クロエの過去
クロエの過去が明らかに……。
私がナルシス様と出会ったのは、私が七歳の時。王城で開かれたパーティーでお互いの両親によって引き合わされた。
「クロエ、この子がお前の婚約者だよ」
父親にそう言われた私は、同い年だというナルシス様をジッと見つめる。ライトブラウンの髪に黄色い瞳。子供ながらに、とても魅力的な男の子に見えた。
「クロエ、ご挨拶しなさい」
母親にそう言われて、私はカーテシーを披露しながら挨拶をする。
「クロエ・トリベールです。宜しくお願い致します、ナルシス様」
すると、ナルシス様は笑顔で挨拶を返してくれた。
「ナルシス・アルチュセールだ。よろしく、クロエ」
その笑顔に、私はすっかり惚れこんでしまった。
それからというもの、私達は婚約者として、週に一度は一緒にお茶をしたりデートをしたりした。
ナルシス様は、デートで私が馬車から降りる時に手を差し出してくれたし、お茶の時もニコニコと私の話を聞いてくれた。
だから私は、疑わなかった。彼との素敵な未来が訪れる事を。
でも、私が十八歳になったばかりの時、その未来は決して訪れない事を思い知らされる事になる。
ある日、ナルシス様の家の庭でお茶をしていると、彼は笑顔で私に告げた。
「クロエ、俺はお前との婚約を破棄しようと思う」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。私は、震える声で彼に尋ねる。
「婚約破棄だなんて、一体どういう事でしょう……。何か私に、至らない点でもありましたか?」
すると、ナルシス様は悪びれる様子も無く言った。
「お前が至らないというのとはちょっと違うな。実は、俺……第二王女殿下と婚約出来る事になったんだ」
「は……?」
確かに、夜会でナルシス様が王女殿下と仲良く話しているのを見た事がある。私を放っておく時間も増えたような気がする。
でもまさか、恋仲になっていたなんて……。
「……ナルシス様。婚約破棄の件は、既にご両親にお話しされていらっしゃるのでしょうか? 私達の婚約は、お互いの家にメリットがあるという理由で結ばれたはずですが」
穀物や果物の栽培が盛んな領地を持つが人脈の無いトリベール家。王家との繋がりがあるが税収の乏しいアルチュセール家。
私達の婚約は、そんな両家の利害の一致の元結ばれた。
ナルシス様は、フフンと笑って言う。
「もちろん、こちらの両親には話してある。父上も母上も婚約解消に賛成してくれたよ。王女殿下と婚約すれば、王家から事業の援助をしてもらえるからな。そうなれば、トリベール家との結び付きなど必要ない」
「そう……ですか……」
胸が張り裂けそうな程悲しいけれど、私を愛する気の無い方と結婚してもお互い不幸になるだけだ。
ここは素直に婚約破棄を受け入れよう。私の両親も、納得してくれるはずだ。私は、笑顔でナルシス様に告げる。
「承知致しました。婚約破棄の件、こちらの両親にも話しておきます」
すると、ナルシス様は気が大きくなったのか、こんな事を言った。
「そもそも、俺はお前との婚約に乗り気じゃ無かったんだ。そのダークブラウンの髪も緑色の瞳も、よくある色で地味だし、話も面白くない。その点王女殿下は、綺麗なブロンドにルビーのような瞳。異国に留学経験があるおかげか、話題も豊富。本当に、お前と婚約していたのは時間の無駄だったな」
私の頭は真っ白になった。私はナルシス様とそれなりに仲良くやってきたつもりだけれど、そんな風に思われていたなんて。
それから、どうやって帰ったのか覚えていない。気が付けば、婚約破棄が成立していた。
そして、さらに私の心を苛む出来事が起こった。私の悪評が社交界に出回ったのだ。
「クロエ嬢は婚約者以外の男性に色目を使ったらしい」「クロエは使用人を虐めていたらしい」など、根も葉もない噂が後を絶たなかった。
噂の出所は、恐らくナルシス様だろう。自分勝手な都合で婚約破棄をした冷たい男と思われるのが嫌で、私に瑕疵があった事にしたいのだ。
古くからの友人は私の事を信じてくれたけれど、噂を信じる貴族も多く、私は周囲から白い目で見られる事となった。
その事ですっかり人間不信になった私は、たまたま大魔法使いと謳われるベランジェールと知り合う。そして半ば強引に弟子にしてもらい、今に至るというわけだ。
次回で完結です!
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