第21話 悪役令嬢、王国の英雄になったら求婚が止まりません!?
第1部(第1話~第20話)57,000文字。
第2部(第21話~第43話)45,000文字。
「リリアナ様! 学院の生徒たちが、ぜひ魔法の指南を受けたいと!」
「リリアナ様! 王宮から、次の晩餐会へのご招待が――!」
「リリアナ様! 侯爵家の次男から婚約の申し出が届いております!」
――え、なにこれ? 私ってこんな人気者だったっけ!?
(てか最後のはダメでしょ、私これでも王子の婚約者なんだから!)
王国の危機を救ってから数日。私はすっかり「王国の英雄」として持ち上げられるようになってしまった。
いや、確かに「亡霊の魔導師ヴァレンティス」を倒したのは私だけど、仲間と協力して頑張った結果だし、私は魔法がちょっと強すぎただけで――。
「……いや、やっぱりすごいことか」
冷静に考えたら、私がやったことは「ゲームの隠しダンジョン攻略」みたいなものだった。そりゃあ、周りが騒ぐのも仕方ないのかもしれない。
学院でも「リリアナ様!」と声をかけられることが増え、貴族たちの間では「ぜひともお近づきになりたい!」なんて話が出てきている。
しかも最近は――
「リリアナ様が次期王妃に相応しいのでは?」
――いやいや、待って!?
たしかに私ことリリアナはカイル王子の婚約者だけど、ゲームでは正ヒロインのクラリスとくっつくわけで……でも今は私とカイル様はイイ感じの仲……だよね?
ちょっと、そこに座ってる金髪碧眼の王子様、聞いてます!? そもそもカイル様、王子なのに何も言わないんですか!?
「リリアナ、最近ずいぶんと人気者だね」
昼下がりの学院の庭。バラが咲き誇る庭園のベンチに腰掛けていると、いつの間にかカイル様が隣に座っていた。
彼の銀色の髪が柔らかな日差しを受けて輝き、その碧い瞳がじっと私を見つめてくる。
「はは……まぁ、そんな感じですね」
――なんかちょっと不機嫌そうなのは気のせい?
「君、他の男と婚約話が出てるのに、ずいぶんとのんきだね」
「いや、そんなこと言われても……!」
「僕としては面白くないんだけど」
――え!?
一瞬、脳がフリーズする。
カイル様の言葉を頭の中で反芻してみるけど、やっぱり「面白くない」と言われた。
「え、えっと、それって……?」
思わず聞き返すと、カイル様はふっと微笑んで、私の顔を覗き込んできた。
「ねえ、リリアナ。そろそろ僕のそばにいるって、はっきり言ってくれない?」
――っ!!
ま、待って!? 何いきなり!?
その言い方、ズルくない!? てゆーか、急に距離詰めてくるじゃん!?
「ちょ、ちょっと待ってください! いきなりそんな……!」
「あれ? もしかして、僕ではダメなのか?」
「いや、そ、そういうわけじゃないんですけど!」
カイル様は私が赤くなるのを楽しんでいるみたいに、クスッと笑った。
「じゃあ、ちゃんと考えてね」
そう言うと、彼はそっと私の髪を一房すくい、指先で弄ぶ。
「……えっ、ちょっ」
――だめだ、心臓がもたない!!!
私はそんな平和(?)な日常を過ごしていた。
――――――――――
――ある日。
「リリアナ様、至急です!」
学院の教師が息を切らしながら私の元へ駆け寄ってきた。
「王国北部のトリア村で、強力な魔物が出現し、討伐隊が苦戦しているとのことです!」
魔物!?
「急ぎ、援軍が必要です! リリアナ様、どうかお力を――」
「行きます!」
即答すると、カイル様とシモンがすぐに駆け寄ってきた。
「リリアナ、一人で行くつもりか?」
「いやいや、一人は危ないだろ! 俺も行くぜ!」
私たちは急ぎ馬車を用意し、北部へと向かった。
――――――――――
王国北部・トリア村
到着した村の様子は、まるで戦場のようだった。
倒れた建物、焦げた地面、魔物の死骸がそこかしこに転がっている。
「……遅かった?」
村が壊滅したのかと思ったけれど、村人たちが無事なことにすぐ気がついた。
傷を負っている人もいるけれど、みんなで協力して助け合っている。
戦いの余韻が残る空気の中、私は思わず息をのんだ。
「……ちょっと待って」
何かがおかしい。
この魔物の死骸――規模的に、討伐隊がやったとは思えない。
ということは……。
「お前たちか。援軍というのは」
低く、落ち着いた声が響いた。
振り向いた先には、長身の男が立っていた。
赤い鎧を纏い、剣を肩に担ぎ、漆黒の髪が風になびく――。
見覚えが、ある。
というか、ゲームで散々見た、見慣れた姿。
「……魔将ライアン・ランツァ!?」
「……俺の名を知っているのか?」
ライアンは静かに眉を上げ、私をじっと見つめる。
「いや、えっと……」
どうしよう、ゲーム知識とは言えない!
でも、この人、本当にライアン・ランツァなの!? ゲーム本編のラスボスとして登場した、あの!?
「リリアナ、誰だこいつ?」
シモンが訝しげにライアンを睨む。
カイル様は一歩前に出て、ライアンを警戒しながらも冷静に言葉を発した。
「君が、この魔物を討伐したのか?」
「……ああ。こいつらは、俺が片付けた」
さらりと言い放つライアン。
――待って、この人、敵じゃないの!?
私は混乱しながら、目の前の男を見つめた。
ゲームでは王国を混乱に陥れるラスボス。実は隠しボスのヴァレンティスの術にかかっていて、操られていたという設定があるんだけど……。
(あの様子……操られていない……?)
今ここにいる彼は――ただの旅人のように見えた。
「興味深いな」
ライアンはゆっくりと私に歩み寄ると、不敵に微笑んだ。
「お前、かなりの魔法力を持っているように見える。――面白い女だ」
――まさか、また『面白い女』認定!?
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