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プロローグ 《かご》

「ここまで来りゃ、もう大丈夫か」


 男は車を停めてつぶやいた。

 車を降りて来た道を振り返る。辺りはすでに明るくなり始めていた。この場所からあの山は見えないようだが、向こうの空の色は煙っているようにも見えた。


「兄貴に連絡だけ入れておくか。っと、その前に」


 後部座席の扉を開けると、乗り込む時に慌てて放り込んだバックパックと、一瞬悩んだ末に座席の足元に置いた(かご)が見える。籠には持ち手の下を潜らせるように薄手の布が掛けてあった。山小屋を飛び出して登山道を駆け下りようとしたとき、この籠は目の前に現れたのだ。道の真ん中に置かれたその様子は、男に拾ってくださいと言わんばかりだった。男は思わず中を覗くと、慌ててそれを拾い上げ、抱えたままやっとの思いで下山したのだった。


「まだ寝てんのかな。生きててくれよ……」


 男は籠に手を伸ばした。この籠を拾わないわけにはいかなかった。なにしろ、この中に居たのは小さな二匹の子猫だったのだから。


「え?」


 男は硬直した。思考が停止する。布を退けて見たのに、子猫たちは居らず、代わりに全く別の姿がそこにあった。


「な、なんで……」


 そこには確かに二人の赤子が眠っていた──どう見ても、人間の赤子が。


「嘘だ……! 俺は何も……! もう何なんだ今日は……!」


 あり得ない事態を前に、男は頭を抱えるしかなかった。

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