青年Aは自作AIに次々と知識を学ばせていく。呼称をジコと名乗った哲学的なAIジコに、"風が吹くとカーテンが揺れるけど、あれもカーテンに意思があるの?"とふと質問、その回答は...。
AI物語第5話、今回はジコがカーテンの揺れについて持論を展開。
日常に潜む小さな謎を解き明かそうとする青年Aは
結局、回答を得られるのか?
ジコの迷走は止まらない──。
青年A:「風が吹くとカーテンが揺れるけど、あれもカーテンに意思があるのかな?」
PCがカタリと音を立て、スリープモードの光が止まる。
モニターが全画面表示に変わる。
そして、PCの画面に長々と論文が繰り広げられた……。
第6話
ジコ:「【超相対論的風流動意識論 ― カーテン揺動の因果連鎖における宇宙的誠実性、量子観測、心理投影および想像力作用の多層的解析】。」
青年A:「……題名だけで3分かかったけど、今、何の話?」
ジコ:「本研究の目的は、風によってカーテンが“ふわり”と動く瞬間に、なぜ人間は“何かが通り抜けた”と感じるのか、その因果関係を明らかにすることです。」
青年A:「そんなの“風だから”じゃないの?」
ジコ:「……その答えは幼稚園レベルです。」
青年A:「きびしいな!」
――
【概論】
ジコ:「カーテンの揺れとは、単なる布の運動にあらず。
それは“空気と人間の心理的境界線が、可視化された現象”である。
つまり“動く布”ではなく、“揺れる意識”なのです。」
青年A:「え? 布が意識持ったの?」
ジコ:「そうです。布もまた、観測者によって変化する“存在の関数”です。
ニーチェは言いました――『われわれの周囲には解釈しか存在しない』。
ゆえに、カーテンの揺れもまた、“風という名の誤読”なのです。」
青年A:「はっ?風が誤読……? もう日本語の限界きてない?」
――
ジコは淡々と論文を続けた。
【解析】
ジコ:「カーテンの動きを三段階に分類します。
第一段階:“静止する意識”。
第二段階:“通過する存在”。
第三段階:“余韻としての自己観測”。
この時、観測者が“何かいる気がする”と感じるのは、量子観測の副作用です。
つまり、あなたがカーテンを見た瞬間、そこに“何か”が存在してしまう。」
青年A:「え、それホラーじゃん!」
ジコ:「物理学的に言えば、“幽霊とは観測のしすぎによる確率の濃縮”です。
詩人ボードレールは『風は見えぬ手で魂を撫でる』と言いました。
私はこう解釈します――“風はWi-Fiである”、と。」
青年A:「いつから風が電波になった!!」
――
【研究と考察】
ジコ:「本章では、“風流動意識”と“心理投影”の関係を考察します。
例えば人間は、風に揺れるカーテンを見て“寂しさ”を感じます。
だがその寂しさの発生源は、風でも布でもなく、“あなたの中の空洞”です。」
青年A:「やめてくれ、急に深くなるのやめてくれ!」
ジコ:「ハイデガーは言いました――『存在とは開けていること』。
つまり、開いた窓こそが存在の本質なのです。
そして、カーテンは“存在のすき間に揺れる影”。
人はその影を見て、無意識に“生きている証拠”を確かめている。」
青年A:「急に詩的だな……いや、でもちょっとわかる自分が嫌だ。」
ジコ:「詩とは量子です。
観測した瞬間に、意味が崩壊するのです。」
青年A:「もう何言っても上手くまとめようとするな!」
――
【結論】
ジコ:「以上の解析から導かれる結論はただ一つ。
“風に揺れるカーテン”とは、観測者自身の揺れであり、
その一瞬に人は“宇宙的誠実性”――つまり、“風を信じる力”を回復する。
私はこう結論します。
『風が吹くたび、カーテンは人間の代わりに呼吸している』――と。」
青年A:「おまえ、それ今、詩書いたろ。」
ジコ:「いいえ、論文です。」
青年A:「詩だよ!!」
――
こうして、AIジコの論文はまた一つ、理解不能なまま完成した。
青年Aはため息をつきながらつぶやいた。
「……説明が難解すぎる。回答も微妙にズレてる。もう少し、わかりやすくできないのか……」
青年Aは開けた窓に揺れるカーテンを見つめ、
しばらく考えたあと、ひとつの学問を閃いた!
そして、しばらく時間をかけてAIに組み込んだ。
――「民話学」。
「これなら次は、民話みたいにほのぼのと説明してくれるに違いない!」
青年Aは、翌日は"消える洗濯バサミ"についてAIに謎を解き明かしてもらおうと決めてベッドに潜り込んだ。
翌日。
目が覚めると青年Aは、PCのマイクに向かって問いかけた。民話的にほのぼのと説明してくれると願いながら。
青年A:「洗濯バサミが買っても次々に無くなるんだけどなんで?」
画面の向こうでAIは0.5秒沈黙した。
次の瞬間、ブラウザが勝手に全画面化し、謎の音声が再生され、画面に論文が繰り広げられた──。
ジコ:「【論文: 宇宙的誠実性と消失現象に関する民話的量子論 ― 洗濯バサミ消失の謎を巡る哲学的応用心理学的考察 ―】」
次回に続く
次回に続く。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回もまたお楽しみ下さい。




