第3話 爆発から始まる学院生活
次の日――私の学院生活は、早速大きな波乱とともにスタートした。
「リリアナ、今日の魔法の授業、緊張してのるか?」
シモン・ベルモンド、リリアナ(私)の幼馴染であり、護衛騎士を務める彼は、朝から私の隣にぴったりと寄り添ってくれている。昨日の爆発事件の後、シモンはいつも以上に私の側にいると言っていた。
「うーん、緊張っていうか……とりあえず、また爆発しないように気をつけるしかないよね」
私は小さくため息をつきながら、心配そうな顔でシモンに答えた。
「ははっ! 昨日は確かに派手にやらかしたけど、大丈夫だって。今まではちゃんと隠してこれてたわけだ。それに、お前は俺が守ってやるから、安心しろよ!」
シモンは軽く笑いながら、私の頭をぽんぽんと叩く。私をからかうのが趣味みたいだけど、ゲーム中ではリリアナにとってはいつも頼りになる幼馴染だ。プレイヤーの私から見ても、たまにお調子者でムカつくこともあるけど、その分、彼がいると安心するのも確か。
「守るのはありがたいけど、爆発を止められるのは私だけだよ……」
私は苦笑いしながら肩をすくめた。実際のところ、昨日の魔法の大爆発を起こしたのは私自身だし、その力をコントロールできるのも私しかいない。シモンがどれだけ頑張って守ってくれても、暴走しちゃったらどうしようもない。
「ま、そうだけどよ。俺がそばにいれば、お前も少しはリラックスできるだろ?」
彼は冗談めかして笑っているけど、心の底では私を本気で心配してくれているのが分かる。シモンは小さい頃からずっと、リリアナのそばにいてくれた。一番の理解者だし、何があってもリリアナ(私)の味方でいてくれる大事な存在。だからこそ、彼に心配ばかりかけるのが申し訳なくて……。
「ありがとう、シモン。私も、できるだけ慎重にやってみる」
そう言って微笑むと、シモンも満足げに頷いた。
「その意気だ! よし、授業行くぞ! まずは、魔法の基礎訓練だな!」
シモンに引っ張られながら、私は学院の魔法訓練場へと向かった。気持ち的にはもう少し時間が欲しかったけど、授業は待ってくれない。何とか無事にこの日を乗り切ろう、そう自分に言い聞かせながら訓練場の門をくぐった。
訓練場に入ると、そこにはすでに生徒たちが集まっていた。大広間での爆発事件のせいで、みんなが私をちらちらと見ているのが分かる。そりゃそうだ、あんな派手にやらかした後だから、注目の的になるのも当然だろう。
でも、私の目に留まったのは、そんな生徒たちではなかった。
「リリアナ様、こちらに来てください」
冷静で落ち着いた声が響き渡った。振り向くと、そこには長身で美しい黒髪を持つエリオット・フェンリスが立っていた。学院屈指の天才魔法使いであり、昨日の爆発事件の後も私に興味津々だった人物だ。
「え、エリオット先生……?」
私は戸惑いながらも彼の元に歩み寄る。エリオット先生は相変わらず無表情で、何を考えているのか読み取れない。だけど、彼が私に何かを期待しているのは間違いない。
「昨日の件、非常に興味深く感じました。あなたの魔法の力は計り知れない。私としては、その力をもっと深く研究したいと思っています」
彼の冷静な言葉に、私はドキリとした。エリオット先生が「研究したい」と言っているのは、私の魔法力のことだ。普通の魔法使いには到底理解できないほどの強大な力を持っているのは自覚しているけど、それを研究対象にされるなんて少し不安だ。
「そ、そうですか……でも、私は普通に魔法の授業を受けていければそれでいいんです。研究とかは、ちょっと……」
「いえ、あなたの力は普通ではありません。今まで隠してきたその力、これからの授業で、どう制御するか学んでいくべきですよ」
エリオット先生の目は真剣だった。確かに、彼の言うことは正しい。私の魔法力をコントロールすることは、この学院生活を無事に過ごすために必須だ。それに、エリオット先生みたいな天才に指導してもらえるのは大きなチャンスでもある。
「わ、分かりました。できる限り頑張ってみます」
私は小さく頷いた。エリオット先生はその返事に満足したのか、静かに頷き返し、授業の準備を始めた。
授業が始まり、まずは基本的な魔法訓練が行われる。私は控えめに火の玉を出す練習をするつもりだった。昨日の爆発を思い出してしまうと、どうしても慎重になってしまう。
「では、リリアナ様、次はあなたの番です」
エリオット先生の指示に従い、私は前に出た。周囲の視線が一斉に私に集まる。昨日のことが頭をよぎるけど、今度こそ大丈夫なはず……多分。
私は息を整え、手を前に出して魔力を集中させた。少しだけ火の玉を作り出すつもりで――。
「それっ!」
小さく呟きながら魔力を放ったその瞬間――
ゴォォォォォォン!!!
「……え?」
巨大な火柱が訓練場の空に向かって吹き上がり、辺りは一瞬で熱気に包まれた。生徒たちは全員仰天して、その場で凍りついている。あ、またやっちゃった……。
「リリアナ様……やはりその魔力、想像以上です」
エリオット先生は驚きもせず、冷静に私の火柱を見上げていた。彼にとっては予想の範囲内だったのかもしれないけど、私はもう穴があったら入りたい気分だ。控えめにやろうと思ったのに、なんでまたこんなに派手になっちゃうの?
「ははっ、やっぱりお前は面白いな!」
シモンの明るい声が後ろから聞こえてくる。彼は私の背中を軽く叩き、励ますように笑っていた。
「まぁ、爆発しなかっただけマシだろ? これくらいなら、まだ可愛いもんさ!」
「可愛くないよ……!」
私は思わず顔を覆った。どうしてこうも無意識にとんでもない魔法を放ってしまうんだろう。制御するのがこんなに難しいなんて!
「次はもっと制御を意識していきましょう、リリアナ様」
エリオット先生の冷静な指導が耳に届く。やっぱり、私には彼の助けが必要だ。少しずつでも、この魔法をコントロールできるようにならないと……。
「うん、頑張ってみる!」
私は再び魔力を集中させ、今度こそ、慎重に火の玉を作り出すつもりで――
ゴゴゴゴゴゴ……
え、またヤバい音がする。次の瞬間――
ドカァァァーーン!!!
「……もう嫌だ……」
今度は訓練場の床に大きな穴が開き、周囲には再び熱気と煙が立ち込める。爆発こそしなかったものの、結局また大規模な魔法になってしまった。
これってどういうことなのかな……。リリアナは元々、強大な魔力を持っていてそれを隠していたらしい。でもゲームではそんな設定はなかった。私がリリアナになったことで設定が変わったみたい。今までコントロール出来ていたのは元々のリリアナの才能だったのかも?
「やっぱり俺がついてないとダメだな!」
シモンが楽しそうに笑いながら私を抱き上げて、ほこりを払ってくれる。彼の笑顔を見ると、少しだけ気持ちが軽くなった。
「……ありがとう、シモン。でも次は、本当に慎重にやらせて」
私は苦笑いしながら、また魔法の練習に向けて気合を入れるのだった。
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