「好きな人がいる」と同じ馴染みが言った
とても久しぶりに書いたものです。
「好きな人がいる」というフレーズが使いたくて書きました。
どこにでもありそうなお話ですが、温かい目でよんで頂ければ幸いです。
「今日、告白された」
「は?」
「職場の人。あーやり辛い」
いきなりなにを聞かされているのだろうか。
うん。色々贔屓目にみても告白されてもおかしくない奴ではあるが、こんなことを言われるのは初めてだ。
いや、初めてじゃない。何回か言われたことはあった。
初彼との馴れ初めも知っているし、別の彼氏を紹介されたこともあった。なんなら彼氏のプレゼント選びにすべて付き合わされている。妹とともに。
ただ、ここ数年は聞いたことがなかった。
「やり辛いってことは断ったのか?」
流されやすそうに見えるのにしっかり自分の意見を言うし、フォローもこなす奴だ。色々と信頼も厚いだろう。
いつのまにか笑顔にしてくれる、そんな自慢の幼馴染。
やっぱり告白されてもおかしくないな、うん。
「うん。この人じゃないなぁって。でも告白されて分かったことがあるんだ」
手に持ったスマホのストラップを弄る。肌触りのいいマスコットの頭を優しく親指で撫でるように。
少しだけ言いづらいことがあるときの仕草。
喧嘩した時や、相談したいけどなかなか言えない時はいつももそうだった。
自分の部屋にいたらきっとお気に入りのぬいぐるみを撫でていたんだろうな。
よし、1つくらい好きそうなぬいぐるみ置いとくか。
そんなことを考えてしまい少しだけ笑ってしまいそうになったけどすぐ消した。
きっとこんな顔を見せたら、続きを話してくれない。
結構意地っ張りだから。
「好きな人がいるの」
「え?」
「好きな人…うーん、気になる人?たぶん好きなんだと思う。恋愛的な意味で。自覚したの今日だけど」
いつもと同じ場所で、いつものように話しているのに、いつもよりも柔らかい表情。
あ、うん。本当に好きな人できたんだなとずっと見てきたからわかった。
これまで見たことのない顔だったから。
彼女が生まれたときからの付き合いで、幼馴染。妹の面倒を見るのと同じように面倒を見て、なんとなく気があって、年も離れているのに当たり前のように隣にいた。
でも、こんな顔は初めて見た。
この顔を初めてを見ることができて嬉しかった。
初めて彼氏ができた時もこんな顔はしていなかった。
笑顔だったけど、こんな顔ではなかった。2人目の時も。その次も。
学年だと7つ下の幼馴染。
3月の終わりに生まれた自分と、4月の初めに生まれた彼女
彼女の親の次くらいに長く一緒にいると思う。
3人兄弟の真ん中の彼女と2人兄弟の一番上。
初めて会った時も、初めて歩いた時も、喋った時も隣にいた。
彼女のすぐ下の弟が年子だから、手がまわらなくて真ん中の彼女が懐いているからと家によく遊びに来ていた。
年が離れているし、5つ下の妹とも仲がよかったから一緒にいることが多かった。
入学式も卒業式も見てきた。
初めて彼氏ができた時も、別れた時も、一人暮らしを始めた時も、就職した日も。色々な彼女の初めてを近くで見てきた。
これも初めて。嬉しい。でも少し胸が痛む。
「どんな人?」
「すっごく私を見ててくれる人でわかってくれてるって思う人!告白されてわかったんだよねーなんだろう」
少しだけ困ったような、でも嬉しそうなそんな顔も初めてでなんだかこちらまでドキッとしてしまった。
「その先輩ね、仕事もできるしかっこいいんだよねぇ。だから条件反射でハイッて答えようとしたんだ。でも不思議なんだけど【あ、違う】って別の人の顔が浮かんでね」
その顔も、声も全部から好きが溢れているように感じる。
いつもの距離だけど、少し遠い。
ああ、女の子なんだ。とわかっていたけどわかっていなかったことを理解した。
「気づいたらごめんなさい、好きな人がいるんですって言ってて自分でびっくりした」
笑った彼女の顔がとても輝いて見えて目が離せなかった。
きっと本当に好きなんだ。その人が。
自分の方がわかっているのに、と思うのにわからなくなってくる。
可愛い可愛い幼馴染。
その初めて見る顔に息を飲む。少しだけ赤くなっているように見える頬に唐突に冷たくなった手を添えたくなった。
それを堪えて笑った
「そっか。いい奴なんだ」
いつも通りに変わらないように。変わったらきっと離れていく。この場所は譲りたくない。ただそう思って。
「もちろんいいだけじゃないけど、でも喧嘩しても大丈夫って思えるのってすごくない? 喧嘩しても最後は素直に謝りあって笑顔で仲直りできる自信ある」
すごくいい笑顔で笑ってこっちを向いて。それが無性に腹立たしくもあって。
そこでようやく気づいた。
あ、好きなんだ。こいつのことが。ずっと隣にいて当たり前で、それがなくなるなんて思いもしなくて。
