第29話 また黒い霧? とりあえず正体を追う!
「まさか……また敵が出るのか?」
シモンが警戒するように剣の柄を握る。
「現時点では何とも言えんが、可能性はある」
エリオット先生が腕を組みながら、厳しい表情で言う。
「学院の結界は正常に作動しているはずです。でも、この黒い霧……結界がなにか影響を受けているような感じがします」
クラリスが魔力を探るように、慎重に呟いた。
私は眉をひそめながら、霧をじっと見つめる。
黒い霧の騒動は以前にもあった……。
みんなもそのときのことを思い出しているはず。
「……ヴァレンティスが使っていた“古代魔法”に似ている?」
思わず呟いた瞬間、カイル様の表情がわずかに険しくなった。
「君もそう思うのか。確かに、あのときの魔力に似ている……けれど、何かが違う」
「違う?」
「これはもっと……乱雑というか、不安定な感じがする」
(……確かに、ヴァレンティスの魔力はもっと冷たく、静かで洗練されていた。でも、これは……)
「まるで、制御できていない魔力みたい」
「……!」
クラリスの指摘に、全員が静まり返った。
「とにかく、調べてみるしかないな」
幸いなことに黒い霧は学院の結界の中には侵入してきていない。
しかし、このまま結界に負担をかけ続けるのは危険。
私たちはエリオット先生に連れられ結界の管理室に向かった。
――――――――――
「ルーンフォレスト?」
管理室に集まった私たち――カイル様、シモン、クラリス、エリオット先生は、グレイア学院長の話を聞いていた。
「そうです」
学院長は深く頷く。
「ルーンフォレストは王国によって厳重に管理されているダンジョンです。外部からの立ち入りは制限されており、特別な許可がなければ中に入ることはできないようになっています」
「では、黒い霧の影響はダンジョンの内部から……?」
クラリスが恐る恐る質問する。
「そうです、黒い霧はルーンフォレストから溢れていると報告がありました」
そして、学院長は地図を指し示しながら続けた。
「ルーンフォレストの奥には“蒼穹のルーンストーン”が悪用出来ないように封印されています。この聖遺物は王都の結界を安定させる役割を持ち、古くから王国によって管理されてきました」
「蒼穹のルーンストーン……」
私はその名前を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。
(ゲームと同じ……!?)
ゲーム「エターナル・ロマンス」では、ルーンフォレストの最深部には王都の結界を強化する「蒼穹のルーンストーン」が安置されていた。
そして、その力を奪おうとしたのが亡霊の魔導師ヴァレンティスに操られた魔将ライアン・ランツァだった。
(でも、この世界にはヴァレンティスはもういない。ライアンも操られていない。じゃあ、誰が狙ってるの……!?)
「聖遺物が関与している以上、ダンジョン内で何者かが活動している可能性は否定できない」
学院長の言葉に、カイル様が頷く。
「つまり、ルーンフォレストの異変を調査し、誰が蒼穹のルーンストーンを狙っているのかを突き止める必要があるわけですね」
「その通りです。あなたたちには王国の調査隊と合流し、この件を調べてもらいたい」
「承りました、学院長」
エリオット先生が返答すると、みんなも同意した。
「くぅ~、やる気出てきた! またこのメンバーで冒険が出来るなんてワクワクするぜ!」
シモンの高いテンションにつられて暗かったみんなの顔も明るくなった。
こういうときにシモンのようなムードメーカーの存在は大きい。
――――――――――
こうして私たちはルーンフォレストへと向かうことになった。
ルーンフォレストの入り口に到着すると、そこには王国の紋章が刻まれた大きな門がそびえ立っていた。
この門こそ、ダンジョンを守る重要な障壁。
しかし黒い霧は障壁に関係なく森の周囲にあふれていた。
門の前には、すでに王国の調査隊が集結している。
「カイル王子、ご到着をお待ちしておりました」
騎士団の隊長らしき人物がカイル様に敬礼する。
「状況は?」
「門に異常はありません。しかし、森の奥から異常な魔力が流れ出しており、周囲の環境に影響を及ぼしています」
「やはり……」
カイル様は険しい表情を浮かべる。
「リリアナ、どう思う?」
突然問いかけられ、私は一瞬戸惑った。
「封印が緩んでいる可能性があります。もし誰かが蒼穹のルーンストーンを狙っているとしたら……」
私は慎重に言葉を選ぶ。
「それを手に入れれば、王都の結界に影響を与えられる。つまり、王都を弱体化させることができるわけです」
「そうだな……」
カイル様が顎に手を当て、思案顔になる。
「しかし、誰がそれを狙っているんだ?」
シモンが鋭く問いかける。
「……そこが問題なのよね」
私は困惑しながら答えた。
(ヴァレンティスでもライアンでもない……)
「可能性としては、王都を弱体化させたい者、あるいは強大な魔力を求める者、ですよね……」
クラリスが冷静に分析する。
「いずれにせよ、ダンジョン内部を調査しなければならないな」
エリオット先生が判断を下し、私たちはダンジョンの内部へと進むことになった。
ダンジョンの中へ――
ルーンフォレストの内部は、濃い霧に包まれていた。
「視界が悪いな……」
シモンが剣を握りしめる。
(ゲームでは、このダンジョンは入るごとに地形が変わる仕様だった……もし現実でもそうなら、普通に進むのは難しいかも)
「このダンジョンはルーンストーンを守るために特殊な魔法が掛けられていて、道に迷いやすくなっているのよね……」
「君はずいぶんと詳しいな」
カイル様が不思議そうに私を見つめる。
「えっ、それは……えっと……書物で読んだことがあって……!」
私は慌てて誤魔化した。
「じゃあ、その魔法を解いてもらって、とっととルーンストーンのところに行くってのは……?」
シモンの疑問ももっともだけど……
「それこそが敵の狙いかもしれませんよ! 敵もルーンストーンを狙っているわけですし」
クラリスがビシッと答えてくれた。
「なるほどなぁ。となると、王族のカイル様が頼りか」
「いや、さすがにこのダンジョンの道順まではわからない。調査隊にもわかる者はいない」
「そうなのかぁ」
「……リリアナ、こういうときは君の知識が役立つ。案内を頼みます」
エリオット先生が優しく微笑む。
(うっ……ここでその笑顔はちょっと鬼畜が入ってませんか? さすがにゲームの知識があるなんて思ってもないはずだけど)
そんなことを思いつつ私は気を取り直し、慎重に前へと進んだ。
「とにかく、このまま調査を続けましょう」
「その通りだ」
カイル様が頷き、私たちはダンジョンの奥へと足を踏み入れることになった――。
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