第27話 そんなことより魔法の勉強です!
「ねえ、知ってる?」
「もちろん! 王宮の舞踏会で、リリアナ様とカイル様の仲が急接近したって噂!」
「でも、それだけじゃないのよ。あの“紅の剣士”ライアン様もリリアナ様を狙っているとか……!」
「えええっ!? 二人の殿方が一人の女性を巡って……!?」
――そんな楽しげな囁き声が、学院の廊下のあちこちで飛び交っていた。
私は噂話を片耳で聞きながら、教科書を取り出し授業の準備をする。
(……あれれ、何その妙に盛り上がったストーリーは! 私の知らないところでラブコメの主人公になってません!?)
三角関係とかマンガで読む分には楽しいけど、実際の当事者になってみると大変……って、私はライアンのことはゲームのラスボスだから気になってるだけだし!
「おや、リリアナ。朝から賑やかだね」
涼やかな声が響き、視線を向けると――カイル様が優雅に歩いてきた。
銀色の髪が朝の陽光を浴びて輝き、碧い瞳は穏やかに微笑んでいる。
カイル様の登場に、廊下の生徒たちは一瞬で静まり、その後、一斉にときめきの波が広がる。
「カ、カイル様……!!」
「今日もなんてお美しい……!」
「リリアナ様が羨ましいわ……!」
私は心の中で「ふふっ、そのイケメンは私の婚約者ですわ!」と悪役令嬢っぽく振る舞ってみた。
正直、突如としてカイル様に正ヒロインルートへの可能性が出てきてしまったことへの不安の裏返しではある……。
「リリアナ、君があの男のことで悩んでいないか気になってね」
「いえ、そんなことより魔法の勉強です!!」
私の即答に、その場の全員がぽかんとした。
「……ん?」
「婚約のことよりも、もっと大事なことがあるんです!!」
「もっと大事なこと……?」
「そうです! この強すぎる魔法力を制御するための勉強です!!」
私は胸を張り、きっぱりと宣言する。
「私はもっと強くなりたいんです!」
学院の生徒たちは一瞬静まり、それから――
「リリアナ様……! なんて凛々しいお言葉!」
「恋愛よりも魔法! かっこいいですわ!」
「まさに“戦う貴族令嬢”ね!!」
(え、そんなことで称賛されるの!?)
カイル様は小さく笑い、私の肩をぽんっと軽く叩いた。
「……君らしいね」
(うっ……なんか、その言い方、ちょっとドキッとする……)
そんな話をしているとクラリスが声を掛けてきた。
「リリアナ、あなたのその考え方、私は好きです」
彼女は魔法書を片手に持ちながら、静かに私の隣に立つ。
「恋愛のことで頭を悩ませるくらいなら、もっと魔法を磨きたいですよね!」
「さすがクラリス、分かってる!」
私は嬉しくなって、思わず手を握る。
クラリスは笑顔で私の手を握り返す。
「一緒に頑張りましょうね、リリアナ!」
かつては敵対したこともあった正ヒロインのクラリス。
ゲームと違い、悪役令嬢リリアナこと私とも仲が良く、カイル王子とのフラグは立っていないように見える。
今の彼女はこの世界のクラリス・エルフィンであり、彼女自身の人生を歩んでいる。
これまで自分のことばかり考えていたけど、彼女のことも気にかけてあげたほうが……ってそれはさすがにお節介かな。
「でも、本気で魔法を極めたいなら、もっと特訓するべきよね」
クラリスは魔法書を開きながら笑顔で続ける。
「今日は学院の演習場で一緒に練習しましょう!」
――――――――――
その日の午後、クラリスと一緒に学院の演習場に着くと、そこにはエリオット先生とシモンの姿があった。
「おや、リリアナ。また何かやらかしたのか?」
シモンが腕を組みながらニヤリと笑う。
「違うって! やらかさないように魔法の勉強をするの!」
「ほう、リリアナ。それはいい心がけだ」
エリオット先生が満足そうに頷いた。
「貴族たちから君に関する噂を耳にしていたが、その様子なら問題なさそうだな」
「当然です!」
エリオット先生も私の貴族令嬢としての立場を心配してくれていたのかな……。
余談なのだが、エリオット先生からは以前は貴族階級が上ということで“リリアナ様”と呼ばれていた。しかし、ヴァレンティスを倒してからは仲間と認識されたおかげか“リリアナ”と呼び捨てになっている。
先生に“様”を付けられるのはちょっと違和感があったから、呼び捨ては正直助かっている。
「では、今日は“複数属性の融合魔法”を練習しよう」
「えっ、普段の授業より高度すぎませんか!?」
「魔法を極めるには、常に挑戦することが大事だ。そして高みに至った君の魔法を私は見たい」
あ、やっぱりエリオット先生は私の立場じゃなくて、魔法の練習を真面目にやるかが心配だったのかも……。
でも……!
「やります! 習得してみますよ!」
カイル様、クラリス、シモン、エリオット先生――
みんなが私を支えてくれている。
私は私なりのリリアナとしての生き方をする。
そう再度決意をした。
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