第8話 まさかのヒーロー登場!
クラリスを助けたあの事件以来、私は少しだけ学院内での立場が変わったような気がする。今まで「悪役令嬢リリアナ」として冷たい目で見られていたのが、ちょっとだけ柔らかくなったというか、周りの子たちも「あのリリアナが人を助けたなんて」という驚きがあったみたい。
大した事はしてないんだけど、それだけ元々のリリアナの評判が悪かったってことなんでしょ。
ただ、そんな「良い雰囲気」は長くは続かない……なぜなら、私は何をやってもどこかで「やらかす」運命にあるからだ。
その日も、私はいつものように「普通に」過ごそうと心に決めていた。今日は特に、訓練とか特別なイベントもないし、無事に一日を終えられそうな気がしていたんだけど……。
「リリアナ様、大変です!」
学院の警備員が、血相を変えて私のところに駆け寄ってきた。何事!? 心臓がドキっとした。彼は一気に息を切らしながら、私に告げる。
「魔物が学院の近くに現れたんです!」
「えっ!? 魔物!? この学院の近くに!?」
私の目が見開かれた。まさか学院のすぐそばに魔物が出現するなんて! この辺りは結界で守られているはずだし、普段ならそんなこと起こらないはず……。
「はい、ですが今回の魔物はかなりの大物でして……周囲の結界が一部破られてしまったんです。今、緊急で対応中ですが、学院の生徒たちに被害が出る可能性が……」
警備隊員の焦り具合から、事態の深刻さが伝わってくる。しかも、その大物魔物って……どう考えてもヤバいやつじゃないの!? 私、余計なところでまた「やらかし」たくないんだけど!
「な、なんで私のところに知らせに来たの……?」
「それは……リリアナ様が、学院内で最強の魔法力を持っていると噂になっておりまして……」
――えぇっ……そんな噂で、ただの噂で来ちゃったの!? いやいや、確かに魔法は強いけど、暴走しまくりでほとんどコントロールできてないんですけど! どうして私が頼られる側になっちゃってるの!?
「お、落ち着いてください! 私、そんなに頼れるタイプじゃないですよ!?」
「いえ、リリアナ様なら必ずやこの危機を救っていただけるはずです!」
警備隊員は全力で期待してくる。そんなキラキラした目で見つめられても困るんですけど!
「はぁ……でも、誰か他に頼れる人が……」
「いやいや、俺がいるだろ!」
不意に背後から、頼もしい――いや、やかましい声が聞こえてきた。振り返ると、案の定シモンがニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。
「よぉ、リリアナ! さっきの話、聞いたぜ。お前、ついに学院のヒーローになる時が来たみたいじゃないか!」
「ちょっと待って! 私がヒーローになるって、そんな話じゃ……!」
「いやいや、リリアナならやれるさ! この前もクラリス助けたしな! お前、意外と目立ちたがりなんじゃねぇの?」
シモンはからかうように言いながら、私の肩を軽く叩く。
「目立ちたがりじゃないよ! むしろ目立ちたくないんだから!」
「じゃあ、今日で目立ちたくない自分を卒業式しよう!」
シモンの明るすぎる声が、私の不安をさらに煽る。いや、今そんな軽いノリで考えられる事態じゃないんだけど……。
「ま、何かあっても俺がフォローしてやるから安心しろって!」
シモンは笑いながら、得意げに胸を張る。……うん、シモンがいるとちょっとだけ安心感があるのは事実だけど、フォローできるレベルを超えてる気がするよ……。
――――――――――
そんなこんなで、学院の近くの森に到着。そこには巨大な魔物――地龍グランソーダが、地面を揺らしながらゆっくりと這い出ていた。これはヤバい、ゲームでも強かったやつだ……。
「えぇぇぇ……どうしよう、こんなの私にどうしろと……?」
私は怯みながらも、どうにか頭を働かせて作戦を考えようとした。こんな大物、普通の魔法じゃ傷一つつかないだろうし、今こそ私の強すぎる魔法が役に立つ時かもしれない。いや、むしろここで使わないと死ぬかも?
