家族会議
「ちょっと、聞いてるの?」
目の前の二人に問いかけるが、反応は鈍い。
「大袈裟じゃない? ちょっと注意されたくらいで」
当事者がこの調子である。困ったような表情は可愛らしいけれど、流されるわけにはいかない。
「前にも話したよね。他の人たち以上に言動に気をつけようって」
「でも俺たちもう仮成人だよ? エーリカがいちいち責任取らされることもないし、平気だって」
「そういう問題じゃない!」
私が大きな声を出すと、ニコはうんざりした顔になる。
「私はあなたたちが心配で……」
「なら、もっと楽しませてよ」
「……は?」
「俺たちが暇しないくらい常に楽しませてくれてさ、欲とかも全部満たしてくれるなら、俺も大人しくできるかもね」
「……」
意味が分からない。私は無言でニコを見つめた。私にとって弟弟子であり──義弟のような、養い子のような彼は、不敵な笑みだけを返してくれた。言葉が見つからず、その隣に目をやると、ニコの兄であるアロンは黙って下を向いた。こちらはさっきからチラチラと手元の端末を見ているようだ。
「あんなに……かわいかったのに……」
私はしばし言葉を失うしかなかった。
「いや、さすがに舐められすぎでしょ」
ソファの方から友人の声が飛んできて、私は我に返った。
「確かに……もっと厳しく、何かお仕置きとか……」
「え? 何するの?」
私の言葉になぜかニコは楽しそうな顔をする。だめだ。叱り方が分からない。
「とりあえず、明日は肉抜きね」
「はあ!?」
ユナの言葉にニコが声を荒げた。
「当然でしょ。グダグダ話し合い続けたところで意味なさそうだし。じゃ、私たち出掛けるから」
そう言ってユナはソファから立ち上がる。
「おい、お前に何の権限が……」
コン。
私はとっさに机を軽く叩いた。
「……ちょっと、危ないでしょ?」
立ち上がろうとしたのに動けなくなったニコは、そう言って不満げにこちらを見る。
「しばらくそのまま拘束しとけば?」
そう言ってユナは笑った。
「ひどいよ。虐待じゃん」
ニコは何かぶつぶつ言い続けている。
私は改めて思った。確かに舐められすぎている。
「今から出掛けるの?」
ずっと黙っていたアロンが口を開いた。
「うーん……」
「そうよ。エーリカ早く着替えて」
私より先にユナが答える。もうすっかり日も沈んでいるが、せっかくの友人の誘いを断る理由もなかった。アロンもニコももう子どもではないし、友人と出掛けるのはひさしぶりだ。
……アロンの不安そうな顔が、少し気になるけれど。
「早めに帰って来るから。また明日話そう」
とりあえずそう言って、ニコの拘束も解いてあげると、二人は仕方なさそうにテーブルの上の夕飯の残りをつつき始めた。
私は自室に戻って服を選ぶことにした。時間もないので、セーターとパンツを引っ張り出して着替えると、部屋の扉がコンコンとノックされた。
「エーリカ、入っていい?」
ユナの声がする。
「どうぞ」
ユナは入ってくるなり、
「座って。髪上げよ」
と言う。私の髪を結んでくれるらしい。大人しく従うことにした。頭の後ろの上の方で髪を一つにまとめ、その根元に少し髪を巻きつけて結び目を隠しているようだ。手早くポニーテールが仕上がった。
「上手だね」
「練習あるのみよ。長いんだから普段からいろいろやればいいのに。あんたの髪は扱いやすいほうだし」
真っ直ぐではなく少し波打っている私の髪は結びやすいほうらしい。出掛けることが少ないので髪を結う機会もあまりなかったが、少しは練習すべきかもしれない。
せっかくなので、引き出しからイヤリングを出して着けてみた。半球型のボタンのような深い赤の飾りが付いたシンプルなものだ。
「よし、行こう」
ユナが先に部屋を出た。
「それで行くの? 派手じゃない?」
「? どこが?」
何故か眉根を寄せたニコに指摘されたが、またしても意味不明である。セーターは黒だし、どこにも大きな装飾も肌の露出もない。いつもと違うのは髪型くらいな気がする。だが、もしかしたら大人がポニーテールにするのは変なのかもしれない。そう逡巡しかけたが、ユナが遮ってくれた。
「どこも派手じゃないでしょ。じゃ、行って来まーす」
「留守番よろしくね。何かあったら連絡して」
はじめて書きます。よろしくお願いします。




