第7話 シナリオの進行に焦る!
学院で勉強と魔法の特訓をする日々。魔法で爆発は起こしつつも、平和な生活を送れていた。そんなある日、授業が終わり、私はふと胸騒ぎを感じていた。今日の午後、なぜか落ち着かない。というのも、今朝から「何か起きそう」な予感がずっとしているのだ。これって……ゲームのイベント関連かも……。
「あ、あれ? まさか、今日って……!」
私は急いでスケジュール帳を確認した。――やっぱり! 今日って、乙女ゲーム『エターナル・ロマンス』の中で、あるイベントが発生する日じゃない!? しかも、キャラクター全員が絡むイベントだ!
「ちょっと待って! このままだと、私、完全にゲーム通りに悪役令嬢やらされるパターンじゃない!?」
私がリリアナになったからゲームのシナリオ通りに進むことはないと高をくくっていたけど、発生するイベントもあるかもしれない。
今日発生するイベントでは、主人公クラリスが学院の中庭で足を踏み外したときに、カイル、エリオット、シモンの3人のうちのいづれかに助けられるも、リリアナ(つまり私)に意地悪されるというイベント。いや、ちょっと待って。私はそんな意地悪するつもりはないんだけど、私の知らないうちにそんな流れになったらどうしよう!?
「何とかこのシナリオ回避しなきゃ!」
私は全速力で中庭へと向かった。もしゲーム通りに進行したら、クラリスに意地悪をする私は最後にはカイル様に嫌われる。せっかく転生した人生、そんなことされたら台無しだ!
――――――――――
――そして、中庭に到着。すると、そこにはすでにゲーム通りの配置が。
クラリスは美しい笑顔で佇み、まさにヒロインそのもののオーラを放っていた。彼女の周りにはすでに、カイル、エリオット、シモンの三人が揃っている。いやぁ、ほんとにゲームのイベントそのままじゃん! 私の目の前で、順調に話が進んでいる……。
「これはまずい! 絶対にまずい!!」
私が立ち止まる間もなく、イベントはさらに進行していく。クラリスがカイル様と軽く言葉を交わし、エリオット先生が静かにそれを見守り、シモンは少し離れたところでにやけている――これ、ゲーム通りの展開だ! 次は確か、クラリスが足を踏み外して転びかけるんだっけ……。
「……転びかける……?」
その瞬間――
「きゃっ!」
クラリスが段差でバランスを崩して、前方に倒れそうになった。ほら、やっぱり来た! このシーンは、クラリスが転んだところをカイル様、エリオット先生、シモンのうち好感度の高い人が助けて、そこからイベント終盤にはヒロインへの甘~いムードが生まれるやつ!
「でも、待ってよ! これって、私が登場するタイミングじゃん!!」
ゲーム内では、この瞬間に悪役令嬢リリアナが登場し、クラリスを突き飛ばして「わざと転ばせた」という展開になる。それがきっかけで周りから非難を浴びるという、最悪のイベント! 絶対に避けたい!
「転ばせるなんて、そんなのごめんだってば!」
私は意を決して、ダッシュでクラリスの方へ駆け寄った。周りは誰も気づいていない。――いや、これは私が全力で何とかしなきゃ、クラリスが転ぶ前に……!
「クラリス様、大丈夫!?」
私は彼女の背中を支えるようにして、何とか転倒を阻止した。
「えっ……リリアナ様!?」
クラリスが驚いた顔で私を見上げている。いや、そりゃそうだよね。ゲームでは悪役の私がいきなり助けに入るなんて、誰も予想しないよね。クラリスだけじゃなく、カイル様やエリオット先生、シモンも一斉に私の方を見つめていた。え、えっと……なんか、めっちゃ注目浴びてる!?
「いや、これ、違うんです! 私、クラリスさんを助けただけで……!」
何とか状況を説明しようとする私だが、皆が固まっている。すると、エリオット先生が一歩前に進み、冷静に口を開いた。
「リリアナ様、あなたがクラリス様を……助けたのですか?」
「え、ええ。そうです……けど?」
「ふむ……これは、予想外ですね」
――予想外? エリオット先生、何その反応!? まさか「こんな展開は想定していなかった」みたいなこと考えてるの!?
