〜 最後の一年 〜
またひとつの区切りが
ひとつの季節になってゆく
暮れゆくこの季節で
手にするものはどんなものだろう
春を迎えるにあたり
僕は忙しい日々を送っていた
仲間みんなで楽しく高校生活を
締め括るために僕は三年生に
進級する必要があった
僕は追試に向けての補習でひと気の
少ない学校に通った
「 みんなで三年生なろうね 」
そう言うユウは勉強が苦手だった
僕は追試は初めてで、しかも
赤点ではなく寝坊での無断欠席により
テストを受けれず追試になった
まぁ起きて急げば間に合ったのに
いいや…寝よって二度寝したから
覚悟の追試だった
試験休み期間みんなと遊ぶのも
いいが、こんな形でユウに
会えるのも楽しかった
この時期いつもユウは補習で
みんなで集まっても
いなかったからだ
ユウと一緒に補習を通った僕は
「 やればできるんだから 」
追試は百点取りなさい
と先生に言われたくらい補習を
頑張り見事、三年生に進級
することができた
コース制のうちの学校は
クラス替えがなくまた同じ
顔ぶれで新学期を迎えた
新学期、気持ちも新たに僕は
いつもバッシュとボールを持って
歩いていた通路を
制服姿のまま体育館に向かった
やり忘れていることがあったから
「 先生 … 」
コンディションは全快には
程遠いし
モチベーションも戻りません
中途半端もよくないので退部します
顧問は驚く事もなく理解を示し
僕はバスケ部を辞めた
バスケ部を辞めるということの
メンタル的ダメージがまったく
無いわけではない
でも心の痛みは
膝の痛みほどもなかった
この時期の僕にとって
バスケ部というものは
それっぽっちの存在だった
それは結果が証明していた
それでも僕は日課である昼休みの
シューティングは辞めれずにいた
そして辞める必要も
ないと思っていた
甘ったるく楽しく日々を過ごす僕に
刺激を与えるイベントが訪れる
夏が終ると球技大会がある
今年の種目にバスケが決まった
僕はクラス内でのスカウティングを
開始した
バスケ部に入部するとき
僕の手を引き部室まで連れていった
元バスケ部員はもちろん
ダブって年上ではあるが長身の人
運動能力のあるサッカー部員などを
代表選手として招集した
休み時間にポジションと
フォーメーションの確認
体育の時間を使ってチーム練習
昼休みには個人練習をした
僕を中心にし、みなよく
指示を聞いてくれた
結局、高校最後の一年で
一番のイベントになった
この球技大会に僕はかなりの
気合いが入っていた
実は一年のときの球技大会の
種目にもバスケットがあった
その時はボールを奪うために
足を使ってバレたり
普段はほとんど口もきかないのに
試合中に怒鳴ったり
自分の体重の倍以上もある
柔道部員を吹っ飛ばしたり
僕のファウルだった
そんなで自分のキャラクターを
壊してまで奮闘したものの
結果は一回戦敗退だった
そのリベンジも含め今年は
是非とも優勝したかった
試験も終わり休みに突入しようか
というこの日の放課後
僕はバスケ部員やクラスの
球技大会でのメンバーを集め
体育館にいた
他のクラスのバスケ部員もいるので
戦術などの確認はせずに普通に
ゲームをしながら汗をかいていた
学生服のまま
サポーターも着けず
てきとうに流しているつもりだった
ムキになる気は到底なかった
なかったのに
僕はまぁまぁ高く
リバウンドに飛んでいた
流してやっていたのだから
高く飛ぶなんてしなくてよかった
そんなことあとから言っても
仕方のないことだ
僕の右足は誰かの足の甲の
上に着地していた
普通このシチュエーションならば
足首を捻挫しているところだ
ところが僕は足首を捻るより先に
角度に耐えられず体重を
支えられない体の一部があった
膝だ
僕の右膝は、躓いて転んでも
ずれる可能性を持っている
それは僕の身に何度となく訪れた
僕はそれをこう呼んでいた
異変と
僕の回りに人だかりが集まる
もう慣れっこだ
「 だいじょぶ 」
痛いのは直に慣れるから
少しだけほっといてくれ
すぐに落ち着くから
落ち着いてからコートサイドに
出た僕は考え込んでいた
球技大会のこともそうだけど
それだけじゃない
僕は普通の人間じゃないのかな
慣れっこだけどみんなは
こんなにはならない
なんで僕なんだろう
僕はバスケをしてはいけなかったの?
