店街に面しては

いたもののだいたいが裏の

道を通り出かける


コンビニへ行くときもそう


だいたい僕のバイトが終わった

この時間はユウはコンビニで

働いている時間だ



だから商店街をまっすぐに

帰るのがなんの意識もせずに

通る普通の帰り道になる



僕はまっすぐに自転車の

ペダルをこいだ



今、僕は生きている


少し背中を押すかのような

ゆるい下り坂で限りなく

まっすぐな歩きやすい道を


そんな道を素直に歩いている


自然と過ぎゆく毎日のようにまっすぐと




ふと見ると遠くから歩いてくる

見慣れた顔があった


僕はびっくりして自転車を止める



ユウ?



 「 ジュン… 帰り?


  久しぶりだね 」



何年振りだろうかと思うくらいに

懐かしさが込み上げる



 「 そんな久しぶりじゃないよ 」




二人がほんの少し口を閉じた時が

永遠のように感じられた




ユウがそっと口を開いた



 「 そっか… 少し時間ある? 」



ユウは僕を家の裏にある

小さな公園に誘った



工場の間にある奥に細長い公園


いつきてもほとんど人影はない



奥にあるブランコやベンチに座ると

入り口ははるかに向こう

その先には人気の少ない道がある



そこは現実から遠ざかった場所


目では見えても隔離された世界




その公園の奥にユウは歩いていく


僕は入り口に自転車を止めた

考えながら歩く



ユウはこんな時間に

どこに行くんだろう


今何してるんだろう


服装が変わったなぁ


せっかちなユウは出かけるのに

時間に余裕は持たない

こんなことしててだいじょぶか?



