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首があれば

孤児院を訪れたクロエ達は……。

 それからしばらくして、私、テランス様、シルヴィ様は、ある建物の前にいた。灰色の壁の古い建物。ここが、テランス様の支援する孤児院だ。


 私達が孤児院の中に入ると、すぐに院長が私達をある部屋に案内してくれた。

 その広い部屋には、苦しそうにお腹を押さえる子供達が何人もベッドに横たわっている。


「これは……」


 私が呆然と呟くと、老齢の女性――院長が、眉尻を下げて説明してくれた。


「昨夜から、この子供達が腹痛を訴え、下痢もするようになりました。恐らく、何か良くない物を食べたのでしょう。町医者は今遠出をしているらしくて、すぐ往診に来てくれません。私共も困ってしまって、藁にも縋る思いでルメール家に助けを求めた次第です」


 説明しながらも、院長はチラチラとテランス様の方に視線を向ける。呪いで首無しとなった彼を見るのが初めてで戸惑っているのだろう。


 私は、手に持ったトランクを見せて言った。


「不測の事態が起きた時の為に、薬を多めに持って来ています! こちらに入っている魔法薬を子供達に飲ませましょう! この魔法薬、子供に飲ませても大丈夫なように師匠が調製してますので!」


 その後、私は魔法薬を子供達に飲ませて回った。症状のあるすべての子供達に薬が行き渡った事を確認した私は、ベッドの並ぶ部屋にある椅子に腰かける。


 すると、テランス様が私に紙を見せて来る。紙には、こう書いてあった。


『お疲れ様。もし良ければ、一緒にここの庭を散歩しないか?』


 私は、笑顔で頷いた。




 数分後、私はテランス様と並んで孤児院の庭を歩いていた。庭にある花壇では、ピンクや赤、黄色といった様々な色の花が咲き誇っている。


 テランス様は、懐から紙を取り出すと、万年筆でサラサラと書いて私に見せて来る。


『クロエ殿、今日はありがとう。クロエ殿がいてくれたおかげで子供達の容体は落ち着いたようだ』


 私は、手をヒラヒラと振って答える。


「いえいえ、魔法薬を調合したのは師匠ですから」


『それでも、クロエ殿がいてくれて助かったのは事実だ。感謝する』


 それを見て、私の心が温かくなるのを感じた。……まだまだ未熟な私だけれど、誰かの役に立てたんだ。



 不意に、子供達の泣き声が聞こえた。私が振り返ると、庭の隅にある木の側に佇んだ女の子が泣いている。今回流行り病に罹らなかった子だろう。

 そして、その子の側で男の子二人がオロオロしている。三人共、七歳から八歳くらいだろうか。


 私は、駆け寄って声を掛けてみた。


「みんな、どうしたの?」


 すると、男の子の一人が木を指さして言う。


「この子の帽子が木に引っかかっちゃったんだ」


 見ると、麦わら帽子が一つ木の枝に引っかかっている。私は、笑顔で女の子に言った。


「お姉ちゃんが帽子を取ってきてあげる。だから待ってて」


 そして、私はワンピースを着たまま木に登り始めた。厚い下穿(したば)きを身に着けているので、ワンピースがめくれても問題ない。


「も、もうちょっと……!!」


 私は震えながら帽子へと手を伸ばす。そして、グッと背を伸ばすと、やっと帽子を手にする事が出来た。


「やった……!!」


 私は笑顔になった瞬間、足場にしていた太い枝から足を踏み外してしまった。


「キャッ……!!」


 私の身体が落下し、どんどん地面が近付いて来る。地面に激突するかと思い、私はギュッと目を瞑った。


 でも、数秒経っても背中に痛みが走る事が無い。私は、そっと目を開ける。背中にはあったかい感覚。


 私が上半身を起こして振り向くと、そこには地面に仰向けになったテランス様の姿があった。テランス様は、私が怪我をしないようにクッションになってくれたのだ。


「テ、テランス様、申し訳ございません!!」


 私は、慌ててテランス様から離れ、彼の側にしゃがみ込む。


「け、怪我をしていませんか? テランス様!!」


 私が尋ねると、テランス様は起き上がり、サラサラと紙に書いて私に見せた。


『大丈夫だ。君に怪我が無くて良かった』


 私は、ホッとした後テランス様を見つめる。うん、本当に怪我をしてないみたいだ。


「おねえちゃーん、帽子、ありがとうー!」


 女の子の声が聞こえる。見ると、女の子は麦わら帽子を左手に持ち、笑顔で右手を振っている。どうやら、私が落ちた拍子に帽子が私の手を離れ、女の子の側に落ちたらしい。


 私は、微笑んで手を振り返す。



「お兄様、クロエ。こんな所で何をしていらっしゃるの? 子供達の容体も落ち着いたようですし、そろそろ帰りますわよ?」


 庭に出て来たシルヴィ様に言われ、テランス様はその場を離れる。私は後に続きながら、テランス様の背中を見つめた。


 不慮の事故とは言え、男性と触れ合うなんて初めてだ。木から落ちる恐怖とは違う意味で、心臓がドキドキする。


 ……テランス様は、私と触れ合った事、何とも思ってないのだろうか。何とも思って無いんだろうな。


 女性との交流があまり無かったという話だったけれど、彼はもう二十五歳。夜会などで魅力的な女性と出会う機会も多かっただろう。

 私みたいな地味な女に触れた所で恋愛感情が沸くはずも無い。


 ……ああ、彼はどうして首無しなんだろう。首があれば、彼の表情を見る事が出来たのに。彼が何を考えているか、想像する事が出来たのに。




 ルメール家の屋敷に戻っても、その後師匠と暮らす屋敷に帰っても、私はテランス様の温もりを忘れられずにいた。

『 ……ああ、彼はどうして首無しなんだろう。首があれば、彼の表情を見る事が出来たのに。彼が何を考えているか、想像する事が出来たのに。』

は、結構気に入っているモノローグです。

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― 新着の感想 ―
顔が見えないからこそ悶々とするモノローグ大好物です!!!!!!
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