「何か問題でも?」
私はエリオット先生にそう尋ねたが、彼は冷静な顔のまま首をかしげた。
「いえ、むしろ興味深いです。最近のリリアナ様の行動は、噂で聞く姿とは全く違う」
「えっ、噂ってクラリス様をいじめてるっていう? えっと、それは私が……」
私は慌てて言葉を飲み込む。どうしよう、何か深読みされない? 私はただ、イベントを回避しようとしただけなのに……。
すると、カイル様がさらに前に出て、私の顔をじっと見つめてきた。
「リリアナ、どうしたんだ? 君がクラリスを助けるなんて、今までの君と違うじゃないか」
「今までと違うって……いや、私はそもそも、クラリス様をいじめたことなんてありません!」
「そうか。なら、今後もクラリスに対してその態度を続けられるか?」
――えっ、何その質問!? カイル様、もしかして試されてる!? ゲーム内では、ここからリリアナがクラリスに嫉妬してまた嫌がらせをする展開だったけど、私はそんなこと絶対にしないってば!
「もちろんです! 私はクラリス様をいじめるつもりなんて、これっぽっちもないです!」
私は胸を張って宣言した。すると、カイル様は少しだけ驚いた表情を浮かべた後、口元に小さな笑みを浮かべた。
「そうか……なら、期待しているよ」
期待って……もともとのリリアナの信用やっぱり低いなぁ。でも、カイル様に笑顔で「期待している」と言われると、変な緊張感が走るんですけどね!?
「まぁ、リリアナも変わったってことだろ。これで一安心だな!」
シモンが気楽そうに笑いながら、私の肩を叩いてくれた。ありがたい……本当にありがたいよ、シモン! あなたの軽い口調でちょっとだけこの場の空気が和んだ気がする。
「でも、リリアナがクラリスを助けるなんて、さすがに予想外だったぜ。いつもお前がクラリスになにかしらやらかすから、俺は助ける準備万端だったんだけどな」
「やらかすって……今回はやらかしてないでしょ!」
「おぉ、確かに! 今回はよくやったよ、リリアナ!」
シモンが楽しそうに笑いながら親指を立ててくれる。――って、なんでそんな上から目線なのよ。でも、まぁ、シモンに感謝。
「ありがとう、シモン。でも本当に、私は善意で行動してるんだからね」
「おう、そうだな! そうやってリリアナが頑張ってるなら、俺が何かおごってやるよ」
「ほんとに? じゃあ、パフェがいいな」
「よっしゃ、任せとけ!」
――あれ? なんか話がゲームイベントと全く違わない? さっきまでの緊張感どこ行ったの?
「リリアナ様……」
ふと、クラリスが小さな声で私を呼んだ。さっき助けたはずの彼女が、複雑な表情で私を見つめている。あ、もしかして助けられて気まずいとか?
「えっと……クラリス様、何か?」
「……いえ、少し驚いてしまって。リリアナ様が、私を助けるなんて……」
クラリスの言葉は、どこか戸惑いを含んでいた。ゲーム内ではこの時期、彼女とリリアナは敵対関係が進んでいたはずだから、私がいきなり助けに入ったことで、彼女もどう反応すればいいのか分からないのかもしれない。
「ううん、いいのよ。困っている人を放っておけないだけだから」
私はなるべく優しく微笑んでみせた。クラリスに敵じゃないことを分かってもらいたい。それに、今はゲームの展開とは違う方向に進んでいるんだから、私たちが仲良くなる可能性だってあるはず。
「リリアナ様……」
クラリスは少し驚いた顔をしていたが、やがてその顔が柔らかくなり、小さく頷いた。
「ありがとうございます……本当に」
――おっ、まさかこの流れで私たち和解しちゃう!? ゲームでは考えられない展開だけどオッケー!
私は少し嬉しくなりながらも、これからどうなるのか期待と不安が入り混じっていた。確かに今、私はゲームシナリオを超えて、少しずつ新しい道を切り開いているのかもしれない。だけど、人生ってのはこのまま順調にいくわけないよね?
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