進学した時も、彼氏ができた時も、別れた時も、就職したあともずっと近くにいたから気づかなかった。
自分が何人かいた恋人と別れても、仕事で家出ることが決まっても、彼女と別れが来ることは考えたことはなかった。
必ず側にいる、無自覚にそう考えていた。
ずっと長い間、隣にいたから。
取られたくない。奪われたくない。この場所を、この立場を、彼女の隣を。自覚したらもう無理だ。
気づいたら笑顔で彼女を抱きしめていた。
「好きだから、結婚して?」
小さいときから何度も抱きしめたことはあった。
生まれて1ヶ月のすごく小さな赤ちゃんの時。
―妹以来の首のすわっていないフニャフニャの赤ちゃん。わがままを言って小さくて頼りないのに抱っこさせてもらった。こぼれそうな目と目が合えばふにゃっと笑ったような気がして守らないとと思った。
眠たくて泣いている時。
―眠たいなら寝たらいいのに、隣にいるから安心していいよと思って。
無邪気な笑顔でハグを要求してきた幼い頃。
―無条件で信頼してるのが分かるように走ってきて抱きつきにきてくれるのは誇らしかった。
悔しくて悲しくて泣きついてきたとき。
―悔しいなら成長できる。手助けはできる限りすると慰め、悲しさには寄り添えていたと思いたい。ただ涙を拭って頭を撫でていただけだが。
嬉しかったり、じゃれついたり。いろんなタイミングで抱きしめたことはあった。
そのたびに大きくなったなと思ったし、女の子になったなとも思った。
でもそれと今回のこれは違う。
誰かに渡したくない。好きな人がいるなら、そいつから奪い取る。伊達に長年隣にいない。
いいところも悪いところも知っている。
でも知らなかった。小さいと思っていたのに、思ったよりも大きくて、離したくなくなる。この温もりは他の男に与えたくない。
いや、でもいきなりはない。と思ったのはやらかしたあと。
――でももういい。
「いいよ。結婚する。でもいきなり結婚って」
笑いながら、抱き返してくれるその腕と、胸のなかで笑っているのがわかる息づかいにドキッとする。
大人の女性になっていた。気づいていたのに気付かなかった。彼女はいつも彼女だったから。
「いいのか?」
「いいよ。だって好きな人からのプロポーズは受けるでしょ。で、どうしていきなり結婚?」
なにを当たり前のことを、とからかい混じりに言われたが、好きな人と言われたのは今が初めて。
嫌われていないことはわかっていたけど今ので嫌われたらどうしようかと悩んだのはなんだったのか。
好きな人が自分だったのかと嬉しさが込み上げる。
「隣にいる公的な権利がほしい。ずっとそばにいたのにぽっと出の誰かに取られる今の立場が嫌だって今さっき自覚したから」
ため息交じりに吐露すれば、また笑われた。でも嫌じゃない。
ようやく自覚できた。近くにいすぎて当たり前だったから気付かなかっただけで、ずっと好きだった。
好きの方向が少しづつ変わっていたことをようやく理解した。
「なにそれ。でもわかるかも?」
「だろ?」
ずっと隣にいた存在が腕のなかにいる。
これからも隣に居続けたい。この腕の中に彼女を収めることのできる立場でいたい。
何かあった時に一番最初に連絡を受け取れる立場でありたいし、あってほしい。
「私も今日自覚したところだけど、ずっと見ててくれてありがとう。隣にいてくれてありがとう。好きになってくれてありがとう。これからも隣にいさせてね」
腕の中から顔を上げた彼女に唇を奪われた。
素早かった。あっけにとられた。
「私、好きな事を自覚したの今日だし、怒涛の展開で実はびっくりしてる。でもずっと変わらず好きだと思う」
そういい切った彼女の唇を奪い返し、合間にちゃんと伝える
「それは俺も一緒だ。この先もずっと隣がいい」
お互いの顔が赤い。でも幸せだ。
冷たくなっていた手は彼女の体温で温かくなった。
もう、ただの幼馴染ではない。明日、2人の実家に顔を出そう。そして、結婚の了承を得よう。
きっと祝福してくれる。
口付けを繰り返しながら明日からのことに思いを馳せた。
彼女の隣は、初めて彼女の見せる顔を見るのはこれからもずっと自分でありたい。
両家両親
「ようやくか」
妹
「今更?どう見ても半同棲してたじゃん。てか、勤務先も住む場所もどうみてもわざと選んでたよね、2人とも」
兄弟
「え?付き合ってなかったのか?あんなにべったりだったのに??」
本人たちは無自覚だったが周りからは公認だった。
住む場所は両家両親の計画。アパートは小さな道路を挟んだ真向かいに位置している。だいたい週一は必ず会っていた。
お読みいただきありがとうございました。
2人の名前が出てこないのはわざとです。
2人しかいない空間、長年共にいることの多かった2人であれば名前がなくてもそれすらも当たり前と思っている。そんな2人を想像して書いています。
家族が増えれば名前で呼び合うこともあるでしょうが。




