〜 ユウ 〜
気まぐれでつかみどころがなく
男勝りで寂しがり
強くて優しい人
僕を普通の生活に
そして新しい世界に
引き込んでくれたのは
同じクラスのユウだった
女性とは思えない心の強さを備え
まわりの人を惹き付けていた
クラスでは目立たずにいた僕は
まだまだおとなしそうな人間の
ままだった
そんな僕は仲良しグループや
活発な人との接点を
ほとんど持っていなかった
たまには僕に興味を持つ人も
よっては来たが笑顔で
相手をしながら、そういった相手に
無関心な僕のそばにはいつかなかった
遅刻のくせに無愛想に教室に入ってきて
謝りもせずに席に座り寝る
昼休みに体育館で
シューティングをしては
汗だくで午後の授業を受けながら
飯を食って寝る
そして放課後は部活、終れば帰る
僕の印象はそんなものだっただろう
不真面目な生徒と
思われるかもしれないが
僕のいた学校では
十分に真面目でおとなしい方だ
ユウは活発な女の子で
いつでも人だかりの中にいた
そんなユウが
「ジュン 今日みんなでテツオの家に
行くんだけど一緒に行かない?」
数人のグループ
ほとんど口をきいたことがない
連中だがクラスメイトだし
断る理由もなかった
今日は部活ないし、どうせ
吹き溜まりのゲームセンターに
行くことになるところ
僕はみんなと一緒にテツオの家に
行くことになった
そのグループはたいてい男女で5、6人
テツオはその中ではリーダー格
とはいっても僕が最近
付き合っている連中なんかよりは
健全に毎日を楽しもうと
いうスタイルのグループなので
リーダーという程でもない
僕は家と逆方向の駅から
さらに駅三つ分も先にある
テツオの家まで自転車で行った
家までは急いでも30分は
かかる距離だ
普通は電車だが
暇はあるのに金はない
基本は自転車だ
「あれ? ジュン珍しいじゃん」
うん
「バスケ以外になんか興味ある?」
ない
「いつもなにしてんの?」
特にない
尋問が続いた
みんなは珍客に興味津々だ
「ジュンなんか面白いな」
その言葉に、ねっ
と得意気に笑ったのはユウだった
僕はユウの気まぐれで呼ばれ、
その面接に見事に合格したらしい
テツオが言った
「みんな 今日からジュンは仲間だ」
「なにカッコつけてんだよ」
周りがヤジる
ぎすぎすした生活を送っていた僕にとって
和気あいあいとした雰囲気は非日常的だった
僕は不自然さも分からないままに
打ち解けていった
休み時間はみんな集まってその日の
予定を打ち合わせる
授業が終ればいろんなとこに
遊びに行った
たいていが金がないといった理由で
誰かの家に集まった
ボケッと気ままにしてるやつ
夢を持ったバンドマン
勉強頑張ってるやつ、彼女優先で
あんまりつるまないやつ
いろんなやつがいた
そして僕のカテゴリーは
バスケに燃えてるやつだった
今まで僕の周りは、やること
なくてなんとなく生きてる連中
ばかりだった
ここでは日々を大事に
有意義に楽しんで
まるで心の財産を残すかのように
みな思い思いに輝やこうとしていた
その方向性の中心がユウだった
ユウの突拍子もない気まぐれは
時にみんなを困らせたけれど
それがどうしようもなく楽しくて
みんな付き合っていた
珍しい缶ジュースが飲みたい
確か小さなころ飲んだやつ
と言えば
みんなが街中を駆け回った
結局は見つからずに
「それって地方にしか売ってないよ」
って情報にたどり着いて
おかしくてみな笑った
ある時はユウがとなり街まで
行きたいと言い出した
何故かはよくわからなかった
となり街までは結構な距離で
普通は電車で行くものだ
だが電車賃がない奴もいた
みんなで行かなきゃ
気が済まないユウは
「じゃ チャリで行こっ」
