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小さな栄光  作者: ジュン
30/59

〜 部室 〜


汗と埃と血と涙


理不尽と少しの自由



様々な想いが交錯する場所




窓ガラスを割ったことも


ロッカーを壊したことも




あの日々の僕らには


ちゃんと意味があったんだ




二年目の夏が過ぎ


秋空に切なさを感じる頃



僕の苛立ちは大きくなっていた



何かをしなければという責任感は


他人よりも努力することに

比例していた


そのプレッシャーを受け止めず



僕は進む道で靴紐を

結び直すふりして

座り込んだまま動けなかった



そしてチームの成長の足どりは

鈍かった




それ以外にも僕は故障によって

苛立ちを募らせていた



右膝の爆弾は中学の時に作った

サイボーグのような装具に守られ

沈黙を保っていた



でも何かがおかしい

わからないけど何かがおかしかった


その何かは僕の右膝に向けて

瞬間的な激痛と力の抜ける不自由を

繰り返し送っていた



激痛にびっくりして集中力は奪われ


不自由さにはその名の通りに、

膝から力が抜け転ぶことが増えて

プレーに支障が出た




少しは背も伸び体も出来てきた

とは言っても


僕は高校生になっても

華奢、見た目ひ弱に変わりなかった



膝の痛みは体の弱い僕だからこその

オーバーワークのようだった



練習は別メニューを命じられた




練習試合


アップに加わらず軽いランニングを

繰り返していた




プレータイムもかなり制限され


その中でも思うようなプレーは

まったくと言っていいほど

出来なかった



その僕個人の状況を差し引いても

チームの内容はぱっとせず


そんなに強さを感じないような

相手に大敗した



顧問にこっぴどく絞られた僕らだが

内容の薄い指摘と投げやりな叱咤に

顧問に対する不信感を抱いていった



僕らはまだまだチームに

なりきれていなかった




部室に戻りユニフォームを叩きつけ


壁に背を預け座り込む



ここで何をしているんだろう



そう思うと泣きたくもなった



僕の態度を見て部員たちは

それには触れず無言で帰っていく


みんなもいらいらしていて他人を

構う気にもならないのだろう



後輩たちも片付け半ばに

部室の雰囲気を感じ帰っていった



僕はあまりの気分の悪さに

ひとりになりたかった




ひとりになって少し経ち


部室に入ってきたのはシンジだった



シンジは部室の片付けを始めた


ただただ黙々と続けていた


僕は感情的になっていたために

目の前の光景が鬱陶しく思えてきて



「 シンジ 俺やっとくから


帰っていいよ 」



「あれ?ジュンさんいたんすか?」



うん いた 帰っていいよ



人がいることも気付かずに

部室の片付けをしていたのか


少し気持ちが和んだ


でも



「いいよ 帰って 」





僕は


バスケへの情熱を失いかけていた



現状への不満以上に


それを打開出来ない自分の非力さと


成長を感じ取れない

自分の将来性のなさに



スタートラインや歩幅の違う人間の

生存競争の中で大事なこと


それはあらゆるハンデを克服する力


誰もに平等に授けられた才能


努力する力


僕は圧倒的にその能力に欠けていた




誰もいなくなった部室にひとり


そんなこと考えていると

頭に浮かんでくる絶望の文字



何のためにやっているのかが

わからなくなっていた


僕の道なのに



バスケのない生活は長いことしていない


そんな生活を想像もできず


答えも出ずに



僕はその道に座り込んだ




へこんだロッカーの扉


木製の棚には新しい穴があいた


散らかった部室の中



僕の両手は


心の涙で赤く染まっていた



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