どんなに考えたって
答えなんて出ない
「 俺 … 帰るわ 」
心配そうにする人達に
もう大丈夫だからと告げ
僕は帰り支度を始めた
「 ジュン! どうしたの?」
それはユウだった
体育館バスケには興味もないし
みんなともう帰ったものだと
思っていた
そのユウがどこで聞きつけて
きたのかわからないけど、
僕の怪我を心配しに体育館まで
駆けつけてきた
「 だいじょうぶ? 」
うん
「 ホントに?!」
だいじょぶじゃないけど
いつものことだから心配する
ほどのことじゃないよ
ユウにはかなわない
「 そっかぁ よかった
でも 帰れるの?
あたし、送ってくよ 」
「 だいじょぶ 自転車乗れる 」
でも危ないから家まで着いてく
荷物も教室から持ってくるから
ここで待ってて
僕は言われるがままに汗を拭いて
体育館の入口でユウを待っていた
「 お待たせ よしっ帰ろ 」
「 痛ってぇ 」
痛くて足曲がんないや
これじゃペダルこげないし
「 じゃ ゆっくり帰ろ
歩くよりはいいでしょ」
うん
ゆっくり帰りたい
君との時間を大切にしたいから
さっきまで怪我してへこんでたけど
「 ユウといると気分いいや」
「 なにそれ~ 」
落ち込んでる暇なんてない
君の笑顔をひとつも
見落としたくないから
僕らは並んでゆっくりと帰った
のどかな土手の道を
下の広場では子供達が遊んでいる
すれ違うランナーは汗びっしょりだ
僕はゆっくりと進んだ
「 ユウ 時間ある?」
「 どうしたぁ?」
片足を伸ばしたまま、逆の足だけで
ちょこちょことペダルを蹴っていた
「 ちょと 疲れた」
「 いいよぉ 座ろっか」
土手から河原に降りて公園に
自転車を止めた
わざわざ一緒に帰ってもらって
本当に助かったよ
「 気にしないでいいよ
あたしがいてよかったでしょ 」
うん
君がいて本当によかった
手は届かないとしても
僕の近くにいてくれて
本当にありがとう
「 夏休みで怪我治して
球技大会 優勝するから 」
「 お がんばれ~ 」
「 応援するからね 」
そう言ってくれたユウがいた
僕は家の中では極力歩き回らずに
動くときもびっこ引かないように
気を付けた
僕の右足には最後通告が
出されていたからだ
もう一回やったら手術
僕は高校では手術をしたくなかった
もちろん二度とメスは入れたくない
仕方なくするにしても今の大事な
時間を使うのは嫌だった
何よりリハビリを考えたら
夏明けての球技大会出場は
絶望的になってしまう
それは避けなければならなかった
僕はユウに言った約束を果たすため
手術をするわけにはいかなかった
高校最後の夏休みをよく遊び
よく休み、怪我の回復に励んだ
僕の右足はほぼ回復したと言っても
よい状態にまでなっていた
傷ついた内部の状態はなかなかだ
だが脱臼の衝撃で伸びてしまった
腱はまだ少し緩いままなので
いつずれるかはわからなかった
僕は昼休みの練習はあまり入らずに
外からの指示に徹した
日に日に近づいてくる日程
未経験者の仕上がり具合を考えて
ディフェンスはトライアングルツー
を選択することにした
部員枠のオンザコートツーに対して
僕ともうひとりの元バスケ部員
コンビで対抗する作戦だ




