第9話 火力強めのネコ!
学院での「地龍討伐事件」から数日が経った。学院中の誰もが、私のことを「魔物を一撃で倒した最強の魔法使い」と称えてくれるけど、私はそのたびに複雑な気持ちを抱いていた。だって、あの時の大爆発、成功というよりは「たまたま当たっただけ」だし……正直、コントロールはできてなかったわけだから。
でも――
「ふぅ……森の半分が焼けるほどの威力、今後はもう使わないようにしたいよね……」
そうつぶやきながら、私は中庭で一人、火の魔法を練習していた。エリオット先生の提案で、あの「火の猫」の制御をもう少しちゃんとやろうということになったんだけど、これがまた難しい。大体は暴走してしまうけど、今回はもっとかわいらしい猫を作って、ちゃんと役に立つ魔法にしたい!
「火の猫、ちゃんと作れたら可愛いのになぁ……」
そう思って集中していると、後ろから軽快な足音が近づいてきた。
「よぉ、リリアナ! 今日は一人か?」
振り返ると、シモンがニヤニヤしながらやってきた。彼は相変わらず元気いっぱいで、私の肩を軽く叩いてくる。
「火の猫って、またいつもの暴走猫か? 懲りずにやってるんだな!」
「懲りずにって……私はちゃんと練習してコントロールしようとしてるのよ!」
私は少しムッとしながらも、魔力を集中して再び火の猫を作り出そうとした。
「ほら、ちゃんと耳を作って……尻尾も……」
今は前よりも上手くいっている……気がする。タヌキみたいな形ではなく、少しは猫らしいシルエットができた気がする。
「おっ、今度はちゃんと猫っぽいじゃん!」
シモンも、少し驚いた様子で私の火の猫を見ている。よし、今度こそ大成功――
「ゴロゴロ……」
ん?何か聞こえた?
「えっ、猫が……鳴いてる?」
炎で作った猫が、まさかの「ゴロゴロ」と喉を鳴らしている。しかも、私の足元にスリスリしてきて……えっ、これ、ただの猫の形をした魔法じゃないの!? 本物の猫みたいに動き回ってるんですけど!!
「す、すごいな……お前の魔法、生きてるみたいに動いてるじゃねぇか」
シモンも驚いた顔で猫を見ている。いや、これは想定外なんだけど……もしかして、前回の訓練のおかげで、本当に「使える魔法」になったのかもしれない!
「でも、これなら暴走しないし、ちゃんと役に立ちそう!」
「よし、さっそくエリオット先生に見てもらおう!」
シモンは駆け足でエリオット先生を呼びに行ってしまった。
火の猫をなでてみると、猫はさらに「ゴロゴロ」と喉を鳴らして気持ちよさそうにしている。かわいい! これなら、誰かを傷つけることもなく、使える魔法になったんじゃない!?
「よし、この猫をいざという時に役立てるぞ!」
私は満足げに笑った――その時だった。
突然、学院中に響き渡る警報の音が鳴り響いた。――まさか、また魔物!? しかも、この警報音は……最もヤバい魔物が現れた時の音だ!
「リリアナ! また来たみたいだ!」
シモンが焦りながら、戻ってくる。いやいや、なんでこんなに魔物が続けて現れるの!? 私、まだ地龍事件の疲れが残ってるんだけど……。
「それで、今度はどんな魔物が……?」
「今度は……風の魔鳥『ケスレール』だ! 空を飛びながら強風を巻き起こして、あっちこっち荒らしまくってるらしい!」
ケスレール!? それって、素早くてめちゃくちゃ厄介なやつじゃない!?
「まずい……このままだと学院の建物が全部吹き飛ばされちゃう!」
私は急いで中庭から駆け出した。こうなったらまた全力で魔法を使うしかないけど、今回はできる限り暴走させずに……できれば、さっきの火の猫を上手く使って対応できたらいいな……。
――――――――――
学院の外に出ると、すでに巨大な風の魔鳥が空を舞い上がり、強風を巻き起こしていた。羽ばたき一つで、学院の周りの木々がバキバキと倒れていく。これをどうにかしないと、学院全体が危ない!
