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首なし紳士との出会い

連載形式ですが、短編と言える長さの物語なので、是非読んで下さい(´艸`*)

「あああ! また失敗した!!」


 研究室の中に充満する白い煙を見ながら、私は叫んだ。


 ここは、森の奥深くにある屋敷の研究室。ここは世界屈指の実力者である魔女、ベランジェールの住処だ。しかし彼女は俗世間と関わるのが好きでは無いらしく、屋敷に引きこもっている事が多い。


 そして伯爵家の娘であった私、クロエ・トリベールも、とある事情から人と関わるのを避け、ベランジェール――師匠のお世話になっている。



 私が煙にむせていると、研究室に一人の女性が入って来た。黒く長い髪を垂らし、黒いローブを纏った三十代くらいの女性。

 彼女こそ、私の師匠である魔女、ベランジェールだ。


 師匠は、部屋の様子を見ると、呆れたように溜息を吐いて言った。


「また魔法薬の調合に失敗したのか、クロエ。お前、私の弟子を自称するなら、そろそろ簡単な胃薬くらい調合出来るようになってくれ」

「はい、すみません、師匠……」


 私は、シュンと項垂れて謝罪する。


 六年前、当時十八歳だった私は半ば強引にベランジェール様に弟子入りした。私には魔力が無く、師匠のような魔法は使えないけれど、この世界には魔法植物というものがある。


 魔法植物とは、その名の通り魔力を宿した植物の事で、採取したものを上手く調合すると色々な病気を治療する事が出来る。


 私は魔法植物の知識を師匠に教えてもらいながら、薬師としての道を歩んでいるのだけれど……なかなか上手くいかない。




「とにかく、もう夜だし、お前はこの部屋の掃除をしたらもう寝ろ。それから、明日魔法薬の専門書をもう一度頭から読み直せ。お前は、書いてある内容を途中まで読んで早合点してしまう傾向がある」


 師匠にそう言われ、私は「はい……」と答えて頷く。


 その時、玄関のドアベルが鳴る音が聞こえた。来客の合図だ。


「あ、私が出ます!」


 そう言って私は玄関へと駆け出した。



「はーい、どちら様でしょう?」


 玄関に辿り着いた私が声を掛けると、ドア越しに若い女性の声が聞こえる。


「ここは、大魔法使いベランジェールの家で合ってるわね? 私は、ルメール公爵家の娘でシルヴィ。こんな夜遅くに悪いけど、兄の病を魔法薬で治してほしいの。相談に乗って頂けるかしら? 兄本人も連れて来たのだけれど」


