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小さな栄光  作者: ジュン
10/59

〜 入院 〜

何不自由ない束縛された生活



ベッドにいるだけで三度の飯が出てくる

定期的な見回りや検温

両親しか面会出来ない小児病棟

回りは幼稚園児や小学生


麻酔科の先生の説明は緊張させるもの以外なく


手術室の先生の説明はいまいちピンとこなく、

ただ年齢的だったか、体格的にだったかは

忘れたが部分麻酔はできないので

全身麻酔でやることになった


強制的に意識を失わせること、

想像もできなかった


僕を落ち着かせるものは、

母親が買ってきてくれた漫画だけだった



僕に気持ちとは裏腹に着々と準備が整い

緊張の中、初めての経験を理解する

スピードよりも早く絶食の時間がやってきた


今回の手術での全身麻酔については、

意識がなくなる恐怖と何も見ない聞かない

ことの安心感は結局どっちつかずだった




当日は朝から母も来てくれて用意をした


年齢よりも幼い子供とそれを持つ親


テレビドラマのワンシーンかと

思うくらいの心配ようで、

手術室に入るのを見送り見送られした



前にも検査入院と書いたが成長途中の体を、

特に膝をいじるのを警戒して今回は関節鏡と

いうもので、言ってみれば中を覗く程度のもの


心配するほどのことではない




ただ膝の中を覗くカメラを入れるのに、

膝のお皿の回りに三ヶ所メスを入れた





僕の体に三つ



小さな穴が開いた




夜、電気の消えた病室の天井を見ていると

例えようもない感情が僕の頭の中を

ぐるぐるとまわっていた




どの傷口も小さく、

二つは二針、一つは一針縫った



そういえば手術中の記憶はない


全身麻酔も手術台に乗ってすぐに点滴ほどの

小さな注射を、緊張のメーターが

振り切る間もなく手際よく処理された


その注射ですぐに意識はなくなった



手術を終えた僕の記憶はもう病室のベッドに

横になり、いくつかの管を体に付けられた

まま見る、母の心配そうな顔だった


僕は麻酔の効きやすい体質なのか、

思いのほか目を覚ますのが遅かったみたいだ


そういえば僕のあとに手術をした小学生は、

「痛い、痛い」と泣きながら病室に戻ってきた


まだ意識もしっかりしてない状況で

僕は母親に悪態をついていたらしい


自分の記憶では鼻から入れた酸素の管が

喉に当たって痛いのでずらしてほしいだけなのに、

うまく言えずぶつぶつ文句を言っていたらしい




無事に手術も終わり、生活も落ち着きを見せた頃

と言っても翌日くらい


バスケ部のみんなからのメッセージカードと、

暇潰し用なのか木の板にゴールが

あってボールを弾くバネの着いた

バスケのおもちゃという、

入院しているという特別扱いとともに

来週退院という報せが届いた


大袈裟に入院までして、

たくさんの方に心配をかけて

クラスからは千羽鶴までもらって、

一週間も経たずに退院する


子供心に少し気まずいなと思った



しかも学校復帰は新学期始めの

朝礼のある日だったように覚えている


入退院とわずかな自宅療養は予想を遥かに

上回るほどに小さな体から体力を奪っていた


松葉杖で朝礼に出た僕は

「疲れたら杖に寄っ掛かってれば大丈夫」

だと思っていた、

だんだん疲れてきたから両方の杖に

寄っ掛かりながら、校長の話は耳に入らずに

何かおかしいなと思っていた


日差しもそんなにキツくない、

時間もそんなに経っていない


でも僕の意識は薄れつつあった


僕は背が低いので前から三番目くらいで、

正面奥には担任の先生が見えていた


でもどうしようもなく危なくなった僕は

もっと遠くにいたバスケ部の

顧問の先生の方を見上げた


その途端、先生は駆け寄ってきて、

小さな中学生の僕と変わらないくらいに

小さな女性なのに片手に松葉杖を持つと

もう片方の腕で軽々と僕を抱き抱えて、

校庭の隅の日陰に運んで座らせた


飛びそうな意識に思春期の恥じらいはなかった


あったのは自分よりも大きな子供たちを、

怒鳴り殴り付ける一流選手であり体育教師であり

顧問である先生のたくましさだった


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