第24話 黒と紺を基調にしたロングジャケットを纏う長身の男
後日、朝――
「リリアナ、顔色が優れないようだが、大丈夫か?」
あの日、王都の市場でライアンと再会したあと、私はずっとあの男が気になっていた。
「えっ!? い、いえ、大丈夫です!」
慌てて否定すると、カイル様はじっと私の顔を覗き込んでくる。
柔らかな陽光が彼の銀色の髪を照らし、微風がふわりと前髪を揺らす。
その碧い瞳が私を捉え、吸い込まれそうになる。
――ちょっ、近い、近い!!
「本当に? 君、さっきからずっとそわそわしてるけど」
「そ、それは……! その、ライアンが王都にいることが意外で……!」
私が必死に誤魔化すと、カイル様は小さくため息をついた。
「彼のことがそんなに気になるのか……」
そう小さく呟く彼の表情は、どこか険しい。
――――――――――
その夜、なんとなく落ち着かない気持ちのまま眠りについたが、翌朝――
「リリアナ様! 王宮にとんでもないお客様がいらっしゃいました!」
朝食を終えたばかりの私の元に、王宮の侍女が駆け込んできた。
「えっ、どなたですか?」
「それが……! あの“紅の剣士”と噂されているライアン・ランツァ様が、正式に王宮に招かれたのです!」
「――!!?」
「さらに、リリアナ様とお話しをしたいとのことでしたので、至急お伝えに参りました!」
目の前にしていた紅茶のカップが、手の中でわずかに揺れる。
ライアンが……王宮に!?
――――――――――
王宮の大広間――
貴族たちは、色とりどりのドレスや刺繍が施された燕尾服を纏い、まるで舞踏会のような雰囲気を醸し出していた。
そして、その中心に立っていたのは――
黒と紺を基調にしたロングジャケットを纏う長身の男。
深紅の瞳が静かに細められ、艶のある漆黒の髪が肩にかかる。
彼は貴族たちの視線をものともせず、堂々とした佇まいでその場に立っていた。
「ライアン様、本当におひとりで北部の魔物を討伐されたのですか?」
「ライアン様、ご出身はどちらなのです?」
「剣の指南をお願いできませんか?」
令嬢たちは彼を囲むように群がり、まるで彼が王宮の新たなアイドルになったかのようだった。
――えっ、なにこれ!? 婚活パーティー!? 今夜は晩餐会って聞いてたけど、時間にはまだ早くない!?
私は心の中で叫びながら、ゆっくりとライアンの方を見た。
すると、ふと彼の視線がこちらに向けられる。
私はそのまま目が離せなかった。
「リリアナ?」
「!!」
深紅の瞳がじっと私を見つめる。
その瞳は、まるで炎を宿しているようで、吸い込まれそうなほど鮮やかだった。
――えっ、ちょ、近い!!?
気づけばライアンはするりと令嬢たちの間を抜け、私の前に立っていた。
貴族たちのざわめきが、一気に増す。
「な、なんでしょうか……?」
思わず後ずさる私の手を、ライアンは軽く取った。
「久しぶりだな、リリアナ」
「い、いや、久しぶりっていうほど時間経ってないですよね!?」
「そうか? 俺には随分と長い時間に感じたが」
低い声で囁かれ、心臓が跳ねる。
――なにこの王宮での公然イケメンムーブ!!?
「………………」
その光景を、カイル様がじっと見つめていた。
「ライアン、君はなぜ王宮に?」
カイル様が私の隣に立ち、冷静な声で問いかける。
その碧い瞳には、隠しきれない鋭い光が宿っていた。
「貴族の一部が俺に興味を持ち、招待してきたからな」
ライアンは肩をすくめ、軽く微笑む。
「君はこの国に興味を持ったのか?」
「さあな。ただ、ひとつ確かなことがある」
ライアンは、わずかに微笑みながら、私の手を軽く握った。
「俺の興味の対象は、すでに決まっている」
「……っ!」
貴族令嬢たちの間にどよめきが広がる。
「……ライアン、あまり不用意な発言は控えた方がいい」
カイル様が険しい表情で言う。
「ふむ。俺はただ、事実を述べただけだが?」
ライアンの深紅の瞳が、まるで楽しんでいるかのように細められる。
そして、私の手に視線を落としたまま、彼はふっと微笑んだ。
「リリアナ……君の手は柔らかいな」
「えっ……!?」
その言葉と共に、彼の指が私の手の甲をそっと撫でる。
「ちょっ、ちょっと!! いきなり触らないでください!!」
慌てて手を引くが、周囲の貴族たちの視線は熱を帯び、カイル様の表情はますます険しくなる。
「ライアン……王宮での発言は慎重にした方がいい」
「忠告、感謝するよ」
ライアンは軽く微笑むが、その目はまったく悪びれていない。
(ちょ、ちょっと待って……なんか、すごくやばい雰囲気なんですけど!?)
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