〜 ボックスワン 〜
技術、体力だけでない
戦略、戦術理解
目に見えぬ能力
ハーフタイムを迎えスコアを見る
相手シューターは20以上もの
得点を積み上げていた
弱小チームに休憩はない
僕らに10分という時間は短すぎる
けして有能ではない顧問が
有能でないプレーヤー達に
策を授ける
得策でないかもしれないが、
今出来るかもしれない
対応策を指示しても理解、
表現が出来ない
チーム力に限界がきている
「 どうすんだよ! 」
「 何点取られんだよ! 」
次第に抽象的になる指示は
疲労困憊のプレーヤー達の
頭には入らない
頭を抱える顧問は、控えめに一歩
さがって指示を聞いている
プレーヤーに気付く
僕は
強引に引っ張るオフェンス力もなく
危険な芽を摘み取る
カバーリング力もなく
力を出しきれず
疲労とは遠い状態で
顧問の悪戦苦闘を眺めていた
「 任せて大丈夫か? 」
何を言おうとするかは知っていた
今出来る事の中で
やるべき事はひとつだったから
「 はい やります 」
それだけ答えると
僕は入念にストレッチをやり直した
自信満々に
偉そうに
自分の鼻が伸びるのがわかった
ストレッチしながらミーティングの
声に耳を傾ける
「 ボックスワン でいこう 」
相手シューターに僕がマンマーク
残りの四人でボックス型のゾーンを固める
「 ジュンさん 頼みますよ 」
そう声を掛けてきたシンジは
目を輝かせながら顧問の指示を
聞いていた
やったことも聞いたこともない戦術
作戦盤に釘付けのチームメイト達
作戦の詳細を聞かずにひとり
横でストレッチ
根拠のない自信に僕も
後半に向け胸を踊らせた
前半、20点以上も取られた
それがチームの差に繋がっている
止めることが出来たなら
勝利は僕らの手の中
後半が始まりすぐさま作戦実行
「 来たぞっ 」
とは、相手シューターの言葉
そうだろう
こちらがそうくるのはバカでもわかる事
わかっているよ
僕達の引出しはこれがほぼ最後だ
君達に有効な次の策があれば、君らの勝ちだ
ただその前に
この戦術が通用するかどうか
プレーヤーとして
君と僕の
勝負だ
シューターはプレースタイルを
シュートからパッシングに
変えてきた
でも僕は気を緩めないよ
気を抜いたとこでシュート
されたら意味がないからね
あと
シュートが少なくとも
キープレーヤーがパッシングの
基点になるのはよくない
ディナイでいくよ
僕の独り言は増えた
僕はノっていった
相手チームは明らかに攻撃を
インサイド主体に変えてきた
それでも機能するほどの
システムではなかった
「 中だ 中っ! 」
シューターが叫びつつも
破壊力のあるオフェンスではなく
自分自身もシュートチャンスが
激減しフラストレーションを
溜めていった
このまま後半は僕らのペースに
なるかと思ったが
僕らにも出来る事は
もうなかった
タイムアウトを取り
「 よし、○番の得点止まってるぞっ 」
そりゃぁ、一点も取らせる気は
ないからね
が、ろくな指示も作戦もなければ
スキルもない
ただ時間だけが過ぎていった
ふと気を抜いた瞬間、スクリーンに
引っ掛かりチェックが遅れる
コーナー0゜からのスリーポイントチャンス
一進一退のどちらつかずの状況で
相手エースのスリーは危険だ
僕は必死にチェックにいく
スクリーンで遅れたために僕は
簡単にフェイクに引っ掛かった
スリーのチェックのために
力一杯飛んだ僕を横目に
シューターはベースライン側を
ドライブする
大事な場面、ベースライン側
ファウルをしてでも
止めなければいけなかった
空中の僕はなす術がなかったかに
思われた
でも僕は諦めずにごく自然を
装いつつシューターの進行方向、
顔の前に足を出した
当たってはとんでもない
ことなのでギリギリで
引っ込める
びっくりしたシューターは
ドリブルをミスし
僕はピンチを脱した
審判の死角?
ここ一番のピンチを
機転を利かし回避
僕は前半で20点以上を決めていた
シューターを後半フリースローの
2点に抑えた
しかし、それ以上の策も能力も
なかった僕らは惜敗した
そして僕の足だしディフェンスも
誰にも気付かれないと思って
いたのにベンチには丸見え
(この頃は20分ハーフ、
後半自軍ベンチ側は
ディフェンスだった)
「 あれ 足使ったっしょ? 」
「 っていうか球技大会でも足
使ってたよな 」
など突っ込まれた僕のイメージは
少し変わった
あいつはバスケでは人が変わる
あいつは勝つためならなんでもする
など
まぁ
悪くはないか