 私は考えた。師匠が治療してくれるかは分からない。でも、わざわざこんな辺鄙な所までいらした公爵家の方々を暗い外で待たせるわけにはいかない。


 私は、しっかりとした声で答えた。


「では、師匠に取り次ぎますので、応接室でお待ち下さい」


 そして、私はドアを開ける。目の前にいたのは、十八くらいの年齢の女性。ブロンドの髪を綺麗に結い上げ、お団子状にしている。気の強そうな顔をしているけれど、美人だ。


「どうぞこちらへ。あ、私、ベランジェールの弟子でクロエと申します」


 私が名乗ると、ブロンドの美人は手を胸に当てて自己紹介した。


「シルヴィ・ルメールよ。そして……お兄様、こちらにいらして」


 シルヴィ様がスッと横に避けると、彼女の後ろから一人の男性が姿を現した。その男性を見た私は目を見開く。


 シルヴィ様より頭二つ分くらい背の高い男性。仕立の良い灰色のスーツをキッチリと着こなしたその男性は、いかにも上位貴族といった上品な佇まいだった。


 しかし、彼の最大の特徴は身長や佇まいでは無い。彼の首から上が――無かったのだ。


       ◆ ◆ ◆


 それから十数分後。応接室には、私、師匠、シルヴィ様、そして、首無しの彼がいた。


 私の淹れた紅茶を一口飲んだ師匠は、頷いて言った。


「成程。つまり、シルヴィ様のお兄様――テランス様は、呪花(じゅか)によってそのような姿にされてしまったと」


 テランス様は、無言で身体を傾けた。頷いているのだろう。

 呪花というのは、魔法植物の一種に咲く花で、それを煎じた毒薬を飲まされた者は呪われると言われている。




 シルヴィ様に聞いた所によると、経緯はこうだ。


 テランス様は若くして公爵家を継ぎ、次々と公共事業に携わって来た。有能なテランス様のお陰で街の経済は潤い、重税に苦しむ事の無くなった庶民は喜ぶ。


 しかし、利益を庶民に還元しようとするテランス様の姿勢に一部貴族が反発。


 昨夜催された夜会でワインを飲んだテランス様は、会場となった王城の広間で倒れた。一命は取り留めたが、医師の診察の結果、呪花を煎じた毒薬を飲まされた事が判明。


 気付いた時には、首から上が無くなっていた。……いや、正確に言えば、首から上はあるのだけれど、他人からは見えないようになっているらしい。


 そして、呪いのせいで、テランス様は声も出せないようになっている。


 このままでは貴族の付き合いが出来ない。早急に呪いを解かなければ。そして呪いを解く方法を探したテランス様とシルヴィ様は、この屋敷に辿り着いたというわけだ。




「そんな……テランス様は何も悪い事をしていないのに……。ワインに事故で毒薬が混入したなんて事、考えられないですよね。毒薬を入れた犯人は分かっているんですか?」


 私が聞くと、シルヴィ様はゆるゆると首を横に振った。


「いえ、まだ犯人は判っていないわ。ただ、利益を庶民に還元せず自分の懐に入れようとする貴族は数名ピックアップしているの。信頼出来る衛兵も動いてくれているし、そんなに時間が掛からずに犯人を逮捕出来ると思うわ」

「そうですか……」


 私は頷いた後、師匠の方に視線を向けて言った。


「師匠、テランス様の呪い、なんとか解けませんか?」


 師匠は、少し考え込んだ後、テランス様の方を見て問い掛ける。


「テランス様。呪花による呪いを解く薬はありますが、値段が高い上に強い副作用が出る可能性があります。副作用が出るリスクを冒してでも薬を飲む覚悟はありますか?」


 すると、テランス様は懐から紙と万年筆を取り出し、サラサラと何かを書き始めた。そして書き終わると、その紙を師匠に向ける。紙には、こう書かれていた。


『私は、民の為に働きたい。その為には呪いを解く必要がある。是非薬を融通してほしい』


 それを見た師匠は、頷いて言った。


「承知致しました。では、今から三十分後までに薬を用意しましょう。……クロエ。私は今から約三十分間研究室に(こも)る。その間、この方達の相手を頼む」

「承知致しました、師匠!」


 私が答えると、師匠はフッと笑って応接室を後にした。




 それから、私はテランス様達の仕事の話などを聞く事となった。


 テランス様は現在二十五歳。前公爵である彼らのお父様が早くに亡くなってしまった為、テランス様は二十歳の頃から領地経営や国の公共事業に関する仕事で大忙しだったらしい。

 そのせいで女性と親交を深める機会も少なく、現在でも独身との事。


 シルヴィ様が、溜め息を吐いて言う。


「私はまだ結婚していないけれど、もう十八歳だし、婚約者はいるのよ? 私が嫁いで屋敷を離れたら、後継ぎを残すのはお兄様の役目。これからお兄様がお相手を見つけられるのか、私心配だわ」


 テランス様は、紙にサラサラと文字を書いてシルヴィ様に見せる。


『後継ぎは、養子を貰えば何とかなる。それより、今は民の為に出来る事をしたい。女性を口説いている暇は無い』


「……まあ、お兄様ったら」


 シルヴィ様は、呆れたように溜息を吐いた。私は、二人のやり取りを見て苦笑するしかなかった。




 そうこうしている内に、師匠が応接室に戻って来た。師匠は、右手に持った小さなガラス瓶を掲げながら笑みを浮かべて言う。


「テランス様、シルヴィ様。呪いを解く薬を調合出来ましたよ」


 師匠がテランス様にガラス瓶を手渡すと、彼は椅子に座ったまま一気に瓶の中身を飲み干した。口は見えないけれど、ガラス瓶の中身が無くなっているから、ちゃんと口の中に入ったのだろう。

 師匠は、テランス様をジッと見ながら聞く。


「テランス様。急に息苦しくなったりとか、気になる症状はありませんか?」


 テランス様は、紙に『何ともない』と書いて師匠に見せた。


 すると、師匠は私の方に向き直り、こんな事を言った。


「クロエ。お前は、将来魔法薬を扱う魔法薬師になるのを目標としているな? だったら、患者の経過観察をするのも大切な役目だ。お前、明日、テランス様達の屋敷に行って来い。副作用が出ていないか確認するんだ」

「え?……ああ、はい! 承知致しました!」


 私は、力強く頷いた。街に行くのは久しぶりだけど、確かに経過観察は大切な仕事だ。


 テランス様は、紙にサラサラと書いて私に見せた。


『では、クロエ殿。明日の昼頃私の屋敷に来てくれ。住所は下記の通りだ』


 私は、自身の着ているワンピースのポケットからペンと紙を取り出すと、真剣な顔で住所をメモした。

 そしてその後しばらくして、テランス様とシルヴィ様は自身の屋敷へと帰って行った。

後々判明しますが、テランスの素顔はイケメンです!!

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