第42話 ライアンの目的
「俺は、父からここ、王国第零研究機関の話を聞かされていた」
ライアンは静かに語り始めた。
私たちは黙って彼の話を聞く。
「父の話では、俺の先祖はかつてこの王国の魔道技術顧問を務めていたらしい。だが、その職を追われた……。理由は……王宮の“禁忌の技術”に触れたからだ」
「禁忌の技術……つまり、この魔力炉?」
クラリスがスッと質問する。
「そうだ。その人はこの工房の研究員だった。そして、封印が施される前の“最後の魔道具管理者”だったんだ」
「もしかして、あなたの家系は代々その技術を……?」
ライアンはゆっくりと頷く。
「俺は子供の頃から、家に代々伝わる記録を読んでいた。そして、この王国が過去に何をしていたのかを知った」
「………………」
私は黙って彼の話を聞いていた。
ライアンの背負ってきたものの重さが、今になってやっとわかった気がした。
ライアンは少し口元を引き締め、ゆっくりと頷いた。
「魔力炉の封印が不安定になっていることに、俺はかなり前から気づいていた。しかし、よそ者がそんなことを言っても誰も信じてはくれない」
「だから魔物退治をし、武勲を立てて王宮に入った。ただ、王宮の者たちはそれに目を向けようとしなかったが……」
ライアンの声には疲れや憤りなど様々なものがこもっていた。
「……それであなたは蒼穹のルーンストーンを狙ったの?」
私は静かに問いかける。
「ルーンストーンは、魔力の流れを安定させるために作られたものだ。つまり、これを活用すれば魔力炉の暴走を防ぎ、王国全体の魔力循環を安定させることができる」
「それは……確かに可能だったかもしれない」
カイル様が腕を組む。
「ならば、なぜあのとき農業の発展なんてことを理由にしたんだ?」
ライアンは目を伏せ、低く答えた。
「封印されているルーンストーンを楽に手に入れるための“大義名分”だよ」
カイル様は敵意こそないものの、強く彼を見据えて言う。
「だが、それも却下された」
ライアンは静かに笑った。
そんな彼を見て私は思わず尋ねた。
「それからどうするつもりだったの?」
ライアンは少しだけ考えたあと、小さく笑った。
「リリアナ、君に賭けた……」
「えっ……!?」
「君なら……君たちなら異変があれば動いてくれるだろうと。それに賭けた……」
ライアンは静かに微笑んだ。
「結果、こうして魔力炉の再封印ができた。だから……礼を言うよ、リリアナ」
「そんなっ……」
私は彼の言葉を聞いて、胸の奥が少しだけ痛くなった。
(ライアンは……一人でこの問題を解決しようとしていたんだ。なのにずっと疑ってた……)
「君は、俺の行動の邪魔したと思っているかもしれないが、気にしなくていい。俺も君たちを信じることが出来ていなかったからな」
「………………」
私はゆっくり首を横に振る。
「しかし今は人々のために行動をした君たちを信じている。だから、ありがとう」
「ライアンも……ここまでひとりで頑張ってくれて、ありがとう。これからは何かあったら私たちを頼ってよね」
「……あぁ」
ライアンの目がわずかに揺れた。
そして彼は、ゆっくりと微笑んだ。
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