みなびっくりしたけど楽しそう
という理由で自転車で行くことに
決定した
しかし自転車も人数分には足りなかった
しかも僕は膝の調子が悪く
自転車での長距離移動は無理だった
「ジュンはあたしのケツ」
あとはてきとうに交代でニケツで
行こっ、とユウが言うと
自分の自転車を仲間の一人に貸して、
僕の自転車の前に乗り込んだ
僕達は晴れやかな陽気と気分で
川沿いの土手の道を自転車で走った
走ること一時間半
着いた頃にはもう夕方だ
どこ行くでもなく
川辺を散策
「もう 帰ろうか」
また長い道のりを帰る
暗くなった道をひたすら進む
少しだけ寂しげな空のした、
一人じゃないことを感じた
不思議と僕達は笑顔だった
ユウは気まぐれなだけでなく
姉御肌で誰の相談も親身になって聞いた
ユウには自分の弱さを
傾けられるような、そんな強さがあった
そんなユウにみんなからの
信頼は厚かった
僕達の中でもユウと
特に仲の良かったのは
もうひとりの女の子で
名前はカナ
いつも二人でいることが多かった
いつからか、またユウの気まぐれで
その二人でいるところに僕が
呼ばれることが増えていった
いつしか仲良し二人組から
三人組になっていった
僕はおとなしいだけでなく
バスケしかしてこなかったからか
男女という関係に免疫がなく
女性に対してどう接して良いものか
わからなかった
そのおかげか特別な関係でなく
普通に付き合うことが出来た
僕はそれで良かった
女の子の友達なんて今までは
持ったことはなかったけど
たまたま仲の良くなった友達の
中に女の子がいただけだ
今のうちはそれで良かった
頼りになるちょっと気まぐれな姉御
そんなユウも僕の前で
弱音を吐くこともあった
「 あたしの思いつきで
みんなを振り回してるんだよね
わかってるんだけど…
迷惑かけちゃってる 」
そんなことない
それがユウだよ
そんなユウだからこそ
みんな集まるんだよ
上手く言えない僕は
「 俺はそんなユウが好きだよ 」
自然と口にしていた
その頃、僕にも悩み事があった
情熱の薄らいだバスケットと
楽しい学校生活
僕の学校生活は...
ユウをはじめとした仲間達と
共に過ごす時間は
あと少しのような気がした
僕にとってユウと仲間達が
大きな存在になっていった
が、卒業してまで関係が続くとかは
人付き合いができない僕には
想像ができなかった
電話越しのユウ
「 どしたぁ ? めずらしいね
今からぁ? いいよ 」
僕は家の近くの公園に
ユウを呼び出した
「ジュン どしたの?」
実はバスケ部を辞めようと思う
バスケをもうやらないという
わけじゃないけどね
バスケ部の練習に行くよりは
今はみんなと遊んでいたいんだ
そんなことを話した
「 自分で決めればいいじゃん 」
予想もしなかった答えだ
自分や仲間を想う気持ちを
受け止めてくれると思っていた
僕は突き放された
バスケを続ける事とみんなを
大事に思うことは別
ジュンと遊びたいからバスケ部を
やめてとは誰も言わないよ
大事に思われることは嬉しいけど
バスケ部をやめてほしくはないよ
ユウはそう僕を諭した
僕は自分の決断を、
バスケ部を辞める理由を他人に
預けようとしていた
「 もう一度考えてみる 」
ありがと
そう言った僕の胸の内は
ほぼ決まっていた
もう少しの間みんなと一緒にいたい
少しでも長く君を見ていたい
僕にないものをたくさん持っているユウ
僕は憧れの眼差しを向けていた
それはまわりのみんなもそうで
その魅力にひかれ僕達が
繋がっていた部分もあった
自分でもわからないけど
いつからか僕の想いは
それだけじゃない気がしていた
僕の憧れはいつしか好意に
変わっていた