いろんな疑問に何一つ

答えは出ぬままに


ユウのいるベンチに着く



 「 ほんと 久しぶりだなぁ 」


さっき僕が否定したことをもう一度


そう言いながら少し汚いベンチの上に

乗っかり背もたれの上に

腰をおろした



僕はユウの目の前に立ち


ユウを見た




髪型も少し変わってる


服装も大人びたワイシャツを

ラフに着てピアスと胸元の

ネックレスが光っている


少し女らしい化粧もしていて



こんなに綺麗なら街で見掛けた

だけでも惚れてしまいそうだ



僕は少し緊張もあるし

僕の方からみんなと距離を

おいた事もあり話しづらく

口をひらけずにいた



かと言って沈黙が訪れるわけなく



 「 まだパン屋やってるの? 」


 「 うん 」


 「 忙しい? 」


 「 うん 」


 「 誰かと会ってる? 」


などと質問が続く


もちろんその質問の答えはNOだ



 「 あっ それ


  一緒に買ったスニーカー 」


 「 うん 」


Tシャツもジーンズもだよ




そう考えるとユウもこの公園も

僕には思い出深いものだ


目の前にある大切なもの


手を伸ばせば触れることも

できるものをなぜ僕は自分から

手放そうとしていたのか



今の順調に充実した生活すべてと


君の笑顔


そのどちらが僕にとって

大切なものなのか



比べられるものではないけれど


比べてはいけないけれど


僕にとっては違う意味で

比べられるものではない



君と比べられるものなんてないんだ



そんなこと想うと僕は黙り込んだ



ユウもなぜか単調に決まりきった

ような手探りな会話をしていた



黙っている僕がユウの

そんな雰囲気を感じると


ユウも黙ってしまった




重苦しい雰囲気を壊す

言葉が見つからず


僕はユウを見た




ユウはうつ向いたまま


 「 … ジュン …… 」



 「 ん? 」



すぐに次の言葉がつながらない



僕はユウの言葉をゆっくりと待った



次にユウが顔を上げたときは

大袈裟なくらいな笑顔で


僕らの間にはそんな作り笑いは

なかったはずなのに



無理な笑顔でユウは聞いた


 「 ジュン 今…幸せ? 」



唐突な質問だった


僕は平静を装い即座に答える



 「 うん 幸せだよ 」



その時の僕の笑顔も

作り笑いだったのだろうか


僕は嘘をついていた




 「 そっか それならいいけど 」



またうつ向いたユウの表情は

うかがい知れない



僕はユウに心配をかけたくない

気持ちでいっぱいだった



自分が望んだものすべてが手に入る

わけなんてないんだ



人間にはいろんな器があって


いろんな道をいろんなリュックを

背負ってそれぞれが歩いている


そのいろんな道が時には

ひとつになったり交差したりして

人は繋がっている



その僕の道の先に君がいなくても


僕はもう嘆いたりなんかしないんだ



僕は僕の道で足元に小さく輝く

ものを大切に育てていくんだ


人はきっとそれを幸せと呼ぶんだろ



それが僕の出した答えだ


だから僕は君に嘘をつく




優しい君のことだから

僕のこと気にしてくれて

いるんだろうな



僕の嘘


それで君が余計な心配をせずに

生きていければ僕は幸せだ



そんな風に生きていこう



幸せなんかじゃない


君がいない今は

幸せなんかじゃないんだ


あの頃に

僕が見ていた夢は君なのだから



なんて本音はそっとしまっておくよ



すべての人の思い描く未来が

ひとつなはずはないのだから




 「 本当に? 」




 「 うん 幸せだよ 」




僕の笑顔はやはり気付かないうちに

作り笑いになっていた



別れ際に見せた君の淋しげな顔は

気のせいだったのだろうか



そのころは自分のことばかりで




ユウと再会してから


もっともっと自分のことや

ユウのことを考えるようになった



そして今を



僕はユキを大切に

今いる道を大事に生きていこう

という考えに変わりはなかった


それ自体が僕の

独りよがりでしかないことには

気付かずぬまま




ユキとこの先やっていくには

僕にとってのユウの存在を

無視できない


そう判断した僕は早い方が

いいだろうとユキに話す決心をした



それは僕にとってとても大事な存在

これから僕の人生に幾度となく

登場するであろう存在



その道で急に鉢合わせして

驚かないように




 「 ちょっと話があるんだ 」


バイト帰りの僕は喫茶店で

ユキに切り出した


ユキは今日、バイトは休みだ



 「 ユキとこれからちゃんと


  お付き合いしていくために


  話しておかなきゃいけない


  ことがある 」



僕の人生に必要不可欠な存在がある

それは女性だがとても大切だ

男女という概念は超越して

死ぬまできっと

僕の人生に関係していく


そういったことを説明した



 「 私にとっての先輩と同じ? 」



なんでも相談できる先輩

僕もバイト先で何度か会っている


 「 ユキを頼むね 」


と言っていた先輩は


頭も良くとてもいい人だった




 「 いや そんなんじゃないんだ 」


言葉では言い表すのは難しいけど

そんな単純で簡単な存在じゃない


そう僕はユキの人生を否定した



ごめん


比べたり並べたりできる

ものではないんだ


とにかく僕と付き合っていくなら

一度会ってもらいたいし

僕と同じように

末長く仲良くしてほしい



自分勝手な意見を押し付けて

ユキに了解を取りつけた




同じことをユウに言うまで少し

僕には時間が必要だった




僕の中でユウの存在を割りきって

ユキと同じ道を歩いていこう


決してその道が間違ったもので

永遠に続いていくもの

じゃないとしても


僕にとってのユウの存在は

そういうものとしていかなければ

いけないんだ


それがユウとともに

歩ける唯一の方法


そう割り切らなければ




僕はユウの仕事が終わる時間に

コンビニまで出かけた



終わったら行くからいつもの公園で

待ってるように言われ公園に行く



昼間と違って真っ暗な公園


奥のベンチは暗すぎる


僕はブランコに座りゆらゆらと

揺れながらユウのことを待った



しばらくするとユウが

小走りでやってきた


 「 お待たせ~ 」


 「 おつかれさま あの… 」


ユウを前にするとなんだか

うまく話せない


 「 ジュン? どした? 」


 「 俺にとってユウは


  とても大事で


  …その …あの… 」



はっきりしない僕に

ユウはイラつきもしない




 「 ジュン 時間ある?


