第41話 魔力炉再封印
工房の奥にそびえ立つ魔力炉は、古びた石の台座に鎮座し、淡く青白い光を放っていた。壁には幾重にも魔法陣が刻まれ、封印を維持しようとする魔力が今にも崩れ落ちそうになっている。
微かな唸りが工房内に響く――それは、まるで魔力炉自体が何かを訴えているかのようだった。
私が返答に迷っていると、クラリスが考え込むように呟く。
「……この魔力炉の封印が崩れかけている影響って……北部の魔物の異常発生……あれも関係してるのかしら……?」
「可能性は高い」
ライアンが静かに答えた。
「魔力炉は王国全体に影響を及ぼすほどの魔力を供給する装置だった。だが、長年封印されていたことで、魔力の流れが不安定になっている」
ライアンは淡々と続ける。
「魔物は魔力の流れに敏感だ。長年抑えられていた魔力が突然揺らげば、彼らはその変化を感じ取り、暴走する。そして……その影響は今、王都にまで及びつつある」
「……っ!」
私は拳を握りしめた。
(じゃあ、今ここで魔力炉の封印を修復しなかったら……王都だけでなく、国全体が魔力の乱れに巻き込まれるかもしれない……)
(そうだ、迷ってる場合じゃない! 今目の前にある危機を解決しないと!)
「リリアナ……」
カイル様は落ち着いた声で言う。
「君が一人で背負う必要はない」
その言葉に、力み過ぎていることに気づかされ、私は少しだけ肩の力を抜いた。
「カイル様……」
(そうだ、私一人じゃない。仲間がついてる……よし!)
「……私たちで封印しましょう!」
私は強く宣言した。
「このまま放置すれば、もっと多くの人が危険にさらされる……だったら私たちでやらないと!」
「リリアナ……そう言ってくれると信じていたよ」
カイル様が微笑む。
「私もやるわ!」
クラリスが力強く頷く。
「お前がやるって言うなら、俺も手を貸すぜ」
シモンが拳を突き上げながら笑った。
「俺も手を貸そう」
ライアンも静かに言った。
「封印のためには、正しい魔力の流れを取り戻す必要がある。そのためには、お前の“膨大な魔力”が不可欠だ」
「うん……!」
「お前の魔法力は、通常の人間の何倍もの出力を持つ。そんな魔法力があれば、封印を上書きすることができる」
ライアンは工房の壁に手を当てる。
「だが、ただ魔力を流し込めばいいわけじゃない。きちんと“制御”しなければ、逆に封印が破壊される可能性もある」
「制御……」
私は息をのんだ。
(そうだ、私、魔法の制御が苦手だった……!)
「だから、君には“導き手”が必要だ」
カイル様がそっと私の肩に手を置いた。
「僕が魔力の調整をする。だから、君は自分の力を信じて、封印を修復することだけに集中すればいい
「カイル様……!」
(そうだ、カイル様と一緒なら……!)
私は深く頷いた。
「やります!」
――――――――――
それぞれが魔力炉の周りに立ち、集中する。
私は工房の中央に立ち、深呼吸をした。
「……いくわよ」
まずは封印魔法に長けたクラリスが両手を前に出し、魔力を解放する。
「《封印魔法――再構築!》」
クラリスの魔法陣を通じて私の魔力を流し込む。
「はぁぁ……!」
私の体から溢れる純粋な魔力が、魔力炉、そして工房の壁へと流れ込んでいく。
ライアンとシモンは私の魔力に振り回されそうになるクラリスを支えている。
「とんでもない魔法力よね、彼女……」
「ああ、まったくだ……」
「さすが、最高の悪役令嬢だよな!」
そして、私にはカイル様がついてくれてる。
カイル様が後ろからそっと手を添え、私の魔力を調整する。
「大丈夫、落ち着いて」
カイル様の声が耳元で響き、私は少しずつ魔力の流れを安定させる。
(これなら……いける!)
封印の魔法陣が再び輝き始め、工房全体に青白い光が満ちる。
封印が――修復されていく!!
「あと少し……!」
ゴゴゴゴゴ……!!
「っ!!?」
工房の床が揺れた。
「リリアナ!!」
クラリスが叫ぶ。
「こんのぉぉ……っ!!」
床が揺れていようがお構いなしに私は全力で魔力を注ぎ込む。
次の瞬間――
バキィィィィン!!
巨大な魔法陣の中心が、まばゆい光を放った――
「くっ……」
あまりの眩しさに目をつむる。
そして、ゆっくりと目を開けると……魔力炉は静かな石柱となっていた。
私はその場にへたり込んだ。
「……終わった?」
カイル様が魔力の流れを確認し、ゆっくりと頷く。
「封印は完全に修復されたようだ」
「リリアナ……やったわ!」
クラリスが駆け寄り、私を抱きしめた。
「ふぅ……これで一安心、ってことか?」
シモンが額の汗を拭う。
「いや、これで終わりではない」
ライアンが静かに言った。
彼の赤い瞳は、どこか遠くを見ているようだった。
「ライアン?」
私はゆっくりと立ち上がり、彼を見つめた。
ライアンはしばらく黙った後、低く息を吐く。
「……話すべき時が来た」
読んでいただきありがとうございます!
今回の話、面白いと感じたら、下の☆☆☆☆☆の評価、ブックマークや作者のフォローにて応援していただけると励みになります。
今後ともよろしくお願いします。