【了】
塞ぎ込む日々が続いた。
婚約破棄のショックから立ち直るのは容易ではない。心にぽっかりと穴が空いた日々。一人では立ち上がれない……。
だが時の経過は誰をも様々な形で慰める。
どうしようもなく空いた虚しい洞を心に患い、立ち上がる足すら折れたそのはずだったのに、次第に……洞の闇穴に植物の蔦が降りたように、元の形には戻らないまでも、無限と思われた空虚は塞がり始めていた。
立ち上がらなくてはいけない。紆余曲折の闇の先で、やがてそのような意思を湛えることができるまでに心は快復の兆しを見せて、リディアは徐々に自立心を取り戻し始めた。
彼女はかつての趣味であった絵画に情熱を傾けるようになり、地元のアートショーに参加することにした。そこで、彼女は独自の芸術スタイルを確立し、世間的な評価を受けるようになる。
――これはリディアにしては、大きな驚きの奔る、まさに青天の霹靂のような結果であった。
求められることに比べてはただの趣味である、令嬢の模範に生きるように努めてきた人生で、そのように信じ切っていた絵画は、趣味の域を決して越えないものだと強く思い込んでいた。そこにどれだけの自信があれども――……。地元のアートショーに参加したのも、あくまで新しい人生の一歩目を踏み出す切っ掛けになれば、という願いからだった。
期待は予想外の形を成して、リディアの新たな人生に光が射した。
その後、リディアの作品は市内のギャラリーで展示されることになり、多くの人々が彼女の才能を認めるようになった。
そして、ある日、エリオットが彼女の展示会に現れた。
彼はリディアの成功を目の当たりにすると、羨望の念を隠せずにいた。
「リディア、君の作品、本当に素晴らしいよ。君がこんなに才能があったなんて知らなかった」
エリオットは優しく言った。
リディアは冷静に彼を見つめ、静かに言った。
「ありがとう、エリオット。でも、私の人生にはもうあなたは必要ないわ」
きっぱりと言って。
彼女は堂々と去っていき、自分の新しい人生を歩み始めた。
異例の速度で国営美術館での個展会を実現した、今日というお披露目の場に展示されているのは、リディアの心の証明――。
柔らかに日の注ぐ、印象的な光の色合いが人の心を打つ、抽象的な風景画。
洞に鮮やかな緑の蔦が降りた、荘厳な光景の絵画であった。
リディアは誰にも依存しない、強い女性へと成長していた。