「おい、リリアナ! 早くぶっ放せよ!」
シモンが背中を押してくる。いや、簡単に言わないでよ! 私、爆発しないように気をつけて使わなきゃならないんだから!
「分かってるけど……失敗したらどうするのよ!?」
「失敗? いつも失敗してんじゃねぇか!」
――あぁ、それってフォローになってないよ、シモン。
でも、確かにここは私がやるしかない……! 大丈夫、今までの訓練の成果を信じて、慎重に……慎重に魔力を放てば!
「よし、いくわよ……!」
私は覚悟を決め、両手を前に突き出して魔力を集中させた。今度こそ、暴走させずに……適切な力加減で……。
「ふぅぅ……それっ!!」
――次の瞬間。
ドカァァァーーーン!!!
あ、やっぱり暴発した!! 私が放った魔法は巨大な炎の爆発となり、目の前のグランソーダに直撃。あっという間にその巨大な体を飲み込み、森の半分まで焼け焦げさせた。
「えっ……ちょっと待って! そんなつもりじゃなかったんですけど……!?」
私は呆然とその場に立ち尽くす。いや、グランソーダは完全に倒れてるけど……森が……あたり一面が真っ黒になってるけど!?
「さ、さすがリリアナ様……!!」
警備員が震えながら感嘆の声を上げている。いや、違うんです! これは称賛されるべき事態じゃないんです!!
「おいおい、マジかよ……リリアナ、すげぇじゃん!」
シモンは爆笑しながら私の肩を叩く。――だから笑ってる場合じゃないんだってば!
「いや、ちょっと待って! 森が……学院の敷地が焼けちゃってるんだけど!?」
「まぁまぁ、結果オーライだろ? 魔物倒したんだしさ!」
シモンは全然気にしてない様子でニヤニヤしている。いや、こっちは森半分燃やして結果オーライとか言ってる場合じゃないんだよ!
「もう……私、どうしよう……」
落ち込んでいる私のところに、さらに近づいてきたのは――エリオット先生だ。彼はいつも通り無表情で私を見ているけど、その目には少しだけ興味深そうな色が浮かんでいる。
「リリアナ様、やはり貴女の魔法力は規格外ですね。これほどの威力を見たのは初めてです」
「そ、そうですか……」
――褒められてるのかな? でも、全然嬉しくない……。
「ですが、やはり制御が課題です。今度また訓練しましょう」
エリオット先生は淡々と言う。いや、今それどころじゃないんですけど!
そして――そこにまた、新たな人物がやって来た。
「リリアナ様、凄かったです! あの魔物を一撃で倒すなんて……!」
クラリスが、少し興奮した様子で私を見つめていた。えっ、クラリスまで来てる……どうしてこんな場面でまで正ヒロインが登場するのよ……。
「いえ、私、そんなつもりじゃ……」
「いえいえ、リリアナ様、貴女は本当に強いお方なんですね。私、感動しました!」
――ちょっと待って。クラリスにまで「感動した」なんて言われると、なんだか逆に居心地が悪いんですけど……。
それにしても、カイル様が来ないってことは第一王子だから避難させられてるのかも……。ちょっと寂しい。
――――――――――
結局、私は無事に魔物を倒した「学院のヒーロー」として称えられることになってしまった。もちろん、森が焼けたことは大問題だったけど、学院側も「魔物を倒したことで被害を最小限に抑えられた」として私を責めることはなかった。いや、そこは責めていいんじゃないかな……。
「いやぁ、さすがリリアナ! これでお前も学院の人気者だな!」
シモンは得意げに私をからかってくるけど、こっちはもうヘトヘトだよ……。
「はぁ……これ以上目立ちたくないんだけどなぁ……」
――こうして、私は再び大規模な騒ぎを引き起こしつつも、「学院の救世主」として崇められることになった。だけど、平穏な学院生活なんて、ますます遠のいていく気がしてならないのだった。
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