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転生したら悪役令嬢になって断罪されそうになっても、魔法が最強すぎて王子様に面白い女認定される!  作者: 雪見クレープ
第1部 転生したら悪役令嬢になって断罪されそうになっても、魔法が最強すぎて王子様に面白い女認定される!
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第5話 敵意のある正ヒロインはこわい

 学院の食堂でシモンと昼食を終え、午後の授業に向けて気持ちを整えようとしていた私は、またしてもあの「災厄」が迫ってくる気配を感じていた。


「リリアナ様、ごきげんよう」


 背後から響く澄んだ声――それはクラリス・エルウィン、ゲーム内の正ヒロインであり、私にとっての最大のライバルだった。もともとは平民出身だが、持ち前の美貌と魔法の才能で貴族社会に溶け込み、学院の人気者となった少女だ。


「クラリス様、ごきげんよう……」


 思わず背筋を伸ばして振り返ると、そこには完璧な笑顔を浮かべたクラリスが立っていた。彼女の大きな青い瞳は、一見優しそうに見えるけれど、そこに感じるのは「敵意」。


「リリアナ様、昨日からずいぶんと目立っていますわね。魔法の授業でも、学院中の話題をさらったとか?」

 クラリスはあくまで上品な口調でそう言いながらも、その言葉の裏には明らかに皮肉が含まれている。


「え、ええ……ちょっと暴走しちゃって」


 私は小さく笑って答えたけど、内心は少し焦っていた。クラリスがわざわざ私の元へ来てこんな会話を始めるなんて、きっと何か企んでいるに違いない。


「そうですよね、"ちょっと"では済まされないほどの大爆発でしたけど。私、びっくりしてしまいました」

 クラリスは手を口元に当てて、少しおどけたように笑う。でも、その笑顔の裏には明らかに「探り」がある。


「そ、そうかしら? 大したことは……なかったと思うけど」


 私はなるべく冷静を装いながら、どうにか会話を続けた。だけど、クラリスの視線が私をじっと観察しているのを感じる。彼女は私が転生者だと知らないはずだけど、何かしら違和感を抱いているに違いない。


「ところで、リリアナ様」


 クラリスが急に少しだけ距離を詰め、優雅に微笑みながら続けた。


「カイル様とは最近、どうお過ごしですの?」


 ――出た。


 これだ。クラリスはこの話がしたくてわざわざ私に近づいてきたんだ。ゲームのシナリオでは、カイル王子はクラリスの運命の相手。つまり、私――悪役令嬢リリアナは、その恋路を邪魔する立場にあたる。もちろん、私はそんな気はまったくないけど……昨日のカイル様とのやり取りを彼女が気にしているのは明らかだ。


「カイル様ですか? 普通にお話させていただいていますよ。最近は別々の時間が多かったとは言え、婚約者ですし……」


 私は努めて平静を保ちながら答えた。だけど、クラリスの瞳はさらに鋭くなり、その美しい顔が少しだけ引き締まるのが分かる。


「普通に、ですか? あんなことがあったばかりだし、貴女に無理して付き合ってないか心配です」


 心配? いやいや、絶対に心配なんかじゃなくて、むしろ嫉妬してるんでしょ!?


 私は胸の中でそう叫びながらも、なんとか表情を保っていた。クラリスはあくまで優雅なヒロインとして振る舞っているけど、その裏では私を敵視しているのが手に取るように分かる。


「心配なんてご無用です。私はカイル様とは婚約者という立場上、お話しすることはありますけど、それ以上のことは……」

 ――なんてことを言おうとしていたけど、急に先ほどのカイル様の「俺がそばにいる」という言葉が思い出され、思わず顔が赤くなってしまった。


「……? リリアナ様、どうかなさいましたか?」


 やばい、顔に出ちゃってる!? クラリスが首を傾げて、さらに近づいてきた。


「な、何でもないわ!」


 慌てて否定する私。でも、その反応が余計にクラリスの興味を引いてしまったようで、彼女の目がきらりと光った。


「そうですか? でも、カイル様のことを考えると、リリアナ様の表情がほんの少し変わられるような気が……」


 うわぁ、完全に見透かされてる!? クラリス、意外と鋭いじゃないの!


「リリアナ!」


 そんな時、遠くから救いの声が聞こえた。見ると、食堂の入り口からシモン・ベルモンドがこちらに向かって手を振りながら走ってきていた。


「おっと、助けが来た……!」


 シモンがこちらに駆け寄るなり、クラリスは一瞬顔を曇らせた。彼女はやっぱり、私に対しては警戒心を抱いているけど、ほかの人からはイイ人でいたいらしい。


「あら、シモン様。ごきげんよう。リリアナ様になにかご用事かしら」


 クラリスが挨拶をすると、シモンは軽く手を振って笑った。


「まぁ、リリアナのことが心配でさ。なにせ、彼女はちょっとドジだからな。俺がついてないと何かと危なっかしいんだよ」

「シモン!」


 私は思わず彼を肘で小突いた。余計なこと言わないでよ、もう! でも、シモンはからかうようにニヤッと笑いながら肩をすくめている。


「へぇ、そうなの?」


 クラリスは少し興味深そうにシモンを見つめていたが、すぐに目を逸らし、再び私に向き直った。


「では、リリアナ様、またお話しましょう」


 そう言って、クラリスは軽く頭を下げると、優雅にその場を去っていった。


 ――やれやれ、助かった。


 クラリスが去っていくのを見送りながら、私は心の底からホッとした。クラリスとの会話は、何かと神経を使う。彼女は一見おしとやかだけど、実際は自分の欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばない、強かで聡明なヒロインなのだ。


「お前、相変わらずクラリスと仲悪いな」


 シモンが私をからかうように言った。


「別に仲が悪いわけじゃないわ。ただ、彼女はちょっと私に対して意識しすぎというか……」

「そりゃそうだろ。カイル様の婚約者で、しかもお前は無自覚に最強の魔法使いだからな。クラリスも張り合ってくるさ」


「張り合うなんて……私はそんなつもりじゃないのに」


 私はため息をつきながら答えた。生まれ変わった私はただ平穏学院生活(第二の人生)を送りたいだけなのに、なぜこんな風に複雑な状況になってしまうのか。


「お前、ほんとに天然すぎて、周りが逆に振り回されるんだよ。まぁ、そこが良いところでもあるけどな」


 シモンは笑いながら私の頭を軽く叩いた。彼の明るさに少し救われる気がするけれど、さっきのクラリスとのやりとりはまだ心に引っかかっている。彼女は本気で私を敵視しているようだし、カイル様との関係に関しても警戒している。これから、もっと何か大きなトラブルに巻き込まれる予感がする――。


「どうした? お前、また考えすぎてるだろ?」


 シモンが顔を覗き込んできた。


「……ううん、何でもない。ありがとう、シモン」


 私は微笑んで、彼に答えた。シモンがいてくれるだけで少し気が楽になる。だけど、この学院生活はこれからますます複雑になるだろう。クラリスとの対立、そしてカイル様との関係……それに、私自身の魔法力の問題もまだ解決していない。


「やっぱり、平穏な日々は遠そうだな……」


 私はそう思いながらも、次の授業へと足を運んでいった。

読んでいただきありがとうございます!


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今後ともよろしくお願いします。

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