第23話 最強の旅人になっていたラスボス
馬車の車輪が石畳を響かせながら、王都の城門をくぐる。
「やっと戻ってきたな!」
シモンが伸びをしながら、大きく息をついた。
私もほっと息を吐く。トリア村へ行ってから、想像以上のことがあった。
本来なら魔物討伐の援軍として行ったはずが、結局ライアン・ランツァという謎の旅人と遭遇し、彼が魔物を一掃したことで事態が終息してしまった。
「リリアナ、大丈夫か? 疲れていないか?」
カイル様が気遣うように私を覗き込む。
優しい眼差しに、思わず心臓がドキッと跳ねた。
「い、いえ! 大丈夫です! ちょっとびっくりしただけで……」
「びっくり?」
「……その、まだ色々と整理がつかなくて……」
ヴァレンティスを倒してから王都は平和だった。
でも今回、ライアンというゲームのラスボスだった男が現れたことで、また違う何かが動き出しそうな気がする――。
「とにかく、まずは王宮に戻って報告しよう。ライアンについての情報も整理しなくてはならないな」
カイル様がそう言って、私たちは王宮へと向かった。
――――――――――
「なるほど……ライアン・ランツァという男が、トリア村で魔物を討伐したと」
王宮に戻ると、すぐに国王陛下への報告が行われた。
厳格な空気の中、カイル様が落ち着いた口調で説明を続ける。
「陛下、一人で全ての魔物を討伐したのは事実のようで、そのライアンという男は尋常ではない強さを持っています」
カイル様の横顔は普段よりも引き締まり、まるで鋭利な刃のような雰囲気を纏っている。
「そんな強者が王国を訪れているとなると……少し気にかかるな」
宰相が深刻そうに眉をひそめると、王宮の空気が一層重くなる。
「ですが、今のところ彼に敵意は見られませんでした」
私は慌てて付け加える。
「むしろ、彼はただ旅をしているだけのようでしたし……」
「本当にそれだけだといいのだが」
国王陛下は腕を組み、しばし沈黙する。
「……現時点では静観しよう。ただし、彼が王都に入ったとの報せが届いた場合は、注意を払うように」
「はっ」
カイル様と宰相が頷く。
報告が終わり、国王陛下が退室すると、カイル様は私と向き合った。
「リリアナ、君は彼と接触した際、何か気になることはなかった?」
「えっ、気になること、ですか……?」
一瞬、ライアンが手の甲に口づけしてきたことを思い出し、心臓が跳ねる。
(や、やめて、私! あれはただの異文化的な挨拶だから!)
「特にありません!!」
勢いよく否定すると、カイル様が不思議そうに私を見つめた。
「……そう?」
「は、はい!!」
――あの時の記憶を思い出すだけで、なんか体温が上がる!!
――――――――――
王都に戻り、数日が経った。
私はいつもの学院生活に戻り、友人たちと授業を受けながら、少し落ち着いた日々を送っていた。
「ねえ、リリアナ、聞いた?」
ある日の昼休み、カイル様と昼食を食べているとクラリスがそっと私の隣に座り、何かを囁く。
「な、何を?」
「王都にすごい旅人が現れたって噂よ!」
「……すごい旅人?」
「北部で魔物を一掃した剣士が、ついに王都に来たらしいの!」
「――!!」
私は思わずスプーンを落としそうになった。
「ちょ、ちょっと待って……それって、もしかして……」
「ええ、たぶんあなたたちが北部で会ったっていう、ライアン・ランツァとかいう人じゃないかしら?」
「なぜそんな噂が?」
カイル様が少し険しい顔をしてクラリスに問いかける。
「最近、貴族の間で話題になっているのよ、『信じられないほど強い剣士がいる』って」
「……いつの間にそんなことに」
私は思わず額に手を当てる。
(ライアン、目立たないようにしてるかと思ったのに……)
「それにね、王宮にも何人かの貴族が、『その剣士を呼んでみてはどうか』って話を持ちかけてるらしいわ」
「………………」
カイル様は表情を引き締めなにか考えているようだった。
――――――――――
「いや、ホントにいたわ……」
翌日、私たちは王都の市場を見てまわっていた。
すると、人だかりの中に、見覚えのある漆黒の髪を持つ男がいた。
「……ライアン」
「ふむ、また会ったな」
彼は相変わらずの落ち着いた雰囲気で、私たちに微笑む。
夕日が彼の横顔を照らし、影を作る。その鋭い瞳が私を捕らえた瞬間、まるで私だけを見つめているような錯覚に陥る。
「君が王都に来るとは思わなかったよ」
カイル様が冷静に言葉を発する。
「王都の貴族連中から声を掛けられた……というのはどうでもいい。彼女の様子を見にきた」
ライアンはさらりと言う。
「………………」
カイル様はライアンをじっと見つめる。
「君がなにを考えているかは知らないが、この国に敵意を持たないことを願うよ」
ライアンは私を一瞥し、ふっと微笑む。
「さて、どうだろうな」
その意味深な笑みに、なぜか胸がざわついた。
――これから、王都はさらに騒がしくなりそうな予感がする。
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