  あるなら一回帰るね


  風呂でくれば少し時間できるから 」


ユウの家にはお風呂が無く

銭湯通いだった


そしてすごく厳しい家で

夜に外にいれる人ではなかった



22時のコンビニのバイトの後なら

片付けなどと言ってもせいぜい5分


銭湯に行くと出てくれば

10分や15分なら

話す時間ができる


その分その日の銭湯にゆっくりは

入れないのだけど



僕は一旦帰宅したユウを待ちながら

決心を固めた


ユウに迷惑かけたくないから

時間をかけちゃダメだ



単刀直入に言おう


ユウはすべてを受け入れて

くれるはずだ



なかなか出てこないユウに

僕の緊張は高まっていった




公園のブランコにひとり

夜空を見上げた


東京の汚い空に星はあまり見えない



僕の回りも見えにくくて不確かな

ものばっかりだ


その中で唯一力強く光輝く星


それがユウだ



君にこれ以上好かれようなんて

ことは思わない


君はある程度僕のことを認めている

それ以上を求めるなんて罪なことだ


だから僕を見ていてほしい


ありのままの僕を




しばらくして風呂桶片手に

ユウがやってきた

今度は小走りでなく走って


 「 ごめん 待たせちゃって 」



 「 ぜんぜん平気だよ 」



そして僕は話し始めた




僕にとって君は何にも代えがたい

とても大切で必要な存在なんだ


君の進む道の

邪魔にはなりたくないから

だから僕は自分の道を行くよ


そのありのまま

ひとつひとつを見ていてほしい

そしてどんな形でもいい


僕のそばにいてほしい




 「 バイト先の女の子と


  付き合うことになったんだ 」



 「 うん … 」



 「 ユウに紹介したいんだ 」



 「 …… 」



しばらくの沈黙のあと





 「 ジュンが


  そうしたいならいいよ 」





数日後の休日


バスケの用意をした僕は

ユウを迎えに行く



自転車でいつもの駅への道を走る


僕らの待ち合わせの場所はいくつか

あったが今日は細い路地に

入るところにある床屋の前だ


僕は少し早く着きユウを待つ


待つのが苦手なユウだから

たいていのときは僕が先に着いて

待つことにしていた



やってきたユウは少し

雰囲気が違っていた



パンツにブーツはいつもと

そんなには変わらないけれど


真っ黒なTシャツの上に透けた黒の

アウターをぴったりと着て

少しハードな感じだ


メイクもほとんどせずに

髪型もこの前とは全然ちがって

全体的にすごいボーイッシュだ



 「 行こっ 」


そう言ってユウは僕の自転車の

後ろのステップに飛び乗った




次の待ち合わせ場所には

ユキが先に来ていた



お互いのことは僕が説明済みなんで

軽い紹介をして体育館まで歩く


二人は話しづらく会話もないので

僕が必死に場をつないでいく


こうなるのは予想はしていた

最初だから仕方ないと



体育館に着いても重苦しい

雰囲気は変わらずユウは体育館に

入らずに入り口前の

ベンチに座っている


練習が始まっても入ってこない



 「 大丈夫? 」


ユキが心配で僕に聞いた


 「 もう一度聞いてくる 」


僕は練習の合間にベンチまで行く


 「 ユウ 中にイス用意するよ 」



 「 あたし ここでいい


  バスケ好きじゃないし 」


そう言って持ってきた新聞を読んでいる




球技大会のとき

決勝を応援に来てくれたユウは


その日、体育館にすら

入ってこなかった



練習を終え、ユウがすぐに帰る

と言うので体育館からの

道のこともあるしふたりで

先に帰ることにした



ユウの雰囲気は変わらぬまま


僕は何も言えずにいた



特にたいした話もせぬままに

電車を降り僕の自転車に

ニケツで帰る



ユウの家の裏に着き

どんな雰囲気でも

言わなきゃいけない言葉を

僕は伝えた



 「 ユウ 今日はありがと 」



ユウは少し下を向いて黙っている


 「 ユウ? 」



 「 ジュン あたし優しくないね


  ごめんね 」



その言葉を理解して

質問をする間もなく

ユウはそそくさと帰ってしまった



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