「行くしかない……!」
私は再び魔力を集中し、手のひらに炎を集めた。今度は、さっき作った火の猫――これなら学院に被害を出さずに、ケスレールにも対抗できるかもしれない!
「お願い、暴走しないで……!」
祈るようにして、私は猫を作り出す。すると、さっきと同じく、火の猫が私の手元から現れた。今度は完璧な猫の姿だ! 耳も尻尾もちゃんとしていて、足取りも軽やかに動き回っている。
「よし、行け、火の猫!」
私は火の猫を前に送り出し、ケスレールへと向かわせた。炎を纏った猫は、すばしっこく風の中を駆け抜け、まるで生きているかのように空中でジャンプしてケスレールの足元に飛びかかった。
「おぉっ! ちゃんと攻撃してる!?」
シモンが驚きながら叫ぶ。火の猫は、そのままケスレールの周りを素早く駆け回り、炎の爪で次々と翼を引っかいている。やばい、これ、めっちゃカッコいいかも!
「猫なのに、めっちゃ強い……!」
私は心の中で歓喜した。ついに私の魔法が、暴走せずに役に立った瞬間だ! このまま行けば、ケスレールを倒すことができるかもしれない――。
「グワァァァァ!!」
しかし、ケスレールが激しく鳴き声を上げ、さらに強烈な風を巻き起こした。猫が押し戻されそうになっている……!
「やばい、猫がピンチ……! もっと力を込めなきゃ!」
私はさらに魔力を注ぎ込んだ。すると、火の猫が一瞬でサイズアップし、巨大な火の獅子に変化した!
「おぉ、今度はライオンか!?」
シモンがさらに驚いている。いや、私もびっくりだよ! 火の猫がこんなにパワーアップするなんて、予想外すぎる!
巨大な火の獅子となった猫は、再びケスレールに向かって突進し、今度こそケスレールを炎の中に包み込んだ。ケスレールは力尽き、空中でゆっくりと崩れていく。
「……やった!?」
私は思わずガッツポーズを取った。火の猫がパワーアップしてケスレールを倒したなんて、想像以上の成果だ!
――――――――――
その後、学院中の生徒や先生たちが私のところに集まってきて、口々に称賛の言葉を浴びせてきた。
「リリアナ様、ありがとうございます! また学院を救ってくださるなんて!」
「火の猫なんて、初めて見ました!なんて美しい魔法なんでしょう!」
「いやぁ、さすがリリアナ様!」
もう、あっちこっちから「凄い」とか「最強」とか言われるけど……私は内心、冷や汗をかいていた。だって、さっきの火の獅子、完全に予想外の展開だったんだから! 暴走しなかったのは良かったけど、いつまた暴走するか分からないし、こんなに称賛されると逆にプレッシャーが……。
「リリアナ、お前またすげぇことやっちまったな!」
シモンが笑いながら私に近づいてくる。
「う、うん、そうだね……でも、もうこれ以上目立ちたくないんだけど……」
「いやいや、学院のヒーローはそんなこと言うもんじゃねぇぞ! 次はもっとデカい魔物でもぶっ倒そうぜ!」
――だから、そういうノリやめてよ!
そこへ人波を割ってカイル様がやってくる。
「また、君に助けられた。ありがとう、リリアナ」
「え、えぇ……がんばりました……」
カイル様は優しく微笑みかけてくる。そんな彼の表情に若干のトキメキを覚え、私はただ、少しだけ頷くしかなかった。
――こうしてまた、私は学院で「火の猫を操る最強の魔法使い」として崇められることになった。平穏な日々は……やっぱりまだまだ遠いみたい。
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